山本七平botまとめ/【バシー海峡②】/日本の近海で猛威を振るっていたアメリカ軍潜水艦

山本七平著『日本はなぜ敗れるのか』/第2章 バシー海峡/44頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

1】昭和19年4月末、私は門司の旅館にいた。…皆ここで船に積まれ、どこかに送られる。大部分が恐らく比島であろう。 アメリカの潜水艦は日本全体が緒戦の″大勝利″の夢からまだ醒めぬ18年の9月に、既に日本の近海で自由自在に活躍していた。<『日本はなぜ敗れるのか』

2012-12-24 09:57:42
山本七平bot @yamamoto7hei

2】潜水艦による輸送船の沈没は、原則として一切新聞に出ない。 従って以下に記す小松氏の記録は、18年当時の海没の、まことに珍しい「目撃者の記録」である。

2012-12-24 10:28:04
山本七平bot @yamamoto7hei

3】《…目下の戦況では台湾危じと直感し、内台航路の危険を冒して内地に引揚げる事に決心し…台東を九月七日に出発した。…家族一同どうやら同じ船で内地へ行く事になった。…27日の夜半突然の砲声に一同飛び起きる。船は全速でジグザグに逃げまどう。…そして爆雷の音がしきりに響いてくる。》

2012-12-24 10:57:42
山本七平bot @yamamoto7hei

4】《…突然、すぐ目の前にいた富士丸の胴体から水煙があがった。やられたと船室に飛び込み子供等に用意をさせる。 窓から見れば富士丸はもう45度に傾き次いで棒立となって沈んでしまった。 雷撃後3分30秒であっけなく姿を消した。》

2012-12-24 11:27:58
山本七平bot @yamamoto7hei

5】《我々の船は全速で逃げ四時間後に再び富士丸遭難地点に戻り救助にかかる。又やられはせぬかと気が気でない。沖縄からきた飛行機が二機、潜水艦を探している。富士丸の遭難者の大半を救助した頃、我々の船めがけて三本の雷跡。慌てて室に帰る。船は急旋回。その時、ドスンと大きな音がした。》

2012-12-24 11:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

6】《もうだめだ。が、幸い魚雷は不発で助かった。船からは大砲を乱射する、爆雷は落す、全速で逃げまわる。生きた心地はない。門司までの一昼夜は実に長い、嫌な、命の縮まるような思いをした。…三十日無事神戸港に入港した。…》

2012-12-24 12:28:02
山本七平bot @yamamoto7hei

7】結局、台湾を出港した当時の最優秀船三隻は、駆逐艦と航空機に護衛され、自らも対潜水艦用の砲を搭載しながら、三隻とも雷撃をうけた。 小松氏の乗った欧緑丸が無事助かったのは、奇蹟的に魚雷が不発だったというだけである。

2012-12-24 12:57:43
山本七平bot @yamamoto7hei

8】これがその約半年後の昭和19年4月となると、あらゆる面で、危険の度は倍増も三倍増もしていた。 氏は雷撃をうけた富士丸が、わずか3分30秒で沈んだと正確に時間を計っておられる。

2012-12-24 13:28:01
山本七平bot @yamamoto7hei

9】三分半、これは、不意の衝撃から脱出するには、決して十分な時間とはいえないが、しかし、全員はともかく、一部のものには脱出が可能である。 だが私が乗船したころには、米軍の魚雷が高性能になるとともに日本側は老朽船のみになっており、平均15秒で沈没した。

2012-12-24 13:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

10】救出者は通常ゼロ、三千人を満載した船で、五人が奇蹟的に助かった例もあったそうである。 秘密は、少なくとも組織の内部では完全には守れない。 動員下令で原隊を去り、乗船したはずの者がすべて一切の消息を絶てば、だれでも不審に思わざるを得ない。

2012-12-24 14:28:02
山本七平bot @yamamoto7hei

11】だが全員海没すれば「死人に口なし」で、噂の″火元″さえなくなってしまう。 また奇蹟的に助かった者がいても、そのまま南方へ運ばれ、音信不通となる。

2012-12-24 14:57:42
山本七平bot @yamamoto7hei

12】とはいえ何やら押さえつけるような不気味な雰囲気と、対潜水艦ノイローゼとでもいいたい上層部の、気違いじみた防諜々々の訓示から、逆に、恐るべき状態がひしひしと迫って来ているのはわかった。

2012-12-24 15:27:58
山本七平bot @yamamoto7hei

13】門司の宿舎では、電話も手紙も町の人と口をきくことも禁じられていた。出航がいつかはもちろんわからない。…何日目かおぼえていない。乗船に関する命令と指示があるから、明日一時に、輸送指揮官・先任将校・連絡係の三名が、船舶輸送司令部に出頭せよという通知があった。

