タンイスレイヤー

水門係 @wartergate

【TANNISLAYER】

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第１部「ネオコウセン炎上」より「ダーティ・クエスチョン・オブ・マイクロコンピュータ」

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静かな夜だ。しかし、この特殊高等教育機関ネオコウセンのガクリョではまだ爛々と卓上用ランプに明かりが灯っていた。明日、このネオコウセンでは期末試験がある。それに備えて、学生達は一夜限りの勉強をしているのだ。　1

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一晩で知識を蓄え、日が昇った後の試験で全て放出する。試験の翌日には知識も理解も消えさっているのが、一般的なネオコウセンの学生だ。この「ワンナイト・ベンキョホウ」は、ネオコウセンの創立後何時頃から始まったのかは定かではない。だが、これが現在は普通になっていた。　2

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「実際過去問な」「CASL」「C重点」といった張り紙がガクリョのとある部屋内に所狭しと貼り付けられている。ここはジョウホウ・クランに所属する学生の居室だ。彼は高学年のため、卓上用ランプを気兼ねなく使うことができる。実際、この部屋だけで5つの卓上用ランプが見て取れた。　3

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卓上用ランプを自由に使うことのできない低学年は、食事室で寒さに震え、足りない机を分けあいながら過去問を暗記するしかない。彼らはここで、奇妙な一体感を覚えながら、寒さとニューロンの疲労で精神をすり減らしていくのだ。その体は既に大掃除でとっくに限界を迎えている。　4

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「もうこんな時間だ」「オタッシャですねえ」そんな会話がどのガクリョからも聞こえてくる。どのタイミングで寝るか。ワンナイト・ベンキョホウの難しい点はそれだ。眠らないことで知識のロスを減らせるという意見もあれば、眠って集中力を用意したほうがいいとの噂もある。　5

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時刻はもうウシミツ・アワーをとうに過ぎ、深夜から早朝へと移り変わっていた。「クアーッ！クアーッ！」「アイエッ！？」ロボット鴉が鳴きはじめた。ネオコウセンのマッドな学生と教授によって産み出されたロボット鴉は、早朝になるとこのおぞましい鳴き声を静かなネオコウセンに響かせる。　6

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その鳴き声はワンナイト・ベンキョホウを未だ続けていた学生たちを震え上がらせた。「アイエエエ！？」「ナンデ！？もうデスバードナンデ！？」知識を詰め込むためにアンコを摂取しながら暗記に励んでいた学生らは、このロボット鴉の鳴き声をおぞましい怪物、デスバードのものだと思い込んでいる。　7

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デスバードとは、古事記にも記されている単位を食い荒らす怪鳥である。ネオコウセン外部ではとうに忘れ去られている存在だが、ここでは未だに、単位を失うメタファーとしてデスバードの存在が信じられているのだ。これもネオコウセン独自の現象である。　8

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既に試験開始まで5時間を切り、ガクリョ内はある種の神聖な平穏に包まれていた。試験前になると、これが毎日繰り返されるのがネオコウセンの平常である。　9

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…数時間後！　10

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「体操10分前ドスエ」「体操5分前ドスエ」「体操3分前ドスエ」リラクゼーション効果のあるといわれている電子マイコ音声が、学生を無理やり起床させ、グラウンドへ向かわせる。彼らの足取りは重い。無理もないだろう、大半がウシミツ・アワーが過ぎても勉強していたのだ。　11

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「イーチッ」「ニィーッ」「サアァーンッ」「コエガチイッサイゾコラー！」整然と整列しゼンめいた掛け声で体操を続ける低学年に、クローンハンチョから恐ろしいヤクショク・スラングが浴びせられる。クローンハンチョは、あまりの不祥事に数が足りなくなったハンチョの代わりとして導入された。　12

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ハンチョとは、ガクリョにて運営を行う学生のことで、ネオコウセン独特の風習だ。上にはシドリョセイ、リョセイカイ、リョチョと続き、ハンチョは最も数が多い。故に、不祥事も実際多かった。ハンチョの多くは、違法麻雀を平然とこなす。それがばれないものだけが、上に進むことができるのだ。　13

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その不祥事の数に頭を痛めていたネオコウセン理事会は、遂にクローンハンチョの一部導入を決定した。クローンハンチョは違法行為を殆ど行わない。しかし、低学年への指導が厳しすぎるのも事実だ。実際、盗食を行った低学年をクローンハンチョらが囲んで棒で叩いた事件は顰蹙を買った。　14

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ゼンめいた体操が終了した。「集まってください」「連絡のある人いますか」「では解散します」儀礼的なワードの後、学生たちは一斉に食堂へ向けて走りだす！彼らは素早く朝食を終え、試験前に最後の詰め込みを行うつもりなのだ！危険を感じ船から脱出するネズミのように走る！走る！　15

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「グワーッ！」先頭近くを走っていた学生が転倒！しかし…おお、見よ！他の学生らは目にもくれず走り続ける！「グワーッ！グワーッ！」踏まれる！踏まれる！誰も助けを差し伸べはしないのか！走る学生が消えた後、転倒した彼は立ち上がり、すごすごと食事の順番を待つ最後尾についた。マケグミ！　16

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既に食事を終えている高学年生たちは、悠々と居室へ戻っていく。彼らも試験直前の暗記を続けるのだろう。時は近い。開始時刻に近づくにつれ、ネオコウセン内は徐々にジゴクめいたアトモスフィアを漂わせていくのだった…　17

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「ちょうど進級」「外部単位な」「落としても平気」クラスルーム内の掲示物だ。これらのマッポーな単語に包まれて、学生らは最後の追い込みに励む。ここでの勉強が、B評価への助けになるかもしれない…そういった僅かな希望が、彼らを未だ過去問へと向かわせていた。　18

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だがしかし、マッポーの世はショッギョ・ムッジョ…　ついに教官がクラスルームに現れた。その手にはしっかりと「マイクロコンピュータ」と書かれた試験問題が抱えられている。「ア、アイエエ…」前日、サイバースペースへとIRCアクセスし勉強から逃避していた学生がしめやかに失禁した。　19

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「試験を始めます」決断的パワーワードが放たれ、学生らは神妙な面持ちで席についた。裏向きの試験用紙が配られる。学生は筆記具を取り出し、臨戦態勢に入る。ここが全てだ。ここで力を出し切らなければ実際マケグミである。彼らはこの試験を無事終えられれば長いバケーションであった。　20

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「始め！」そのコンマ0.02秒後には大半の学生がもう用紙をひっくり返していた！ワザマエ！だが！「グワーッ！」「グワーッ！」「グワーッ！」「グワーッ！」ナ…ナムアミダブツ！次々と机に倒れ伏していく学生たち！一体何がおこったというのか！「グワーッ！」「グワーッ！」「グワーッ！」　21

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問題文に注目していただきたい！一問目からVHDL命令を説明しろとの記述問題である！この問題はこの講義の期末試験では初出である！大半の学生は初見のこの問題を見た瞬間過去問リアリテイショックを起こし、失神してしまった！ALAS！　22