山本七平botまとめ/「南学」のすすめ/~「北学」が通用しない南北問題~
- yamamoto7hei
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①【「南学」のすすめ】南北問題とは実に大変な問題で、これをどうするかは、20世紀から21世紀にかけての最大の問題であろう。 この問題の深刻さは「南」「北」を一国内に抱え込んでしまった国に行くとよくわかるが、全員が「北」の模範生の日本では、よくわからない。<『「常識」の研究』
2012-12-08 20:57:43②よくわからないから「南」への変な同情や「北」への非難が安易に出てくるわけだが、非難も同情も実は何の解決にもならないのである。
2012-12-08 21:28:02③今回、南アフリカ連邦に行き、現地を眺めてつくづく考えたことは、この国を人種差別で非難することは簡単だが、これを地球全体が解決を要請されている問題の縮図と見れば、その深刻さには少々″絶望的′な気分となった。 理由はどこにあるのだろう。
2012-12-08 21:57:43④…それは「学問」の問題である。 現代の人文科学、それは法律学であれ経済学であれ社会学であれ、またそれらに含まれかつ関連するあらゆる学問であれ、すべてが封建制を経過した国で成立したものであり、一言で言い換えれば「北」の学問、少々奇妙な言い方をすれば「北学」なのである。
2012-12-08 22:28:07⑤この「北学」は、確かに「北」では機能する。しかしひとたび「南」へ行けば、全く機能しなくなる。 これは中東でも同じであって、前にある席で中東の国家形態について話したところ、その席の法学者から、次々に「それは近代国家の原則に反する」という言葉が出てきて少々こまったことがある。
2012-12-08 22:57:46⑥「北」の原則は、はじめから「南」には通用しない。 経済も同じであって、経済原則は全く通用しないのである。 これを解決するにはまず「南学」が必要なのであり、これを抜きにしては、問題の解決はおろか「南」を知ることさえ不可能である。
2012-12-08 23:28:03⑦…南北を抱え込んだ国々を見ると双方の社会の原則が対立し、どうにもならなくなっている状態に直面する。「北」の原則は「南」では原則にならず「南」の原則は「北」では機能せず「南」が支配すれば「北」は崩壊する。しかし「北」が崩壊すればその被害を受けるのは「南」である、と言った矛盾である
2012-12-08 23:57:45⑧南アフリカ連邦への非難、特にアフリカ諸国の非難は徹底的であるのは当然で、パスポートにこの国のビザがあると、絶対に入国させない国もある。 だが、この非難に対する南アフリカ連邦の自人の対応は冷やかである。 彼らはきまって言う、「そんないやな国なら密入国して来なければよい」と。
2012-12-09 00:27:50⑨この国が最も神経質になっているのは非難ではなく、北からの密入国であり、それへの警戒は実にきびしい。密入国の理由は、一言でいえば、この国の北の広大な地域における恐るべき飢饉であり、この情況は断片的には写真等で日本に紹介されているが、悲惨を通り越している。
2012-12-09 00:57:42⑩飢えの苦しみ、これは今の日本では空想することも不可能であろう。 私もジャングル戦で餓死しそうになった。 餓死直前に戦争が終り、アメリカ軍に収容されたが、鉄条網に囲まれても、食料を支給されれば、ほっとすることは否定できない。
2012-12-09 01:27:57⑪それを思えば、アパルトヘイトという悪名高い″鉄条網″の中へ、飢えに苦しむ人が密入国を計っても不思議ではない。彼らはそれを指摘して、そんなに来たい国なら非難するな、と言いたげである。
2012-12-09 01:57:41⑫事実この国は、世界で数の少ない食糧輸出国の一つで、飢饉を知らない。 そして、この国の北方に広大な飢饉が広がっているなどと言うことは、この国にいれば想像もできない。
2012-12-09 02:27:48⑬また、まことにカルビニストの国らしく、全てが整然としており、徹底的に清潔で完全に組織立っていて、その農地は飛行機から眺めればアメリカそっくりである。彼らに言わせれば、アフリカにはこの程度の生産力と生産性をもつ土地は幾らでもあり、自分達のようにやれば飢えなどあり得ない。
2012-12-09 02:57:41⑭ところが、黒人はそれをしない。 しないどころか、彼らが独立すれば、自人が開拓した農地さえ管理できず、たちまち荒蕪地に帰ってしまうという。 この主張がどこまで正しいか私にはわからないし、彼らに反論する資料も持っていないが、南北問題の解決はまず食糧問題の解決であることはわかる。
2012-12-09 03:27:51⑮事実、飢えは、すべてに先んじて解決すべき問題であり、この解決がなければ、何の解決もあり得ず、そしてこれは、主義、主張、非難キャンペーン、政治的解決では、解決しない問題である。 食糧援助は、決して根本的解決ではない。
2012-12-09 03:57:41⑯まず、どのようにすれば「南」の農業問題が解決するのか、これが恐らく「南学事始」なのである。 途上国援助は…それは単に経済援助で片づくものでなく「南学」の創出もまた大きな援助であろう。 それは決して膨大な予算を必要としない。政府にこの点への配慮があってほしいと思う。
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