『公園の姫』

犬子 @27000hz

公園で、『お姫様』を見つけた　#公園の姫

犬子 @27000hz

今日は寒くて公園には誰もいないだろうと思っていたのに、テレビで観た『お姫様』がぶらんこをこいでいる。いつもちょっとしか『お姫様』はテレビに出ないのが不満な僕にお母さんは「ＣＭだもの」と言い、「それにあれは男のひとよ」と顔をしかめるのだ。「すごく綺麗だけどね」#公園の姫

犬子 @27000hz

『お姫様』が男のひと、というのは分かってる。おかあさんとか女優さんとかマキコ先生みたいにおっぱいないもの。でもすごく綺麗で、王子様（なんだよね？腕だけしか出てこないけど）の差し出す手にそっと掌を乗せる時の顔は『お姫様』にしか見えないんだ。#公園の姫

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「僕もあんな『お姫様』といつか結婚するんだ」というと、皆なんか変な顔をする。「お化粧が上手なだけでおじさんじゃない」とユウキも言うんだ。ユウキは一番の友達だと思っていたのに「男の人だよ気持ち悪い」って云われて僕は悲しくなって、「ユウキなんかあんなに綺麗になれないよ！」#公園の姫

犬子 @27000hz

いつも通りビンタが来ると思ったのに、僕の言葉にユウキはすごく悲しそうな顔をしてしくしく泣き出した。周りの女子が「トモアキが泣かした！」とはやしたてるのを背中に僕はランドセルをひっつかむと教室から飛びだした。本当はユウキと遊んで帰るつもりだったのに　#公園の姫

犬子 @27000hz

「あ、ごめんね。ここ、君のいつもの場所？」ぐるぐるとさっきまでのことを思い出していると、僕に気がついたらしい『お姫様』が小首をかしげて話しかけてきた。「ううん」いつもユウキがいるブランコを緩くこぎながら「待ち合わせかな？待つときって長いよね」と笑う。#公園の姫

犬子 @27000hz

白いポンチョがブランコの揺れるのにあわせてふわふわと揺れる。綺麗な横顔はテレビとは違う感じだけどお化粧なんかしていなくて、ほら、綺麗な人は何もしなくても綺麗じゃないかと、ここにいないユウキに言ってやりたくなる。「『お姫様』は王子様を待っているの？」#公園の姫

犬子 @27000hz

「ん。一緒に食べようと思ってコロッケ買ってきたのに。冷めちゃう」ちょっぴり唇を尖らせて言い、「せっかくだからおひとつどうぞ」と懐からがさがさ小さい包みを取り出す。渡されたそれはほかほかしてて、いいにおいがする。「いいよ、王子様と食べるんでしょ」というのに　#公園の姫

犬子 @27000hz

「もう一個あるからはんぶんこする」とえへりと笑う。大人なのに可愛いな。いつもは僕もユウキとおやつをよくはんぶんこするのを思い出した。ここにユウキがいて、はんぶんこしたら喜ぶだろうな、「メンチがいいのに」って云いながらにこにこしてかぶりつくだろうと思って胸がちくっとした　#公園の姫

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『お姫様』が渡してくれたコロッケを一口齧る。「おいしーい」「幸せな味でしょ」友達のうちで作ってるんだよすごいでしょ、と自分の手柄みたいに胸を張って云うのに顔がほころんでしまう。「オレもこれ大好き。だから食べさせてあげたいなって思って」「『お姫様』なのにオレなんだね」#公園の姫

犬子 @27000hz

「ん。男の子ですから。でも何で『お姫様』なの」と不思議そうに云ってちょっと考え込むとぽむ、と手を叩いて「ああ、パラケルススのCM？あれオレも気に入ってて！」綺麗に見えた？と、とても嬉しそうに云う。「僕もあんな『お姫様』と大人になったら出会いたいって思って」と返すと　#公園の姫

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『お姫様』は「あの人もそんな風に思ってくれたらいいのにな」と、さっきまで笑顔できらきらしていた顔を曇らせた。「『王子様』が来るの待ってるんだよね？」最初に待ち合わせ？と聞いてきたよね。それに『お姫様』はふるふると横に首を振って、揺らしていたブランコを止めてしまう　#公園の姫

