[公開読書] 新版 質的研究入門〜〈人間の科学〉のための方法論【第3〜4章】
- shirasan41
- 4216
- 0
- 0
- 7
組み合わせによって起こることは以下の3つ(Kelle and Erzberger 2004参照)。 (1)質的・量的の結果が収束し、強め合い、同じ結論を支持 (2)両結果は対象の異なった側面に焦点を当てるが、相補的なもので、合わさることで全体像がクリアに (3)両結果は矛盾する
2013-03-18 11:53:50【(2)と(3)が起こった場合】 ・より多くの知見を得るために組み合わせた→相違や矛盾を説明する理論的解釈や説明が必要。 ・知見を妥当化するために組み合わせた→妥当性の限界を示している。詳しくはトライアンギュレーションの文献を参照(29章, Flick 1992a; 2007b)
2013-03-18 11:58:55●研究の評価と一般化 量的研究の評価基準を満たしていない(サンプル数が足りないなど)ということで、質的研究は度々批判される(28章)。 しかし、そもそも質的研究の原則や実践が量的の基準に合わないかもしれないことを考慮に入れるべき。逆の方向での適用でも同様だが、そういう例はまれ。
2013-03-18 12:12:12限られた数のインタビューを統計的なサーベイ調査で一般化するのは、一般化の1つの方法でしかない。多くの質的研究は新しい洞察や理論を発展させる事を目標としているので、数量的な一般化は必ずしも適当でない。質的研究で大事な事は、理論的背景の中でいかに質的な研究結果を一般化するかという事。
2013-03-18 12:15:44事例の数より「サンプリングの決定の質」の方が重要。 つまり、「どれくらいの事例?」ではなく「どの事例?」であり、「その事例は何を代表しているか、あるいはそれらは何のために選ばれか?」の方が質的研究では重要。 このように、質的研究の一般化の問題は、数量化とはそれほど関わりがない。
2013-03-18 12:17:54●質的・量的研究に関する最近の議論 ブライマンは量的研究と質的研究を統合する11のバリエーションを挙げている(Bryman 1992:59-61)。 混合方法論(Tashakkori and Teddie 2003a)は、質的・量的の実用的な組み合わせに関心がはらわれている。
2013-03-18 12:23:41その他、質的・量的の両方法のトライアンギュレーション(Kelle and Erzberger 2004; Flick 2007b)が話題になっている。
2013-03-18 12:25:53●方法の適切性という基準点 質的研究と量的研究の論争は、もともと認識論的・哲学的な立場(概観としてBryman 1988; Becker 1996)が論点だったが、次第に各アプローチの適切性に論点が移っている。
2013-03-18 12:29:29「質的・量的アプローチは競合的ではなく、相補的な関係なので、研究設問に応じて特定の方法を使用すべき」ということはウィルソン(Wilson 1982: 501)やマッキンレー(McKinlay 1993, 1995)、ボーム(Baum 1995)も述べている。
2013-03-18 12:31:18バウアーとギャスケル(Bauer and Gaskell 2000)は、2つのアプローチの違いは、形式化と標準化の程度の違いであると述べる。 質的と量的を結びつける問題は十分に解決していないが、次の3つに大体行き着く。
2013-03-18 12:33:30(1)順番にひとつずつ用いる(異なった優先順で) (2)並行して用いる(質的・量的の両戦略の異なった独立の程度で) (3)どちらかを優位なものとして用いる(異なった優先順位で)
2013-03-18 12:34:46質的・量的の統合については、研究デザインのレベルで議論されることが多い。一方、適切なデザイン(8章)や研究手順、データや結果の評価のあり方(28章)の点で、各研究法には相違点がある。違いを踏まえて2つの方法をどう組み合わせるかは更に議論していく必要がある。
