たまごっちを発見した

旧ソ連の遺物たまごっち育成日誌
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@_MgHoLiC_

「いってくるよ母さん」「ジェイク、気をつけてね」扉を後ろ手に閉め歩き出す。謎の爆発で父が死んで15年が経つ。当時まだ2歳だった僕は覚えていないが、研究所の爆発事故は相当世間を賑わせたらしい。結局父が何を研究していたのか、施設がなぜ爆発したのか、全ては闇の中だ。

2012-12-07 20:47:39
@_MgHoLiC_

けれど母は、僕が生物学の道に進みたいと言う度に良くない顔をする。僕のクラスメイトなんか、未だに将来はスタントマンになるだなんて言っているのに、だ! 多分父の研究は生き物に関係のあるものだったのだろう。

2012-12-07 20:48:18
@_MgHoLiC_

「よおジェイク。すげー面白いもの見つけたんだけど」 学校につくなりルークが僕の行く手を遮った。身も頭もフットワークも軽い僕の友人だ。「通してくれるかな、君の見つけたもので面白かったのは新しいガールフレンドだけだ」「バネッサだって目を瞑って見りゃ結構美人だぜ」

2012-12-07 20:48:37
@_MgHoLiC_

「そんなことより」ルークは周囲を見回して声を落とした。「いいから顔貸せって、マジにすっげーもん見つけたから」「バネッサの写真ならここでも見られるじゃないか」「バネッサじゃねーっての、いいから来いよ」ルークはこうなったらしつこい。僕は仕方なく鞄をロッカーに放り、彼の後に続いた。

2012-12-07 20:48:49
@_MgHoLiC_

「これだよ、これ」ソレはフットボール部のルークのロッカーにしまってあった。どうやら卵のようだ。毒々しい色をしている。が、何より僕を驚かせたのは、それが時々振動することだった。「たまげたろ」「……なんだこれ」「拾ったんだよ、ウインターバケーションの時に稚内で」「稚内だって……!?」

2012-12-07 20:48:56
@_MgHoLiC_

「そうだよ」ルークは肩を竦めて言った。「俺んち冬は稚内にミズダコ釣りに行くんだよ。その時に……なんて顔してんだジェイク?」僕は卵から目が離せなかった。父は15年前、稚内の研究所で死んだのだ! この奇妙な偶然の一致は、僕には運命としか思えなかった。

2012-12-07 20:49:05
@_MgHoLiC_

その日僕はルークから謎の卵を15ドルで譲り受けた。奇妙な予感があったのだ。しかしそれはあくまで気分とか「もしかしたらそうかも」といったものに過ぎずーーつまり僕は、その時この卵がまさかあんな事件を引き起こすなんて思ってもいなかったのだ。(訳:たまごっち死んだので育て直します)

2012-12-07 20:49:10
@_MgHoLiC_

次の日の朝、僕は自分の身体にかかる奇妙な重みで目を覚ました。毛布を通して有機的な暖かさが伝わってくる。僕は身を捩ってそれを振り落とそうとし、そして一瞬後に思い切り上半身を起こした。僕は何の生き物も飼育してはいない。考えられるのは……そう、あの卵が孵ったのだと気づいたからだ。

2012-12-08 22:14:58
@_MgHoLiC_

辺りはまだ暗く、僕は手探りで壁のスイッチを入れた。電灯が数回瞬いて部屋に光を投げかける。そいつは奇妙な姿をしていた。身体自体は球体に近く、みかんのような葉っぱが頭部のてっぺんについている。全身はすべすべとした産毛に覆われていた。

2012-12-08 22:17:24
@_MgHoLiC_

ベッドの脇に置いてあった卵は、殻を残すこともなくどこかへ消え失せていた。僕がそいつを観察している間にも、そいつは妙に甲高い、オウムのような声を発しながら、バスケットボール程度の大きさの身体を僕の上で動かしていた。大きさの割りには軽いほうだろうか。

2012-12-08 22:19:22
@_MgHoLiC_

もしかしたらお腹が空いているのかもしれない。僕はそいつをベッドの上に置いて立ち上がり、部屋の扉に手をかけた。「ちょっとそこで待ってろよ」 この奇妙な生物に言葉が通じるのかは分からないが、黙って置いていくよりマシだろう。扉を閉めキッチンへと向かう。コーンフレークは食べるだろうか。

2012-12-08 22:20:36
@_MgHoLiC_

とりあえずコーンフレークをボウルに入れ、上からたっぷり牛乳をかけた。十分にふやかしておけば生まれたての生き物でも食べられるだろう。僕がボウルを盛って部屋に戻ると、そいつはまだベッドの上にいた。何やらきまり悪そうにもぞもぞと動いている。

2012-12-08 22:24:22
@_MgHoLiC_

「食えるか、コーンフレーク」床にボウルを置いて、そいつの身体を抱えて降ろしてやった。くしゃくしゃに丸まった毛布の上に、茶色い何かが見える。「……なんだ、うんちしちゃったのかお前」一瞬怒りが湧き上がったが、相手は生まれたての赤ん坊だ。叱ってもしかたがないだろう。

2012-12-08 22:25:57
@_MgHoLiC_

コーンフレークはお気に召したようで、僕がそいつの糞を片付けて毛布を洗って戻ってくる頃には、ボウルは空になっていた。母はまだ隣の部屋でぐっすり眠っている。「よお、これから僕は学校に行くけどさ、君もくるかい?」しゃがんでそいつに話しかける。なんとなく、母には任せられなかった。

2012-12-08 22:27:37
@_MgHoLiC_

きっとこれが、父の死んだ稚内の研究所で見つかった生き物だということを母が知ったらまず良い顔をしないだろうし、なによりこの謎の生き物を一日中でも眺めていたかった。「待てよ、でも名前が必要だな」僕が撫でてやると、そいつは相変わらずオウムみたいな声で鳴いた。

2012-12-08 22:28:58
@_MgHoLiC_

「……そうだな、名前はたまごっちにしよう。たまごから生まれるからたまごっちだ」そう言って撫でてやると、あろうことかそいつは僕の指を口に入れた。甘噛みにしては十分な強さだ。「こら、やめなさい」 叱ってやると、気まずそうに口を開ける。きちんと躾ければ、悪いやつではなさそうだった。

2012-12-08 22:30:43