ついのべまとめ

雪月 @setugetufuka

僕の叔父さんは夜を養殖している。最近は夜が少なくなって、星もずいぶん減ったそうだ。「どんなに育てても街の灯りにやられちゃうんだ」叔父さんの話を聞きながら、二人で大きな鞄を引き摺って裏山に登る。頂上に着いた。鞄を開くと黒い流れが駆け上っていく。夜が、空に放された。 #twnovel

雪月 @setugetufuka

コタツをしまおうと布団をあげたら、中にでっぷり太った見知らぬ猫がいて、迷惑そうに頭だけ上げた。どこの子だ？ 布団を戻して考える。すると猫が顔だけ出し「しまうの？」と聞いてきた。私が頷くと「じゃあ他を探すか」と言ってまた潜った。布団をあげるともう猫の姿は無かった。 #twnovel

雪月 @setugetufuka

「いつか友達が迎えに来るから、ここで待っていろって言われたの」僕の質問にロボットは答えた。でも誰にそう言われたのかには答えられない。やはりデータが消されている。僕の仕事は不法投棄されたロボットを処分場に運ぶ事。「もしかして、あなたが友達？」僕はいつも返事に迷う。 #twnovel

雪月 @setugetufuka

#twnovel 入院中の楽しみはあの子と色んな話を作る事。数多のﾁｭｰﾌﾞに繋がれたあの子も物語を紡ぐ時は楽しそうだった。病室は私達次第で海底や宇宙になった。どの話にも終わりはない。いつも｢続きは明日｣で手を振った。昨日の続きが今日、今日の続きは明日といつまでも続くと思ってた。

雪月 @setugetufuka

僕は育児ロボット。古くなり処分される。なにより君は大きくなって、もう僕は必要ない。「今までの記録を消去します」そう言うと君が泣き出した。 #twnovel 「泣かないで。いい子だね」僕は育児ロボット。泣いてる子には必ずそう話しかける。それでも泣き続ける女性の頭を僕は優しく撫でた。

雪月 @setugetufuka

初詣のついでにおみくじをひく事にした。筒をよく振って逆さまにする。坊主頭で古びた着物を着た、3センチくらいの男の子が転がり落ちてきた。これは末吉だ。私の掌でペコリとお辞儀をしている。なかなか可愛らしい。連れて帰る事にしよう。「一年間よろしくね」そっと肩に乗せた。 #twnovel

雪月 @setugetufuka

狐の姉弟が月を眺めていた。姉は人に化けて街で働き、弟を養っていた。明るい性格だったのが、最近はため息ばかりついている。「姉ちゃん、月がきれいだよ」弟が言うと姉は泣き出した。「あの人もそう言ってくれたの。私どうしよう…」弟は訳が分からぬまま姉の背中をさすり続けた。 #twnovel

雪月 @setugetufuka

その古ぼけたロボットは、いつも同じ時間に工場へ行き、同じ仕事を同じ動作で行い、同じ時間に同じ道を帰って行った。ある晩、ロボットの家の前で少女が歌っていた。ロボットは差し出された缶に硬貨を入れた。それから毎晩、ロボットは硬貨を握りしめて家の前に佇むようになった。 #twnovel

雪月 @setugetufuka

オタマジャクシだと思って網ですくったら小さな黒猫だった。水を張ったバケツに入れると、きょとんとして底に座り込む。その姿が可愛らしくて、うちに連れ帰る事にした。黒猫は今、水槽の中で欠伸をしている。開いた口から丸い泡が上がった。もしかしたら鳴いているのかもしれない。 #twnovel

雪月 @setugetufuka

洗濯物を干していて靴下の片方が無い事に気が付いた。洗濯機は空っぽだから、たぶんこの散らかった部屋のどっかに紛れてるだろうと放っておいた。しかし、この片方だけの靴下がいつまで経っても乾かない。それどころかすすり泣きを始めた。僕は夜中に部屋中を捜索する羽目になった。 #twnovel

雪月 @setugetufuka

僕の猫にはネジがついている。いつも引っ掻いて噛み付いて、触らせてもくれないくせに、ネジを巻いて欲しい時だけ甘えてくる。でも僕はそんな猫が好きだった。 #twnovel 目の前で横たわる猫。動かないのはネジが切れたからじゃない。わかってるけど…。それでも僕は諦められずにネジを巻く。

雪月 @setugetufuka

夕焼けの帰り道、近所の空き地で仔羊が草を食べていた。何故かお尻の毛が少し赤い。どこの羊だろう。考えているとメェと聞こえた。母羊もいるのかと辺りをきょろきょろ見回したら、仔羊が走り出した。そのまま空へ駆け上っていく。そうして茜色に染まる雲の端にちょこんと並んだ。 #twnovel

