【娯楽小説論・試論】(小説の文章と読み方)

娯楽小説の文章と読み方についてのメモ的まとめ
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鳥山仁 @toriyamazine

(1)これで文章話はラストかな? 最後に読み方編をダラダラとツイートしていきまっする。

2013-03-06 06:13:22
鳥山仁 @toriyamazine

(2) 【娯楽小説論・試論】(小説の文章と読み方)  小説における文章の読み方は、大きく分けて3種類ある。 (A)文章を論理的に理解する。 (B)文章中の単語からイメージを広げる。 (C)音読。

2013-03-06 06:16:29
鳥山仁 @toriyamazine

(3)  この中で、長編小説を音読して、発語しやすい文章を良い文章として選択する事は論理的に可能でも、実際に全文で行うケースは希なので、実質的に(A)と(B)が考察の対象となる。

2013-03-06 06:16:57
鳥山仁 @toriyamazine

(4)  まず(A)に関してだが、いわゆる「普通」の文章の読み方であると思っていればいい。つまり文章を読んで、 1.描写された情景や行動に矛盾がないか? 2.文法上の誤りや誤字脱字がないか? 3.倫理学的に矛盾がないか?  の3点をチェックして問題がなければ良文と判断する。

2013-03-06 06:18:11
鳥山仁 @toriyamazine

(5) このうち(1)と(2)に関しては説明不要だろう。問題は(3)だが、これは論理学を勉強しなければならないので、小説執筆とはいささか畑が違うという理由で詳細の記述を避ける。

2013-03-06 06:18:43
鳥山仁 @toriyamazine

(6)  ただ、重要なポイントだけは覚えておいた方が良い。それは「単語が何を指し示しているのか」が明確になっているかどうかだ。

2013-03-06 06:19:50
鳥山仁 @toriyamazine

(7)  たとえば薔薇という単語がある。この単語を辞書で引けば、その意味について解説がある。しかし、この薔薇という単語は、単体では何を指し示しているのかまでは明かではない。花屋に売っている薔薇かも知れないし、庭園に植えられた薔薇かも知れないし、自宅で飾ってある薔薇かもしれない。

2013-03-06 06:20:20
鳥山仁 @toriyamazine

(8)  つまり、薔薇という単語は文法に則って配置されることによって、初めて「どのような薔薇」を指し示しているかが明確になる。  以上の原則を遵守した文章は、正確な描写力を備えることになると同時に、長文を書く際の基礎的な技術にもなる。しかし、これらの文章は機械的で情緒に欠ける。

2013-03-06 06:23:56
鳥山仁 @toriyamazine

(8)   次に(B)に関してだが、こちらは前述の説明とは真逆で、薔薇という単語単体から漠然とわき上がるイメージを利用して、読む者の想像力を刺激する事を目的とする。その効果は原理的に詩と類似しており、完成した文章も詩的である場合がほとんどである。

2013-03-06 06:24:19
鳥山仁 @toriyamazine

(9)   近代から現代の英米文学に決定的な影響を及ぼしたとされるヘミングウェイは、このタイプの文章を得意とする作家で、短い単語の羅列のみで作品が創れることを実証した。  それは For sale: baby shoes, never worn (売ります・赤ちゃんの靴・未使用)

2013-03-06 06:25:10
鳥山仁 @toriyamazine

(10)  というもので、たった6つの単語のみで、恐らく死産か突然死した乳幼児がいた夫婦、もしくはカップルが、不必要になった靴を売りに出した、というイメージを読み手に想起させる。

2013-03-06 06:25:59
鳥山仁 @toriyamazine

(11)  しかし、前述した(A)の観点から判断すると、この単語の羅列は何も指し示していない。未使用の靴が誰の所有物だったのかが不明だからだ。つまり、単語の羅列でイメージを想起させる方法は、正確性が無く漠然としており、しかも短い文章しか書けない。

