僕は、「杉山登志」には、なれない。/或いは「ことばの偶像」を巡って考えたこと。
しかしその場で、自分が文系のものの見方にすっかり染まってんだなぁ、ってことを再確認した。文理をバッサリ分けて全く別の物にしてしまう考え方は嫌いだけど。
2013-03-25 23:53:32数学の授業では計算につまずいてばかりで頭が回らなかったから。高2で社会学にのめり込んで、大学ではこれを勉強したいと決め込んでいたから。 どちらも理由としては当てはまる。だけど、自分が持っていた、ことばに対する「信仰みたいなもの」が、一番根本にはあったのだと思う。
2013-03-25 23:54:46僕は不器用だったし、よのなかのことをほとんど何も知らなかったから、 中高通じて、自分とよのなかとを繋げられることばはほとんど無敵の道具だと思ってた。
2013-03-25 23:55:31東京の大学に行っても、ことばに対する偏愛と執着それ自体は1年では変わらなかった、と思う。 読む対象が小説から評論に変わり、評論から広告や宣伝の実用的な文句に変わっても。
2013-03-25 23:55:35だけど、1年間ではいろんなことがあって。読み手から当事者になって、当事者から降りて読者に戻って、こころを亡くしてしまったら読めなくなって、また読むようになって。
2013-03-25 23:56:54このことについては多くをここで書くつもりはないのだけど。弁明なんて聞きたくないだろうし。僕も、弁明するくらいなら口をつぐんでしまおう、と思うし。 それでも少しだけ、揺れていた時の気持ちの一部を書かせてもらうと、僕はずっと、ことばを信じていたかったんだよ。
2013-03-25 23:57:28ことばさえ伝えられれば、ひととひととはもっと親しくなれて、 世の中はほんのちょっと楽しくなって、繋がらなかった世界も繋がって、ことばさえ届けば、ことばさえ届けば、ことばさえ届けば、
2013-03-25 23:58:02でも、ことばはずっと僕が信じようとしてたみたいな、無敵の道具ではなかった。と思う。システムの潤滑油としてのことばも必要なものだと今では思うけど、 それは僕が信仰してきたことば、とは違った。僕が信じたことばの偶像は崩れ落ちた。融けて、掻き消されて、見えなくなった。
2013-03-25 23:58:22それだけじゃなかった。ことばはいつでも力を持つ道具でもなかった。ことばで表現することが意味を持たない場所もあった。 おかしな表現を使うならば、ひとは一人ひとり、自分なりのことばの偶像を持ってるんだと思う。信念とか、意思なんてものは、ことばの偶像が形を変えているだけで。
2013-03-25 23:59:24それにしても、僕はずいぶん幼稚な「ことばの偶像」を、えらく長いことそのまま信じてきてしまったんだなー、と、ある時気づいた。 スヌーピーのライナスが毛布を手放せないみたいに。
2013-03-25 23:59:41こころを砕いてことばにすることにずいぶん憧れてもいたんだけど、そうやって、揺れて揺れて、自分のことばの偶像を見失って、 それはすごく怖いな、と思ってしまった。それでもことばを使わずには生きていけないから、こころを捨ててでくの坊になることはできないから、
2013-03-26 00:00:12だから、こころを取り戻さなくてはいけなかった。出来る限りの所までことばの偶像を復元しなくてはいけなかった。そのために時間を使い過ぎた。
2013-03-26 00:00:31リッチでないのに リッチな世界など分かりません ハッピーでないのに ハッピーな世界などえがけません 夢がないのに夢を売るなどとは ……とても 嘘をついても ばれるものです
2013-03-26 00:01:05今から40年前の冬の日に、こんなことばを残して首を吊った放送作家がいた。こころを亡くしてた頃に彼の伝記を読んでショックを受けた。真意はわからないけど、これがことばのためにこころを削りすぎて死んだ人間のことばか、と思った。このままこころを失ったらまずいという考えが頭をよぎった。
2013-03-26 00:02:30その男、杉山登志の名前を、たぶん僕は忘れないと思う。文豪は自殺しなくなった。ことばの魔術師は自分の言葉を嘘と断じて死んだ。ことばはこころを蝕んでいた。それを怖いな、と思ってしまう僕は、ことばの世界に深入りすべきではないな、と思ってしまった。
2013-03-26 00:03:01高校のクラスの卒業文集に僕は、「ことばあそびはもうおしまい」と書いた(と、思う)。この時僕はことばと関わるのをやめるつもりはなかった。無知だったから。幼いことばの偶像を抱えたままで、毎日こころを削りながらことばと格闘してるひとたちの現場にむやみに突っ込んでいったんだよ。うん。
2013-03-26 00:03:46こころをことばに蝕まれないためには、自分のことばの偶像からうまく距離を取っていることが肝要。よそのことばの偶像に触れるときはなおさらそれにとらわれないように。そんなことにも気づかずに、ううん、気づきたくなくて、走ってしまったな。
2013-03-26 00:04:45ことばの偶像をどうにか作り直した今の僕は、うまくそれと、適切な距離を持って、これからやっていけるだろうか。 つぎはぎだらけの汚い偶像だけど、それはもう一度僕に、ことばに対する信頼を、持てるようにしてくれるだろうか。
2013-03-26 00:05:09僕は一年かけて気づいた。思ってもないことは言えない。知らないことは言えない。黒を白と言うことはできない。ことばは無敵の道具じゃない。 僕にはことばを、無敵の道具に見せかけることはできない。僕は僕の表現できることしか表現できない。僕は僕以外の何者にもなれない。
2013-03-26 00:05:35何者でもない僕を表明するためのことばと、また1年、付き合っていこうと思う。その時初めてことばは、僕と誰かを繋げてくれる。そう信じて、僕は東京の2年目を迎えることにする。【了】
2013-03-26 00:06:07