異能ホモその15

メーデー
1

時をかけた少年

しばとに🎻 @sbt2___

自分と同じ色の目と髪をした男と対峙し、両手にまだ赤ん坊の弟と妹を抱えた少年は震え声で放った。「おまえ誰だよ」「誰だと思うゥ?」馬鹿にして。少年は苛つきながら、赤ん坊を抱き寄せた、痩細った彼らはいまにも死にそうである。「…おとうさん?」つい、口にする。目の前の男が、また笑う。

2012-10-01 18:34:38
しばとに🎻 @sbt2___

男が腕を振るえば周囲に火柱が立ち上がる。少年は手元の赤ん坊たちを抱き締めて、じり、と後ずさった。朝の陽光に負けないほどの赤とオレンジが小さな目を焼くように輝き、中心の男の長髪を舞い上げる。男は右半身を覆うような刺青が特徴的だった。少年は息を呑む。炎その物のような男だと思った。

2012-10-01 20:25:10
しばとに🎻 @sbt2___

「……"あんな奴"と一緒にすんじゃねぇよ」歯噛みした男の回りで火花が飛んだ。それをみた少年は他人事のように、男は魔法使いなのだろうかと思った。

2012-10-01 18:36:14
しばとに🎻 @sbt2___

…ああ。赤ん坊がぐずりだした。少年は舌打ちをして踵を返す。「アー…鬼ごっこは昔から得意じゃねーんだがな…」背後から聞こえてきた声に血の気が引いた。意味も理由もわからないが、あの男はおれたちを殺そうとしている…。ひゅう、ひゅう、と息が鳴る。走る傍から火柱が立つ。魔法使い、だ。

2012-10-01 20:46:57
しばとに🎻 @sbt2___

もつれる足を必死に動かして走り続けるが、子供が大人に敵うわけもなく、そのうち少年は石に蹴躓いて転んでしまった。庇うように妹と弟を抱き締めたがそれが仇となったらしい、思いきり擦りむいた足からは血がバタバタと溢れだしてくる。「くそ、くそっ」叫びながら傷に手を翳し、少年は治れと念じた。

2012-10-01 21:37:36
しばとに🎻 @sbt2___

「ああ…この頃はもう使えたんだっけ」追い詰めるように歩いてきた男が呟く。少年は治癒した傷を伝っていた血を拭い、転がしたままの赤ん坊に手を伸ばす。か細く泣きじゃくる妹が一瞬、グッ、と妙な音を出す。間も無く、炎上。「え、あ、え?」伸ばした指先が焼ける、弾かれて弟を見ると、もう、炭で。

2012-10-01 21:54:52
しばとに🎻 @sbt2___

振り替える間も無く衝撃に飛ばされ、少年は壁に激突した。ぬるりとした液体の垂れる感覚に涙が溢れる。なんで、なんで。洪水のように溢れだす。なんで、殺されなきゃ、ならないんだよ、なんで。「死にたいくせに」低く地を這う声が聞こえる。燃えるような痛みが走る。「朝には死ぬつもりなくせに」

2012-10-01 22:37:00
しばとに🎻 @sbt2___

髪を掴まれ引き上げられる。反転させられて間近で男の目を見た少年は、その瞳に何も映っていないことに気付いてゾッとした。「おまえ、おまえ、なに、」「やってみろよ。出来るだろ」何のことを指しているのかわからない。混濁する。「むかつくって思うだろ?理不尽に思ったろ?じゃあ出来る、お前も」

2012-10-01 22:46:35
しばとに🎻 @sbt2___

「なに、を」「…お前の異能は治癒だけじゃない。…パイロキネシス、お前はそれを買われて警視庁に入ることになる。"異捜の狂犬"、それがお前の通り名だ」少年の髪を掴み上げる指先に力が入る。ぶちぶちっ、と何本か髪を千切られた。呻く。「おまえには出来る。出来るよ、千紘」名前を呼ばれて落涙。

2012-10-01 22:52:32
しばとに🎻 @sbt2___

「だけどお前が生きてると、皆が不幸になるんだってよ。言われちまったね、お前はジョーカーなんだそうだ。ハハ。ここでお前が死のうとしたのは正解だったってことだ。懐かしいねェ…この日、"俺"は妹や弟を連れて車に身投げするつもりだった…」 何をいってる。この男は何を。少年は酸欠に喘ぐ。

2012-10-01 23:00:37
しばとに🎻 @sbt2___

「だけど失敗するよ、お前は助けてもらえる。そこからが地獄の始まりなんだ。お前は…お前は、お前がこの日から抱えていく大事な人間を、関わるだけでみんな不幸にする。………あぁ、ここから断なきゃ、駄目なんだ俺は…お前は…」「あ、かはっ」ぎしぎしと喉元を締め上げられて唾液が溢れた。