2013-03-18 12:37:24質的・量的を組み合わせた例を評価する際、手がかりになる問いは以下の4つ。 (1)両アプローチは同等に扱われているか? (2)両アプローチは別々に適用されるのか、それとも互いに結びつけられた形で用いられるのか?〜多くは最後に両アプローチの結果を比較しているが。
2013-03-18 12:40:56(3)両者の論理的関係は何か〜時間的順序の関係だけなのか、真に統合されているのか。 (4)研究を全体的に評価するための基準は何か?〜旧来型の妥当性検証を優先するのか、それぞれの研究形態に適した基準で評価が行われるのか。
2013-03-18 12:42:33第3章のまとめ ・質的と量的との接合には大きな関心が向けられている ・両研究の組み合わせは異なったレベルで行われる ・重要なことは、方法の実用的な結合にのみ限定せず、理論的な違いをも振り返って考慮に入れる事 ・主要な基準点は、研究対象に対して方法や組み合わせが適切かどうかという事
2013-03-18 12:51:21第4章 質的研究の倫理 研究と倫理の問題を切り離して考えることは出来ない。いくつかの国で倫理綱領が作られている(特に医学)。すべての研究参加者の保護を念頭としたものが多いが、中には脆弱性のあるグループや民族的な多様性に特に配慮するものもある。
2013-03-23 09:28:46●研究倫理の必要性と質的研究のジレンマ スキャンダルがきっかけで、倫理的問題に焦点が当たることがある。ドイツのナチ時代の医学研究実験の反省によるところが大きい。倫理の原理と現場の間では、一般的な規則と日常の研究現場の規則が完全には一致しないことから、緊張関係になることがよくある。
2013-03-23 09:32:28●倫理綱領は万能の解答か 倫理綱領は、研究対象者とフィールドとの関係を規制する為にある。ネットでみつかった倫理綱領の実例のいくつか↓ ・イギリス心理学会(BPS) ・イギリス社会学協会(BSA) ・アメリカ社会学協会(ASA) ・社会調査協会(SRA) ・ドイツ社会学会(GSA)
2013-03-23 09:36:57これらの倫理綱領では、インフォームド・コンセント(説明に基づく承諾)が求められている。また、研究は参加者に害を与えないこと、研究目的が偽られないことも求める。
2013-03-23 09:38:29マーフィーとディングウォール(Murphy and Dingwall 2001:339)は「倫理の理論」で以下の4点を重視する。 ・非有害性〜参加者に害を与えない ・有益性〜研究は何らかの益に結びつくのだ ・自律性、自己決定〜参加者の価値と決定の尊重 ・正義〜全ての人を平等に扱う
2013-03-23 09:41:38マーフィーとディングウォールによると、倫理綱領の文言が抽象的なレベルでは広く合意が得られるが、エスノグラフィー(17章)などの研究現場のレベルになると、インフォームドコンセントが難しかったりすることも多い。
2013-03-23 10:18:42●倫理委員会は解決策か 倫理委員会は、ある研究が実施される前に、研究計画と方法を審査する。よい実践とは「研究者が倫理綱領に従って研究を実施すること」と「研究申請書の倫理的健全性が点検されていること」の条件を踏まえたものとされる。倫理的健全性とは、以下の3つの側面で点検される。
2013-03-23 10:23:28(1)学問としての質 既存の研究の二番煎じや新知見を産出しない研究=非倫理的(例:Department of health 2001)。しかし、委員会メンバーによる研究の前提と基本の不理解や、彼らが申請者とは違う方法を背景にしていたり、研究として気に入らない等で却下される事もある
2013-03-23 10:28:06このように、倫理委員会が、ある申請を却下したり妨げたりする決定を下す理由は様々であることは問題である。自然科学的な志向性のある委員会やメンバーによって質的研究が審査される場合にはこうした留保がつけられる可能性が特に強くなり得る。
2013-03-23 10:30:48(2)研究参加者の保護(=welfare) 参加者にふりかかるリスクと研究によって見出すことのできる利益を比べるということ。相対的に決定されるのでジレンマがここでもしばしば発生する。
2013-03-23 10:34:54