2013-03-06 06:26:18
鳥山仁 @toriyamazine

(12)  その代わり、この方法で書いた文章は、特定の人間に強烈な効果を及ぼす場合がある。要するに、酔っぱらえるのだ。酔っぱらうために酒を飲む人が後を絶えないように、陶酔感を求めて小説を読む層が少なからず存在するので、この効果は無視できない。

2013-03-06 06:26:53
鳥山仁 @toriyamazine

(13)  また、酔った人間に、正確性とか論理性を求めるのはお門違いというものだろう。  以上のように、(A)タイプの文章と(B)タイプの文章には、それぞれにメリットとデメリットがある。また、読者の大半は、二つの読み方を並行して行っている。

2013-03-06 06:27:27
鳥山仁 @toriyamazine

(14)  だが、文章を執筆する場合、書き手はどちらかに軸足を置いた文章の書き方をする。というよりも、2つのタイプの文章はトレードオフの関係にあるため、1つの作品にごちゃ混ぜにすることが難しい。

2013-03-06 06:27:56
鳥山仁 @toriyamazine

(15)  これまでの私の経験からすると、小説用の長文が得意ではない書き手が(B)の判断基準で文章を書くケースが多い。少なくとも日本語では、この方法と主語を省略したり文章末尾を省略したりする省略形の文章との相性が良い。どちらも文章が短くなるという共通項があるからだ。

2013-03-06 06:28:19
鳥山仁 @toriyamazine

(16)  また、このタイプの書き手の中には、比喩表現として隠喩を多用するケースがしばしば見られる。これも理由は同じで、日本語では直喩を短縮したものが結果として隠喩になるからだ。  例を挙げよう。 (1) 彼は鬼のような人だ。(直喩) 彼は鬼だ。(隠喩)

2013-03-06 06:29:03
鳥山仁 @toriyamazine

(17)  こうやって実際に比較すれば説明は不要だろう。直喩から隠喩に移行すると「のような人」がすっぽり抜け落ちて短縮されるわけだ。  ちなみに、長文が得意な作家は隠喩よりも直喩、更に文章レベルが上昇すると換喩を多用するようになる。何故なら、主語を省略して文章を書かないと、

2013-03-06 06:29:57
鳥山仁 @toriyamazine

(18) (A)同じ単語や同じフレーズを短いスパンで繰り返すと幼稚に見える。  という原則に抵触するため、どうしても換喩を使う必要性に迫られるからだ。

2013-03-06 06:30:40
鳥山仁 @toriyamazine

(19)  たとえば「Aは~」「Aは~」と主人公の前を文頭にした文章を連続して書いていると幼稚に見えるため、「Aは~」と描いた後の文章で「彼は~」と代名詞を使い、次の文章で更にAという主語を使わざるを得ない場合には……

2013-03-06 06:31:23
鳥山仁 @toriyamazine

(20) ……このキャラクターが帽子を被っていたら「帽子は~」と換喩を使うという方法を用いることになるわけだ。  従って、どんな比喩表現を多用しているかで、その作家の根幹的な文章傾向の把握は容易である。

2013-03-06 06:32:40
鳥山仁 @toriyamazine

(21) 場合によっては本人の話を聞くだけで、文章を見なくてもだいたいのパターンを把握することも可能になってくる。  それでは、最後に同じ内容を書いた例文を、1.素の文章 2.短縮形 3.小説用の長文の順番に並べて、その効果を比較してみよう。

2013-03-06 06:33:11
鳥山仁 @toriyamazine

(22) 1.素の文章 Aは18才です。 Aは高校生です。 Aは文芸部に所属しています。 2.短縮形 Aは18才。 高校生。 所属は文芸部。 3.小説用の長文。 文芸部に所属するAは、18才の高校生だ。

2013-03-06 06:34:00
鳥山仁 @toriyamazine

(23)  どうだろう? 仮に上記の文章を全て思いつけるのであれば、相当な文章力の持ち主だ。 (以下省略)

2013-03-06 06:34:27