2012-10-01 23:12:20
しばとに🎻 @sbt2___

爪で掻いて皮膚を削いでも男はまるで怯まない。「この死に損ない」しにたくない。いや。こんなしにかたは、やた。「お前なんか、死んじまえ、…っ」途切れ途切れの意識が完全に落ちる寸前で、男が泣いているのを見た。幸せになりたかったなァ。男が呟くのと、少年が考えたタイミングは同じだったので。

2012-10-01 23:26:36

ジョーカー

しばとに🎻 @sbt2___

___ ねえ、深國君は多重世界の存在を信じる? ロリータ服の裾をひらり、少女のような笑みを浮かべた少年が鈴の音で笑う。俺は舌打ちをしながら目をそらした。(……くっだらねぇ)相変わらず誰もいない会議室からは腐臭が立ち上るばかりで、気分は悪くなる一方で。どうしてお前がまた、ここに。

2012-10-01 23:39:34
しばとに🎻 @sbt2___

「信じません」「そう?現実的じゃないって思った?でもその言葉で片付けるにはあまりにも、ね?ボク達自体、奇妙な存在なのにさぁ」「…」この声を聴くと妙に苛々する。舌打ちが隠せない。にやにやと笑う顔が癪に障る。「そこではお前は既に死んでるんだよ。かわいそーにさ、一人ぼっちでね?」

2012-10-01 23:54:21
しばとに🎻 @sbt2___

「誰からも悼まれず、愛されず、一人ぼっちでね?」「…」「ああ、でも安心して。君の大事な子達はみんな幸せに生きてたんだ。よかったねぇ、お前がいないお陰でみんながみんな、幸せを全うしてるんだよ!」ざら。喉がひきつって、唾が溜まる。「お前はさぁ、例えるならトランプのジョーカーなんだ」

2012-10-02 00:16:31
しばとに🎻 @sbt2___

ジョーカー。切り札であればそれに敵うものはない。が。「引けばみんな破滅するよ、ねえ、お前はそのジョーカーなんだ」舌を噛みそうになった。見上げる瞳が猫のように細められる。やめろ、だまれ。「可哀想に。お前に関わった奴らはいま、みんな不幸になってるんだとどうして気付けないの?」

2012-10-02 00:24:26
しばとに🎻 @sbt2___

「お前、どうして死ななかったの?」耳を塞いでもすり抜けるように入り込む。隙間をぬって、聴かせようと。「お前がいなかった未来がどれだけの幸せを彼や彼女やあの人やあの子に運んでいたと思う?ねえ、どうしてそれを考えもしなかったの?」 おまえって本当に傲慢だよねぇ。

2012-10-02 00:28:25
しばとに🎻 @sbt2___

「やり直しておいでよ」天使のようにとろける笑顔でロリータ服を揺らしながら。「ねえ、おバカさん。空間転移の異能者がいて、時間転移の異能者がいないとでも思ってた?」あとはおまえ次第だよ。「……1つ、教えてください」「…なぁに?」「俺がいないそこでは、"彼"は幸せでしたか」 笑う子供。

2012-10-02 00:42:59
しばとに🎻 @sbt2___

「ああ、とびっきり」 項垂れて笑う。そう。幸せなんだね、潤。よかった。おまえが幸せならそれで良い。俺がいなくて幸せな未来を描けるなら。その世界が正しい。「あはは。この不幸者。可哀想で可哀想でたまらないよ」俺と出会わなければ良かったんだ。そうだよねぇ、やり直そう。ごめんね。

2012-10-02 00:50:45
しばとに🎻 @sbt2___

so long! どうか、みなさま、お幸せに。

2012-10-02 00:52:40

これも一つのエンディング

しばとに🎻 @sbt2___

「タイム・パラドックスって知ってるか?秋弦」 唐突に佐村からそう言われ、中邨は書類から顔を上げた。なんの話だと眉ひとつで返せば、肩を竦めた佐村が真面目ぶる顔を崩してへらり。「いや、ごめん、メタルギアの話なんだけど」「俺は仕事中だ。死ね」「おまえ最近佐村さんに冷たいよね!?」

2012-10-02 01:00:36
しばとに🎻 @sbt2___

溜め息を返してやると更に騒ぐ。こんな奴が上層幹部とは、いったい何の冗談だ。警視庁の未来が見えない。「あーあ。秋弦はつめてーな。あいつの方がヨッポド良かった」「…誰のことだ?」「……。ひーみつっ」良い歳の男にウィンクをされてもな…。中邨は呆れながらまた溜め息を吐き書類に目を落とす。

2012-10-02 01:11:23
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