犬子 @27000hz

「本当は待ち合わせとか約束してるんじゃないんだ。よくこの公園を近道に使う曜日が今日だって聞いて。オレが待ってるなんてあの人は知らないんだ。ただ偶然でもいいから、会ってどうこうっていうんじゃなくて、ただ通り過ぎるのを見るだけでもいいから」ポンチョの襟元に顔を埋めて云う　#公園の姫

犬子 @27000hz

そういえばどうして僕は寒くて誰も来ない公園に来たんだっけ。いつもはユウキと一緒に来て、おやつを分け合ったり、宿題やって答えあわせをしたり、大好きな本やテレビの話をしたりする公園に。ユウキを泣かせて置いてきてしまったのに。どうして僕は『ここでユウキを待ってる』んだろう　#公園の姫

犬子 @27000hz

『王子様』の日常ルートは暁風探偵事務所のきめ細かい調査によりGETしました。百舌は不規則な時間拘束のあるモデルで、通信制高校の勉強もあって、時間を作るのは大変なことです。でも待ち伏せタイムに教科書開いたりはしないのです。「気持ちをいっぱいにして待っていたい」そうな　#公園の姫

犬子 @27000hz

その時後ろでかさり、と乾いた小さな音がした。『お姫様』も僕も同時に振り返る。赤いランドセルを背負った、見慣れた姿。手にはコンビニの袋。これが音を立てたらしい。はっとした、傷ついたような顔を一瞬だけして、ぽとりと手にしていたものを落として、ユウキは一目散に駈け出した　#公園の姫

犬子 @27000hz

急いで追いかけて来てくれたんだろうか、「女の命だからね」といつもきれいに梳かしている髪を乱れさせて走り去ろうとする後ろ姿を茫然と見ていたら「なにやってんの」さっきまでのほんわりした感じが嘘のようなぴりっとした声が飛んできた。「追いかけな！泣いてるよあの子」#公園の姫

犬子 @27000hz

「事情は知らないけど、あの子追っかけてきてくれたんでしょ。今捕まえなかったら『君を好きなあの子』とはもう二度と会えないんだ！」その言葉にはじかれるように走る。一度だけ振り返ると「男見せな」と自分が泣き出しそうな、痛いみたいな顔で　#公園の姫

犬子 @27000hz

ユウキは結構足が速い。だけど『追いつかなくては』。たとえクラスでビリ争いの常連の僕だとしても。赤いランドセルの背中を追いかけながら、さっきの『お姫様』の言葉の意味を考える。追いつけなかったら、もう二度と僕を追いかけてきてくれた『ユウキ』には会えなくなるのだと　#公園の姫

犬子 @27000hz

逃がしてしまったら明日からの『ユウキ』とはこれまでどおりではいられないのだと訴えた、悲しそうな顔。『お姫様』も『王子様』を追いかけて捕まえられなかったんだろうか。追いかけることが出来なかったんだろうか。それとも追いかけることをやめようとしてるんだろうか　#公園の姫

犬子 @27000hz

自分のようにはならないで、と言いたかったのかもしれないと気がついたその時、僕は小さな段差につまずいてしまった。膝はすりむいたみたいで、口の中も噛んだみたいでしょっぱい血の味がする。痛い。だけど僕はユウキと昨日までのように今日も明日も一緒にいたいんだ　#公園の姫

犬子 @27000hz

「トモアキ！」ユウキが振り返ってこちらに駆けてくる。「大丈夫？痛いよね。だけど早く洗わないと。立って」手を差し出してくる。『お姫様』に手を差し伸べていた『王子様』のようだとぼんやり思いながら、ユウキの掌に自分のそれを重ねる。まるで僕が『お姫様』みたいだなとおかしくなる　#公園の姫

犬子 @27000hz

くすくす笑い出す。止まらない。笑い出した僕にユウキは本の少しだけぽかんとしてから、はじけるように笑い出す。顔を見合わせて二人で笑う。笑いながらユウキに手を引っ張られながら水場に向かう　#公園の姫

犬子 @27000hz

「ほら足出して」と蛇口をひねったところで気がついたらしい。「なに？その手に持ってるの。あ、これ南雲屋のコロッケじゃない。ずるい！」と一口だけ齧ったコロッケの袋を奪い取られる。齧った跡を一瞬じっと眺めてその部分からかぶりついている。「おいし。足洗ってあげるから持ってて」#公園の姫

犬子 @27000hz

（仮にパラケルススカンパニー版：ユウくんちなコロッケ屋さんは南雲屋さんにしてあります）#公園の姫