2012-12-24 15:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

14】…「ワシらの乗る船はきっと桟橋に横づけになっトルだろう。山本、先に船を見て、それから司令部へまわろう」 先任将校のS中尉は私にそういい、二人は、少し早目に宿舎を出た。…二人は…海へとのびる桟橋へと歩いた。そこには、うす汚れた一隻の船が横づけになっていた。

2012-12-24 16:28:05
山本七平bot @yamamoto7hei

15】近づいてみると、恐怖すべきボロ船であり、一見してスクラップであった。 それも道理、後で聞いたことだが、この船は船名が玉鉾丸、船齢すでに27年、最高速度5ノット半という、当然、廃船とすべき代物であった。

2012-12-24 16:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

16】だが…不思議に常に無事帰航したという″奇蹟の船″でもあった。 乗船してから船員が語る処によると「5ノット半の船が戦場をウロウロしているなどという事は、アメリカ人の常識では到底考えられない。そこでいつも魚雷の照準を間違えるから無事なのでしょう」という事だった。

2012-12-24 17:28:00
山本七平bot @yamamoto7hei

17】だがその時は、勿論そんなことは知らない。ただ、雨の中にぼんやりと見える、異様にうす汚れ、「汚れ色」としかいえぬような色をして、至る所からシューシューと蒸気がもれ、何ともいえぬ悪臭を放っている浮ぶスラムを、しばし果然と眺めていただけである。

2012-12-24 17:57:42
山本七平bot @yamamoto7hei

18】近よると船は意外に大きい。後部の船愴にすでに乗船しているらしい兵士が、甲板に満載したトラックの間をちらほらと行き来する姿は、見えなくなった。 そのときS中尉が不意に「山本、あ、ありゃなんじゃ」と普段に似合わぬ驚きの奇声をあげた。

2012-12-24 18:27:59
山本七平bot @yamamoto7hei

19】…甲板の舷側ぞいに何やら四角く仕切られた木造の小屋…がずらりと並び、…しかもベトベトに汚れた感じであり、その下部に開口部があって、そこから汚水らしきものがたえず流れ出し…海面にまで流れている。その汚水の幕が船全体を染めあげ、前述の「汚れ色」としかいえない色にしている。

2012-12-24 18:57:44
山本七平bot @yamamoto7hei

20】「便所だ」…考えてみればこういう装置が必要な事は当然である。 船は元来が貨物船だから、船員は恐らく2、30人、従ってそれに応ずる居住施設しかない。 その船の船倉に三千人を押しこむ、人を貨物と考えれば確かにそれだけのスペースはあり…物理的には…不可能と言えぬかも知れない。

2012-12-24 19:27:59
山本七平bot @yamamoto7hei

21】しかし貨物には排泄はない。 従って否応なしに三千人分の便所は作らねばならない。とすれば舷側ぞいに海に向けて排出口をもつ小屋を、出来る限り数多く作らねばならない。 「フーム」S中尉はしばらくうなっていた。 S中尉は私が今までの生涯で会った最も豪胆・沈着・冷静な人であった。

2012-12-24 19:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

22】そして常にユーモアがあり、死に直面しても反射的に冗談の出る人だった。その人の沈黙が私を不安にした。 しかし司令部に近づくと彼はちょっと笑みをうかべ「運を天にまかすと言うが、この航海は本当にウンを海にまかすわけだな」と言った。 その言葉に私の緊張はほぐれた。

2012-12-24 20:28:03
山本七平bot @yamamoto7hei

23】…佐官以上は全て飛行機で別途に現地に赴任し、貨物船の船倉に入れられるのは一兵卒から叩き上げの尉官と幹部候補生出身の中少尉以下であった。 そして部隊が無事にマニラにつくと、そこで輸送編成を解いて現地のそれぞれの師団の指揮下に入るというのが、その仕組であった。

2012-12-24 20:57:42
山本七平bot @yamamoto7hei

24】なぜこういう方法をとったのか。内地で完全に編成してそのまま現地に送った方が、すぐに活動できるという点で、はるかに能率的ではないか。 アメリカはそうしており、従って上陸と同時にすぐに展開できる。

2012-12-24 21:27:58
山本七平bot @yamamoto7hei

25】なぜそれをしなかったのか。 言うまでもなく「危険の分散」であろう。 ある一兵科の一部隊を一隻に乗せ、それが海没すれば、その師団は一兵科が完全欠如になって半身不随になる。 それを防ぐ為、様々な兵科を細分して様々な船に乗せたのであろう。

2012-12-24 21:57:43