雪月 @setugetufuka

「春はどこですか？」店仕舞いの手を止めて振り返ると狐の子が立っていた。「春を迎えに来たんだけど、どこにいるのかわからなくなっちゃって」そこで売り物の花に気付き「もうこの花が咲いているのに」と言って泣き出した。私はその後、夜遅くまで狐に温室の説明をする事になった。 #twnovel

雪月 @setugetufuka

「ヒトは全部処分するように言った筈です」先生に見つかった。「でも！ 地球のヒトは歌うんです。それはとても素敵で…」僕はヒトの歌を聞くのが大好きだった。先生は僕の肩に手を乗せ、優しく言った。「素敵な歌を歌えても、命の奪い合いをするのでしょ？」僕は泣きそうになった。 #twnovel

雪月 @setugetufuka

きらきらと輝くものが好きで巣に集めている。最近拾ったのは恋心。ほんわか暖かくて、寄り添っているだけで幸せな気分。ただ時々きゅんと鳴って切なくなる。このままじゃ使いにくいからもうひとつ同じものを見つけてきた。すると燃えるように熱くなって、すぐに冷めてしまった。 #twnovel

雪月 @setugetufuka

「キィーキィーと音がする」そんな症状で修理に出されるロボットが増えた。これは直すことができない。分解しても異常が見つからない事が多く、直さずに処分されるからだ。でも修理ロボットの僕にはわかる。その音は彼らの心が軋む音。人と同じように、ロボットの心も目に見えない。 #twnovel

雪月 @setugetufuka

彼女が水槽を買ってきた。砂利を敷き、水草を植え、濾過器を設置し、暇があると眺めているのに、一向に魚を入れようとしない。理由を聞くと、彼女は真紅の唇に人差し指を押し当て「内緒よ」と笑う。 #twnovel ある日、突然彼女が居なくなった。いつ入れたのか、水槽に真紅の魚を一匹残して。

雪月 @setugetufuka

叔母の遺品を整理していたら、古い鳥かごを見つけた。ずいぶん前に叔母が「空をつかまえた」と言っていたことを思い出した。まさかと思って中を覗き込むと、ぼんやりと青空が見えた。私が鳥かごを開けると青空は嬉しそうに空に昇っていく。暗い夜空にほんの一部分、青空が広がった。 #twnvday

雪月 @setugetufuka

僕を育てたロボットは話せなかった。たぶん育児用のものではなかったんだと思う。ロボットは…彼は、ピアノの音で僕を呼んだ。僕の名前は軽やかで楽しげな曲。彼はいつも穏やかな旋律で僕に語りかけた。 #twnovel ある日、大人が来て僕たちは引き離された。僕は話す事が苦手な大人になった。

雪月 @setugetufuka

なんでいつも一人なの？ 僕が聞くと彼女は「魔法使いだからよ」と答えた。「魔法を使えば大きな獣を狩ることもできるし、欲しい物はなんだって出せる。誰の手も借りずに生きていくことができるの」でも寂しいんでしょ？ だから僕を作ったんだよね。彼女は何も答えてくれなかった。 #twnovel

雪月 @setugetufuka

宇宙人にスカウトされた。彼らの道具を使って流れ星の監視・誘導をする仕事だ。私がやる気になったところで宇宙人は言った。「この星に神という概念はありますか？」頷くと「ではこの話は無かった事に。そういう星の方にこの仕事を任せると、後々自分を神だと言い出して面倒なんで」 #twnovel

雪月 @setugetufuka

眠るように横たわる叔母の胸元に、約束通り本を置いた。生涯独身を貫いた叔母。やっぱり変わってる、と兄は言う。私は心の中で叔母に話しかけた。大切なのは本じゃなくて中に挟んであった押し花でしょ。 その花をくれた人への想いを持って行きたかったんだよね。 #twnvday #twnovel

雪月 @setugetufuka

不思議な本を拾った。いつ開いても明日の天気だけが表れる。ちょっとだけ便利だった。ある日、明日はどうしても晴れて欲しくて、ページの上にマジックで「晴れ」と書いてみた。翌日は見事な晴れ。でもそれから後、私の書いた「晴れ」は消えず、ずっと晴天が続いている。どうしよう。 #twnovel

雪月 @setugetufuka

タイムマシンで過去に逃げた犯人は、将来俺の父親となる男の子を人質にした。「この子を殺せば時空警察のお前は消える」「やめろ」懸命の努力も虚しく子供は殺されてしまった。俺はがくりと膝をつく。しかし奴は俺以上に動揺していた。「何故お前は消えない」なんてことだ。母さん！ #twnovel