#浬玖ZS弐　ssのみ

浬玖 @Riku_in_W

【19.2】鞄はすぐに立て直したものの落ちた食糧を諦めきれずに橋を回り込んで岸におりる。さすがに水没した食糧の回収は無理だったが改めて見ると綺麗な川だ。一休みしていくことに決めた。そのまま岸部を歩いていくと同じように休憩している人に気がつく。なんとなく見覚えがある。 #浬玖ZS弐

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【19.3】傍らに置かれた武器を見てライフルをくれた人だと確信した。いちど交流があるので大して警戒せず近付いて話しかけるとどうやら食糧に困っているようで、少し話して相手の日本刀とこっちの食糧を交換することになった。ライフルは手放さねばならないが接近戦の方が性に合う。 #浬玖ZS弐

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【20】今日は雨が降っており雨具を持たない自分は動けない。幸いきのうは野宿ではなく廃屋をねぐらとし家屋内にゾンビがいる気配もなかった。探検しに行ったガキどもを放っといて日本刀を鞘のまま構えたりしていると、やがて戻ってきたふたりは得意そうに見つけた食糧を並べてみせた。 #浬玖ZS弐

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【21】視界が開けてうら寂しい沼地に出た。鴉がぎゃあぎゃあと鳴きながら一点に集まっている。近付いていくと一斉に飛び立ち黒い羽根が舞った。密集した背の高い草でよく見えないがあれは人の死体だ。全容を見たいとは思わないし今更何が出来る訳でもないので視線を伏せて通り過ぎた。 #浬玖ZS弐

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【22】唐突に覚醒した。熾火を前に野宿していた。まだ夜明けが遠い中、焦点の合わない目でぼんやり周囲を見渡したところで黒い影がすぐ傍まで迫っていることに気づき日本刀を掴んで跳ね起きる。急に動いた所為か敵が一気に襲い掛かってきてくるのをどうにか避け、刀を構えて対峙した。 #浬玖ZS弐

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【23】わらわらとゾンビが溢れ行く手を塞いだのを取り敢えず睨む。やけに多い。突破は流石に無理と判断し横路に飛び込んだがそこにもゾンビ。そうやって避け続けるうちに誘導されているのかと思い当たった。…どこに？　とにかくやはり逃げてばかりなのは嫌だ。どこかで突破しよう。 #浬玖ZS弐

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【24】休憩中に研究者を名乗る男がにこやかに近付いてきた。良い天気ですねから始まり勝手に隣でべらべら話す。適当に右から左へ流していると不意に声を潜め提案してきた。――あの子たちは放っといて私と組みませんか…邪魔なんでしょう？―― お前よりはマシだと鼻で笑ってやった。 #浬玖ZS弐

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【25】簡単な市が立っていた。布を広げて物々交換らしい。歩きつつ見ていると前方で騒ぎが起こり顔を上げる。ゾンビではない事を確かめてから近付くと、数人で恰幅の良いおっさんを囲んでなんというか、まあカツアゲだ。加わるほど困窮していないし助ける気もなくすぐに興味を失った。 #浬玖ZS弐

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【26】ビルに役所と銘が入っているのに気づき書類を漁ればこの辺の地図でも見つかるかもしれんと思った。だが幾らも経たないうち廊下でゾンビの大群とばったり鉢合わせ。使った階段はすぐそこだが敵の背後で既に遠い。ガキどもに「離れんなよ」と命令し日本刀を抜き放って突っ込んだ。 #浬玖ZS弐

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【27】きのうの戦闘でだいぶぼろぼろになったので薬を求めて廃病院に侵入する。薬品棚を物色していると背後でカタッと音がして即座に身構えるがゾンビではなく人だった。白地に赤い十字の腕章を付けた同年代の女だ。ひとりで行動するのは寂しいなどと言ってくるが知ったことではない。 #浬玖ZS弐

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【28.1】ねぐらを探して人気のないビル街を歩く。荒れたコンクリの中では快適な場所というのがなかなか見つからない。やがてだいぶ暗くなった頃、わりと綺麗なままのHIACEを見つけて近寄った。見る限り後部ドアが半開きで中に入れるし座席もちゃんとしたのが残っているようだ。 #浬玖ZS弐

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【28.2】条件の良い物件にはだいたい先客が居るもので、誰か居ますかねなどと適当に声を掛けて覗いてみた。シンとしたままなのでこれはキタと思ったのだが次の瞬間座席の後ろに伸び上がる黒い影。ゾンビが車に乗ってんじゃねえ。だがしかしこいつを倒してしまえば車で寝れるわけだ。 #浬玖ZS弐

