エイプリルフール企画【THE-7 proto】
一人の少女が、商店街に飾られた一際大きなクリスマスツリーの前で白い息を吐いて立ち尽くしていた。歳は13~14位であろうか。それにしては、妙に大人びた、感情の宿らぬ目をしている。(3)
2013-04-01 19:43:14彼女はその声の主を、鈍く光を反射する赤い目に映した。その無の世界に繋がっているかのような瞳に、声の主の少女は半歩後ずさりするも、笑顔を崩すことはなかった。(6)
2013-04-01 19:44:38「別にいいよ」と桜は答えた。実際のところ、表情の変化がほぼ無い為に分かりづらいが、怒っている訳ではない。寧ろ遅れてでもこの少女が、紫碕結城が来てくれた事に彼女は安心していた。(7)
2013-04-01 19:45:21彼女はその特異な見た目から周囲の人間に同じ人間として扱われず奇異の目で見られ、距離を置かれた14年を過ごしてきた。意地の悪い者に虐められたことも少なくはなかった。だから当初、桜は自分に話しかけてきた結城を信用せずわざと突き放すような事ばかり言っていた。(8)
2013-04-01 19:46:12しかし、結城は諦めずに彼女の心を開こうと努めてきた。結果、彼女はこの少女にだけ、僅かな信頼にも似た感情を寄せることにしたのだった。そしてその思いが今、無駄ではなかったことを、捨てることにならずに済んだことを、彼女は喜んでいた。(9)
2013-04-01 19:46:41桜には他愛も無い話に出来るネタなど無い。友人がいないだけでなく、家でも家族と上手くいってはいないからだ。母が父と離婚した後、桜は母に連れられて別居した。しかし母は桜の育児を放棄し酒に溺れたのだ。(13)
2013-04-01 19:49:26毎日、学校で孤独な時間を過ごして帰ってきた彼女を待っているのは、耳を塞ぎたくなるほどの罵詈雑言と彼女の白く細い体に容赦なく痣を刻んでゆく暴力だ。桜はそれを雑談のネタとして言えるほどに、結城と親密なわけではなかった。(14)
2013-04-01 19:49:51桜は我に返った。そして自分の分の紅茶を一気に飲み干すと、「ごめんね、今日はもう調子悪いから帰るよ」と言い、席を立とうとした。(18)
2013-04-01 19:51:24桜は自分の腕を掴む結城を睨んだ。勘繰られまいと、硬い表情を崩さない。だがその硬化させた表情には、綻びが見え隠れする。(21)
2013-04-01 19:53:11「待って、まだボク、話したいことが」結城が視線を返す。桜は怯み、また座り込んだ。だが今度は自分の膝の上に置かれた手を見つめ、結城と一切目を合わせない。(22)
2013-04-01 19:53:39「白川さんに折り入って、お願いがあるんだ」「なに?」「それは余りにも現実離れし過ぎていて、ボクの言っている事の意味が分からないかもしれないけど、お願いだ、取り敢えずまずは聞いて欲しい」「だからなに?」(23)
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