知人がFBで「米国海軍キタ!」とよろこんでシェアしていた空母「ロナルド・レーガン」の写真は、原子力船としては初の日本国内配備となるジョージ・ワシントンが横須賀沖で撮影したプロモーション用写真だった。
2013-03-11 18:19:19ひどいのになると、陸前の津波被害といって出回った凄惨な写真は、1年前のハイチ地震のものであった。折り重なる死体の横顔をよくみれば、それが陸前ではないことはわかる程度に、これは悪意を感じる噂だった。
2013-03-11 18:25:51原発爆発のほぼその瞬間から、関西電力や中国電力社員を名乗った節電要請があったとかなかったとか。「それは偽物なので注意してください」という親切なツイートは山ほど見かけたが、実際に電話がかかってきたという話は聞かなかった。そもそもそんな電話あったのだろうか。
2013-03-11 18:30:02電力会社社員を名乗って、ひとり暮らしの女性宅に押し入りレイプするという噂も、あつかいが難しい。もしかするとそういう事件が実際にあったかもしれない。ゼロではないなら、この手の噂を否定することは困難である。これを「初期オルレアン型」と言う。
2013-03-11 18:32:30なかには、「デマの伝播力を計測するためにあえて嘘を流してみた」といった人もいた。きっと見事、人口に膾炙しただろうて。
2013-03-11 18:35:24ツイッターが災害に強いというのは、送信パケットが小さくて済むためトラフィックをダウンさせる可能性が低いという意味でなら肯定できるが、当初目にした噂、デマ、都市伝説のたぐいをみると、利点も弱点も同じだけあるという結論にならざるをえない。
2013-03-11 18:40:54つまり自動車の発明のように、ツイッターが「便利だが人を殺す機械」とならなければいいが、と思ったものだ。
2013-03-11 18:42:01震災関連と、それに輪をかけてアラブの春がSNSを持ち上げた2011年だった。でも逆に、SNSに掲載される情報のあまりの素人臭さに絶望さえしたもんだ。テレビや新聞にはありあまる問題があったとしても、その情報の最終的な責任は持っている。それがない情報は恐ろしいと思った。
2013-03-11 18:50:12にしても空母ジョージ・ワシントンをロナルド・レーガンと取り違えるその早とちりの意識の中に、日本人にとってのヒーロー像が見事に凝縮されていると感じたものだ。空母ワシントンの甲板には、海兵隊員たちが「はじめまして」と人文字を作っている。
2013-03-11 18:56:26原子力船が「はじめまして」というだけでも皮肉すぎるのに、それがいつのまにやらヒーロー扱いである。 と思って当時しらべたら、人文字写真はみごとに米国軍によって著作権放棄のクリエイティブコモンズ登録がされていた。
2013-03-11 19:00:15流布するための下地作りというと大げさだが、プロモーションとはそういうことだと思った。原子力空母の平和的写真を再利用可能状態で配付し、広く再利用させる。有事の際に、日本人はみごとに手元の友好的な写真を利用してアメリカの支援をよろこぶ。アメリカのPRにはかなわない。
2013-03-11 19:03:28フランスの社会学者エドガール・モランは、一度産まれた神話(噂)は否定では消えることがないと言っている。ユダヤ人が犯罪を犯している→警察がそれを否定する→ユダヤ人は警察とグルである。となってしまう。
2013-03-11 19:07:55空母ワシントンをレーガンと取り違えたボクの知人は、写真の間違いに後々気づいたとしても、彼が米国軍に感じた敬意や尊敬といった無意識の感情は消えることがないだろう。
2013-03-11 19:11:13またハイチの写真を陸前と言って配付することの裏には、2重の問題が隠されていると思った。デマの拡散という悪意と、デマの元になる写真から現実の(ハイチ地震という)問題を消去させてしまうことである。写真が陸前でないと知った人はこういうだろう。「なーんだ、人騒がせな」
2013-03-11 19:16:42ところがたった1年前にハイチでは31万もの人が死んでいるのである。写真を見るものに、そのデマはハイチの悲劇を東北の悲劇から切り離す作用を与える。だから2重に罪作りだと感じた。
2013-03-11 19:19:561年前の31万人の死が、たったひとつの偽のキャプション(陸前の被害)によって完全に他者化されてしまう。同じ悲劇をあじわった被害者同士に「無関係」という深淵をうがってしまう。あのデマは本人さえ気づかないところで膨大な損害を与えたと思う。
2013-03-11 19:32:30ボスニアでは爆撃された子どもたちを写した同じ一枚の写真が、クロアチア、セルビア双方によって利用された。それはキャプションを「セルビアによる爆撃で村を失った子供」の「セルビア」の部分を「クロアチア」に変えただけのものだった。(ソンタグ『他者の苦痛へのまなざし』)
2013-03-11 19:39:04写真にはそういう「詐術」がつねにあるということだろう。詐術そのものが写真でもある。「写真に写らなかった部分には何があったのか」まで考えることはふつうむつかしい。
2013-03-11 19:54:10