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【29】未だビル街である。錆びた看板群の合間にアウトドア専門店の文字を見つけて建物に入ってみたが皆考えることは同じなのかまったく何も残っていない。奥の事務所や倉庫も似たり寄ったりで、唯一双眼鏡を拾ったが今の状況では必要性を感じないので適当にその辺に放り出した。 #浬玖ZS弐

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【30】誰もいない花屋の店舗から溢れんばかりに植物が成長を遂げていた。誰も世話しねえしなあと思いつつ通り過ぎようとしたが、腕を引かれ目を向けると蔦が不自然に絡みついている。剪定されないのではなくゾンビ化して盛っているようだ。ナイフを取り出し絡みついた蔦を叩き切った。 #浬玖ZS弐

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【31】ビル街の外れに佇むのは研究所だったがここも等しく荒れている。ガキの片割れが何か薬品を見せてきたがそんな訳の解らない薬を拾うな。二階の窓からふと外に目をやったとき、眩しい空を背景に機影が悠然と横切っていった。未だ地を這い回る以外の移動法が残っていたとは驚きだ。 #浬玖ZS弐

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【32】自身を顧みると戦闘で負った傷があちこちに開きいつの間にか満身創痍で動きが鈍いがまだ死ぬ気はない。やがてビル街をようやく抜けて住宅地に入った。小さなスーパーで油を見つけるのはなんとなくデジャヴだがだからといってどうなるわけでもない。 #浬玖ZS弐

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【33.1】手強いゾンビ数体と遭遇し、敵の注意がガキどもに向かぬよう立ち回るうちに戦闘の場はボロい民家に移った。刀を構え音を立てて踏み込むと同時に床が抜け大きく体が泳ぐ。足を捕らわれたそこにゾンビが突っ込んできて応戦するも捌ききれず、頭に一撃食らって意識が遠退いた。 #浬玖ZS弐

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【33.2】……目を覚ますと区切られた天井が見える。軋む体を無理やり動かして起き上がるとそこはカーテンに囲まれたベッドの上だ。片手で髪を掻き回し記憶を辿っていると、カーテンの隙間から顔を出したガキどもが騒ぎ出し、奴らを叱りながら白衣の人間が現れた。ここは、病院か。 #浬玖ZS弐

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【34】厳しい顔付きの医者に睨まれたので暫く大人しく寝ていたが隙を見て抜け出した。再び戻るつもりであり武器だけ持ってガキどもも連れず何とも身軽だ。以前の病院とは違うのか景色に見覚えがない。ふらりと入ったレストランで調理キットを見つけいじってみたが使えそうになかった。 #浬玖ZS弐

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【35.1】本当はあまり動いていい傷ではないらしくきのうは病院に戻ったあと暫く医者の氷点下視線に晒されたのだが、今日は退院したいんですがと持ちかけると完全に本気の真顔で死にますよと断言された。承知の上だ。だから、声を潜めて頼んだ。――あいつらを、任せて良いですか―― #浬玖ZS弐

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【35.2】見つからぬよう手早く荷を纏め病院を後にする。入院中の弱った姿は見せたくないし、強がってる俺に付いてくるなら巻き添え食って死なせる可能性が高い。こっちの死期が近くてもあいつらまで死ぬことはないのだ。……ふと、あー名前呼んだことなかったなあと思い出した。 #浬玖ZS弐

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【35.3】やがてひとりシンとしたまま道行くなか、ライフルを抱えた迷彩服の死体を見つけた。近寄って拾い上げる。以前持っていたのとよく似たタイプで同じように使えそうだ。有り難く頂戴することにして、死体を後ろに通り過ぎつつ騒がしくないから気が紛れねえなあと思った。 #浬玖ZS弐

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【36】くるくると落ちていくライフルをどうすることも出来ずに見送った。住宅街にひとつだけ聳えるビルの、外階段の上である。途中から手すりがないなんて安全基準はどうなってんだ。この高さから落ちれば少なからず損傷するだろうし、知識を持たないので修理も出来ず諦めるしかない。 #浬玖ZS弐

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【37】奇襲を食らって飛び退くと相手の鉄パイプがコンクリとぶつかり耳障りな音を立てた。武器を持った人間が次々と涌いて食糧を寄越せと言う。今の自分を鑑みて、ついに狙われる方へ堕ちたかと思ったがそう見られたとしても簡単に屈するつもりはない。まずは鞘のまま日本刀を構えた。 #浬玖ZS弐

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【38】襲われればその時ばかりは全力で抵抗するもののそもそも無茶できる体調ではないので興奮が切れるとだいぶ辛い。殆ど崩れた建物に「病院」の字を見て取り、一縷の望みを掛けて瓦礫を分け棚をひっくり返すが見つけたのはゾンビ治療薬のみ。そんなもの今の自分には役に立たない。 #浬玖ZS弐