- Dr_crowfake
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@meta_Netcoela 「「わたし」とはなんでしょうか」と、あたしが通院しているネルフ自我科のカウンセラーは質問を投げかけてきた。「「わたし」と呼ばれる存在は、脳内の複数のエージェントによって構成され、それらが相互干渉により意思決定を行なっている。で正解?」「その通りです」
2012-12-26 02:32:17@meta_Netcoela 「しかし、どれだけの数のエージェントが機能していれば「わたし」が存在できるのかは、未だに不明なのです。無論、おおまかな閾値は把握されていますが、グレーゾーンは広いですね。貴方の母上に起こったことは、そういうことです」
2012-12-26 02:35:47@meta_Netcoela 「貴方の母上はエヴァへの人格移植試験の際、「わたし」を構成する重要な魂のモジュールの大半をエヴァのコア内に残置した形でサルベージされました。ですが、彼女は発狂したものの、一応「わたし」らしきものを維持し、驚くことに部分的な意思疎通までできたのです」
2012-12-26 02:37:47@meta_Netcoela あたしは当時のことを思い出した。振り向いてくれなかったママ、人形をあたしと勘違いしていたママ。そしてあたしを道連れに死のうとしていたママ。それがママが持つ「わたし」の機能不全でありながらも「わたし」を最後まで維持していた可能性を、医師は指摘していた。
2012-12-26 02:40:40@meta_Netcoela 「だったらママは自分自身の意志であたしを殺そうとしたの? あたしはママに否定されたの!?」あたしは激高した。「惣流さん。先も申し上げたように「わたし」を形成するモジュールがどれだけ機能していれば、それを自我と呼んで良いのかは不明です。即断は禁物です」
2012-12-26 02:44:03@meta_Netcoela 「彼女が明確な自我を持って明確な殺意のもとに貴方を殺そうとしたのかは、我々の科学では明快にできないグレーゾーンなのです。ですから、貴方はこれについて慎重に、なおかつ深刻でない形で受け止める必要があります。それに、自我の変化は貴方にもあるのですよ」
2012-12-26 02:45:45@meta_Netcoela 「「わたし」を構成する複数のエージェントは、常に外的刺激によって力関係を変化させ、再帰的にその関係を強化していきます。そのようにして「わたし」が変化していく時、どこまでが「わたし」でありどこからが「わたし」でないのかもわからない」
2012-12-26 02:47:29@meta_Netcoela 「昨日の「わたし」と、今日の「わたし」、そして明日の「わたし」は、意味的に異なり別個のものである。そのように捉えることも可能です。にも関わらず、人間は自身を連続的なひとつの自我として認識できてしまう。それどころか変わることを肯定できてしまう」
2012-12-26 02:49:26@meta_Netcoela 「でもそれは、「わたし」が結果的に出力されるものではなく、複数のエージェントの関係性自体だと考えれば解決する問題だわ」あたしはそう応えた。医師は軽く頷いた。「そうです。ここにある「わたし」はそのような架構の上に成り立っています。ですから――」
2012-12-26 02:51:21@meta_Netcoela 「貴方の母上が貴方を殺そうとしたことは、残骸の上の崩れた架構が起こした崩落事故のようなものなのです。貴方が、貴方が愛していた母親に裏切られたというような問題ではありません。それだけは、お伝えしておきたかった」
2012-12-26 02:53:13@meta_Netcoela 「ありがとう」あたしは医師に礼を言い、立ち去ろうとした。寝椅子から起き上がった時、目尻から滴がこぼれた。それが涙だということに気づくまで、わずかな時間がかかった。「そうだ……あたし、泣けたんだ」あたしは、ようやく少し蟠りから解放されたような気がした。
2012-12-26 02:56:35