Ruina年越しリレー小説企画2012~2013「ニューイヤーパーティー・プロデュースド・バイ・ゼス」

刀剣としては性癖が異常なにっかり青江 @NiA19_M0127

結局は、そういうことだ。戦場が地下の廃墟からホルムに移ったという内情を知らぬものにとっては愉快な祭りだが―――というよりは、内情を知るものにとっても祭り以外の何物でもないが、彼らは現代の文化に満足を示さなければ、帰らない。「さあ、もう日は少ない。励むが良いぞ、我が器よ」１７

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ときに物語というのは語られた時点より過去の出来事を「後付で設定」したり「不可能な事象を起こす」メディアという一側面を有する。この度姿を表した空中楼閣にもどうやら似たような因果改変機能を持つようで、白子の器の「有ったかもしれない8通りの人生」が一所に集結してしまっていた。 18

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記憶さえも遡り決定された今では、本人たちにとっても、そして周囲の人間にとってもどれが「本来いた人間なのか」もはや判別はつかない。つまりどの器を推してタイタスたちへの対抗手段と（あるいは全責任を適当に押し付ける人間と）すべきなのか決め難いのだ。そう、だからこその、演芸大会！　１９

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「だからまア…改めまして、バンドやろうぜ！ー」賢者の弟子（男）が威勢よく拳を天に突き出す…も、続く者が居ない。「やはり楽器経験者が居ないのでは無理があるのでは」領主の息子の至極もっともな指摘が他6名の圧倒的賛成を得て、結局各々が組む相手を適当に選ぶという事で落ち着いた。 20

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読者諸君もお気づきの通り、演芸大会は今宵行われる予定である。雨が降ろうと、風が吹こうと、城が落ちようと！　「組むのは別にいいけど、あなたたちちょっと計画性無さすぎじゃない？」キレハの溜息にふと目をそらすのはヴァン。全ての白子族が演目さえ決めていない現状に言い訳は不要だった。21

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そうして土下座から立ち上がるヴァンに「まあ、どうしてもっていうなら付き合ってあげてもいいけど」と言うべくキレハが口を開くのと、テレージャがなにやら台本片手に鼻息荒く乱入してきたのはほぼ同時の出来事であった。一方その頃、大会運営本部のテントではチュナがひきつけを起こしていた。 22

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「チュナ、しっかりしろ！これくえ！」でろでろと失敗したポララポ（ホルム民でなければ区別がつかない）を口に押し込もうとするエンダを羽交い絞めにしながら、ウェンドリンは叫ぶ。「ああ、彼を止めて！このままでは演芸大会が別の大会になるわ、止められるのはあなたしかいないのよ、マナ！」23

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「え、ええっ！？　えー、えーと…ハ、ハウス」「やれと言うならやろう」マナがおずおずと指した戸口から大人しく出ていくメロダーク（裸）。「ちょっと待って服を着ろって言ってからじゃないと！」こうして全裸の変態がまた一人往来へ放たれた。そして街外れの庵の方向からは爆音と閃光が。 24

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どうして、としなを作ってみせるのはフィー、尾を逆立てる猫のようにして魔杖を握りしめるのはシーフォンだ。「だから僕様はくだらない祭りには参加しないんだよ！」「そこをなんとか！大丈夫いけるいける！」「そう…俺たちには宇宙的セッションが奏でられるはずだ」「ロクな響きがしねえ！」25

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「アーガデウムが現れたときはあんなにはしゃいでいたのに…」「言うな！」「中から夜種王出てきた時のスゲエ面がな」「シーフォン可哀想」「言うなァー！　お前ら絶ーッ対に協力しないからな！」そこでフィーがふと思案顔になる「──こうなったらホントに行くしか無いかなあ、月」「…はぁ？」 26

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月のはるか彼方、宇宙の奏でる偉大なる情報の根幹へ接続した歴史を「遡って決定された」二人には、音楽といえばまずあの独特な感覚が想起されるのだ。五感全てを使って「きく」美しき旋律、断絶されて失われた衝撃を思えば、その断片を、ひと匙にも満たぬ味わいを、親しきものに分け合いたかった。27

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「中継できれば私たちが演奏する必要なくなるしね」「楽するための手間は惜しまんぜ」しかし鍵の書が使えない今通信手段はどうするのだと怪訝な表情のシーフォンへ、にまりと笑ったフィーが傍らの水鉢を指し示す「……よばれてとびでてルギルダちゃん」「なんか、管轄同じみたい」「…マジかよ」 28

