ドイツが最終処分場問題で理性を取り戻した日

ドイツの最終処分場候補地選定の経緯に関する、環境ジャーナリスト・コンサルタントの村上敦さんの解説をまとめました。
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村上 敦 @murakamiatsushi

先週はドイツで、歴史的な発表がありました。高レベル核廃棄物の最終処分場としての候補地「ゴアレーベン」での調査の進行を、来年秋の総選挙の結果が出るまでは、一時停止すると政府(保守政党CDU党)が発表したのです。これがなぜ歴史的かというと・・・

2012-12-03 05:16:33
村上 敦 @murakamiatsushi

なかなか複雑な事情となります。話は70年代までさかのぼりますが、ドイツでも夢のエネルギーとして原発を大推進という時代が過去にはありました。そこで、そろそろ最終処分場をとなったわけですが、当初、ドイツ全土(といっても西ドイツです)の地層を学術的な見地から調査している際には、・・・

2012-12-03 05:21:04
村上 敦 @murakamiatsushi

各種の大学や委員会での候補地提案リストには、ゴアレーベンなど全く入っていなかったのです(それだけ、ここが候補地として地層の安定性という観点から適正に乏しかった)。しかし、70年代の半ば過ぎに政治的に「何か」が起こります・・・

2012-12-03 05:23:26
村上 敦 @murakamiatsushi

この「何か」というのは、すべてが解明されているわけではないのですが、当時の連邦政権(社会民主党)、州政権(保守党)、そして学術、経済界などで、とにかく「ゴアレーベン」するという密約や指示があったことは、数々の調査で分かっていますし、メディアでも未だにいろいろ報道されています。

2012-12-03 05:28:16
村上 敦 @murakamiatsushi

どちらにしろ、時は冷戦真っ只中、旧東ドイツの最終処分場、モアスレーベンに対抗するにも、その選択肢が学術的な観点からではなく、政治的な観点から出たわけです。1977年には政府、州の決断はくだされ、カネ攻勢で懐柔されたゴアレーベンの市議会も1981年に調査開始を認めます・・・

2012-12-03 05:30:42
村上 敦 @murakamiatsushi

そして、調査すればするほど、適正ではないというデータが溜まり、それを隠匿したり、偽装したり、あるいは放置したりと、この数十年間は、単に「調査中のゴアレーベンがあるから」という言い訳で、どちらの国民政党も本気で最終処分場について議論することを避けてきました・・・

2012-12-03 05:32:31
村上 敦 @murakamiatsushi

また、そうせざるを得なかった理由として大きなものは、原発電力を最も沢山発電してきた張本人でもある南の2州(バイエルン州、BW州)が、新規の候補地についての議論を一切排除してきたからでもあります。ドイツは連邦制であり、同時に、南2州の面積、人口、経済規模は大きく・・・

2012-12-03 05:34:34
村上 敦 @murakamiatsushi

ここの2州が戦後一貫して保守王国であり、CDU党でゴアレーベン以外の選択肢にかかわる議論の席に絶対につかないと、まあわがままを言ってきたわけですね。そんなものは、「北か東の貧乏な州にやらせろ」とまでは露骨に発言していませんが、同じようなニュアンスで行動してきました・・・

2012-12-03 05:36:10
村上 敦 @murakamiatsushi

というようなところに、いくつかの時代変化が生じます。まずは、1998年の総選挙で緑の党が躍進し、「反対一辺党」から成熟した政権与党と認められるようになったこと、連立の相手が社会民主党で、徐々に脱原発、再生可能エネ大推進のポジションを取るようになったこと、・・・

2012-12-03 05:37:47
村上 敦 @murakamiatsushi

さらに2005年からの保守(CDU)&社会民主(SPD)の大連立によって、保守党でも党内にはポジションをエネルギーシフトへと動かした政治家が多くなってきたことです。それに加え、この問題には、切れ者だった(最後はメルケルさんに捨てられましたが…)レットゲン環境大臣が・・・

2012-12-03 05:40:00
村上 敦 @murakamiatsushi

正面から取り組むことをスタートさせました。彼は、このままミスがなければ首相候補にもなりえた人材です。加えて、福島第一原子力発電事故から、一連の流れは加速し、脱原発が国民・政治の共有事項となり、同時に緑の党の快進撃がはじまります。

2012-12-03 05:41:43
村上 敦 @murakamiatsushi

ターニングポイントは保守王国だったBW州の州知事が、緑の党のクレッチュマンとなり、社会民主党と連立政権を組み、この「ゴアレーベン問題」についても、理性的な受け答え、主張をするようになったことです。2州の一角が崩れ、かつ、レットゲン大臣の後任のアルトマイヤー環境大臣が…

2012-12-03 05:44:36
村上 敦 @murakamiatsushi

アルトマイヤー大臣は実務家で、コツコツと合意を取り付け、議論を重ね、世論の後押しもあって、最終的に、冒頭にお伝えした政府の方針となったわけです。ということで、50年近くの時を経て、2013年の秋からドイツでは、・・・

2012-12-03 05:46:35
村上 敦 @murakamiatsushi

ようやく「学術的」な背景で、地層の安定性からの候補地探しの議論がはじまりそうな形が整った、という情勢です。まあ、ここまででお分かりのように、ドイツは理想の国なんかでは決してありません。

2012-12-03 05:48:17
村上 敦 @murakamiatsushi

日本と同じように、こうした迷惑施設は、政治的な思惑とカネ、そして社会状況で、学術的なペーパーなんて鉛筆舐めることも普通に生じて、決まってしまうんです。このゴアレーベン騒ぎでは、地質学者の数々の首が簡単に飛ばされています。

2012-12-03 05:50:21
村上 敦 @murakamiatsushi

反対者は冷遇され、大学や研究機関、官公庁を追われた方も多いそうです。冷戦時代のことと言えばそれまでですが・・・ということで、2012.11.30は歴史に刻まれても良い一日だったと、ようやくドイツが最終処分場問題でも理性を取り戻した日だと記憶しておいても良いのかなと(終)。

2012-12-03 05:53:07
村上 敦 @murakamiatsushi

これに関する記事はかなり多くあるので、「Gorleben Atom Endlager」で検索してみてくださいね。それから、当然のことですが、ゴアレーベンという街は、旧西ドイツと旧東ドイツの境目に立地しています。報復の意味での選択ですから。

2012-12-03 06:00:06