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――――そしてとうとう夜！わいわいと騒ぎ実は俺は地元の聖歌隊で云々と武勇伝を語る冒険者グループをかきわけ、一際目立つその美しきかんばせを難しげに顰めているのは領主の息子、キャシアスである！視線は檀上、なにやら古代の知恵という拡声器に声を充てたパリスの姿に注がれている。29

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「で、そのー開催の趣旨？っつうか（「とっとと始めろー」「原稿くらい書いとけ！」「なげーわグダグダだわでヒデエな！）──うるせー！第一回ホルム演芸大会の開始をここに宣言するぞオラ！」乱れ飛ぶ野次の中、実行委員長からの開催の挨拶が成される。街の平和を取り戻す為の祭りが始まった！ 30

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ぱぱぱぱーん！謎の炸裂音と共に頭上のカラフルアーガデウムが、金と銀の火花を背負い七色に光る！かつての都市の文化を担った古代人たちも、こころなしか期待した視線を檀上へと向けた（総ノーパンで）。しゃなり、しゃなりと壇上へ昇る衣擦れの音に、観客は固唾を飲んで見守るのであった。31

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「わたくし気付きましたの。食もまた文化なのだと」盛装したウェンドリンが進み出る「─と、言うわけですから大食い勝負でエントリー致しますわ。我こそはという者が居たらかかってらっしゃい！」傍らには菓子を山盛りにしたワゴンと笑顔のアルソン（料理協力）！そしてはにかんだ笑顔のメイド！ 32

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（（…ここは私の出番だな））城から響く男の声、振り仰ぐ観客たちが目にしたのは城から舞い降りる―――鉄籠！に！入った怪人！「我こそは夜種王教授！アッちょっとそこの人無理に開けようとしないで下にキャスターついてるから転がしてってステージまで」大胆なエントリー！まさに怪人である！33

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──結論から述べよう。夜種王教授は死んだ。その具体的な死に様に敢えて言及することは避けるが、現場は凄惨の一言であったという。「まあ3分もすれば復活するだろうからそれは良いのだけど折角用意したお菓子が無駄になっちゃったわ。ごめんなさいねアルソン」「……フランはよく頑張ってる」 34

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その戦いの断片は周囲に漂う刺激臭、前列の観客の彷徨う視線で感じ取ることは出来るが―――詳しくは述べない。別に詳しく知りたいものなどはいないからだ。「…他に挑戦者はいらっしゃる？」ウェンドリンの涼やかな問いに、ぶんぶん、と最前列のゲスト１世は首を振った。料理部門、制覇！35

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「えー…続きましては（ゲッホ、ゴホゴホッ）…えーと聖歌隊による合唱です！　今度はマトモなエントリーだやったぜ！！！」周囲に漂う酸性の霧にむせつつパリスが宣言すると共に、揃いの長衣を纏った数名の男女が壇上に昇る。その中にはマナ、エメク、エンダ、チュナの姿もあった。 36

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しかし、ざわ…ざわと観客、そして演者が不安そうに辺りを見回すのは、その聖歌を始めるきっかけとなるはずの清らかなメロディー、大陸のどこへ赴いても決まりきったその音が聞こえてくるかわりに、ズン…ズン…と巨人の足音のような低い音が徐々に大きくなっているためである。37

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──同時刻！　路地裏に横たわるメロダークが一糸まとわぬ姿で意識を取り戻す。我が身に起こった出来事をじわじわと思い出すにつれマナ（と、エメク）に迫り来る危機の存在を認識し、取るものも取りあえず広場へと駆けて行くのであった。急げメロダーク（裸）！ 38

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誰に約束されたわけでもない、否、己と己の神に誓ったあの日のために！そして、ああ、やはりその黒々と闇をたたえた瞳は見たのだ、小人族が繰るからくりの馬！あれこそは神聖なる勝負に横やりを入れる、小人のパレード！「…その楽器は、どこから運んできた？」39

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「貴公に答えてやる義理は無い」鉄馬の上、玉座についた王のごとくふんぞり返ったテオルが皮肉な笑みで応じる。なんとこの男、しぶとくもどこぞで生き延びていたらしい（懸命な読者の皆様はお気付きの通り賢者の弟子編における特定のルート選定でのみ彼は生死不明のまま物語から退場するのだ！） 40

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「ならば後は―――力で語るのみ。」メロダーク（裸）は剣を抜く（隠語ではない）！迎えるテオルもやはり柄に手をかけ、一閃、神の裁きは、やはり正しきものにこそ微笑んだ。41