《ピアニストの演奏技巧》しょごたんさんからの質問ツイート『誰が最も上手いピアニストか』に対し、これまた執拗に以下連ツイしてピアノ演奏家・思索家としてパラノイアックにお答えする次第です。@_sgtn
2013-04-09 10:54:24《ピアニストの演奏技巧1》「誰が最も上手いピアニスト」か・・という問いを発せられた場合、少しまえまでは大抵ヴィルトゥオーソ※の最たる例を思い浮かべるのがクラシック音楽マニアの通常発想であった。おおよその事実である。@_sgtn
2013-04-09 10:56:55~ ※ヴィルトゥオーソ:演奏の格別な技巧や能力によって完成の域に達した超一流の演奏家を意味するクラシック権威によるクラシック音楽の用語。ピアノやヴァイオリンなどの器楽演奏家に用いる。@_sgtn
2013-04-09 10:57:032》だが、かつてのクラシック音楽ファンは充分に権威主義的であり(つまり権威主義的に洗脳され毒されており)、ヴィルトゥオーソという言葉もまた「超絶技巧の持ち主またはそれをダイナミックに披露する演奏家」として狭義に限定されてしまった。@_sgtn
2013-04-09 10:57:26~ 今もって「ヴィルトゥオーソ」は音楽演奏の批評家らによって押し付けられた言葉であり、あまり気分の良い言葉ではない。@_sgtn
2013-04-09 10:58:023》反して「上手いピアニスト」の意味を「鍵盤操作を自在にできる度合い」と純粋に考えた時、僕が最も最初に思い浮かべる答えはホロヴィッツでもなくリパッティでもなく、リストの再来と呼ばれたジョルジュ・シフラでもなく、またはポリーニなんかでもなく、グレン・グールドである。@_sgtn
2013-04-09 10:58:374》彼グールドは左利きだったが右手の運動能力も優れており、別に「血の滲むような努力をして」技巧を得ずとも、いともたやすく速く確実に打鍵できる方法を、早くも十代半ばにして獲得していたのである。@_sgtn
2013-04-09 10:58:555》ただ一つ言えるのは、ロマン派のピアニスティックな音楽作品を嫌い、リスト、ショパン、ラフマニノフなど普通なら最もピアニストの好む筈の作曲家作品に対して、彼が殆ど軽蔑の念を持っていた理由の一つは右手中心の運動を強いるのに大変なストレスを覚えたからではないかと考える。@_sgtn
2013-04-09 10:59:35~ グールド本人がピアニスティックな音楽作品を嫌うことに対して様々な根拠を挙げているが、彼がそういう方向を嫌った本来の理由というのは案外そうした無意識的かつ単純な理由ではなかったかと思うのである。が、勿論これは僕の推論である。@_sgtn
2013-04-09 10:59:426》それはそうと兎も角、グールドのアプローチは見事に普通ではなく、30cm 程の低い椅子に腰掛け鍵盤が鼻先の位置となるような奇妙な姿勢でピアノに接した。本人曰く『梃子(てこ)の原理+α』・・だがこの極端に低い位置の姿勢はダイナミックに音量を変えるのに適していず ~ @_sgtn
2013-04-09 11:00:06~ そのことについてグールドはクレシェンド/ディクレシェンドでの強弱を表現するよりも、むしろ微妙な時間差を与えて表情を付けるべしと考えていたようだ。が、これはテンポ・ルバートの意味とは異なるハイレヴェルテクである。@_sgtn
2013-04-09 11:00:317》・・因みにこのグールドの姿勢は貴族的礼儀正しさを(演奏会での)演奏者に求める旧来のスタイルに著しく反しており、グールドは演奏への評価とは別に「姿勢が悪い・弾きながら歌を歌う・マナーが悪くふざけている」と本人とすれば謂れのない酷評を受けた事もしばしばであったという。@_sgtn
2013-04-09 11:01:02~ ※グールドは1964年、「コンサートは死んだ=ドロップアウト宣言」し「テクノロジーとの幸運な出会い=スタジオマイクロフォンとの情事」としてその輝かしいコンサートピアニストのキャリアに自らピリウドを打った。が、これには特異な個人的要因が絡んでおり・・(以下省略) @_sgtn
2013-04-09 11:01:208》ともかく、あまり説明ばかりが長くなってもアレですので「ヴィルトゥオーソ」と呼ばれていた(いる) ◇ホロヴィッツ ◇M.ポリーニの演奏など、そして「ヴィルトゥオーソ」とは呼ばれなかった ◇グールドの演奏との技巧面においての比較 ~
2013-04-09 12:04:35~ --全てを同じ曲で比較できないのが難ではあるが -- を実際視聴で試みるのでございます。では次より。
2013-04-09 12:04:509a》M.ポリーニ『木枯らしのエチュード/ショパン』 http://t.co/P3AlS9vDFp リズムやテンポの安定感、均一で力強くしなやかななタッチとまとまりの良さなど。だが非常にスポーティーな感じがする。
2013-04-09 12:05:339b》V.ホロヴィッツ『スケルツォ第一番/ショパン』 http://t.co/M2avcrN65O 長いので中間部ゆっくりな部分までをお聴き下さい。ヴィルトゥオーソの代表格ホロヴィッツの演奏は乱暴でしまりがなく、えげつない表現が鼻につく。が日本でも非常に持て囃された
2013-04-09 12:05:4910a》これら二つのヴィルトゥオーソ演奏に対し、グールドの超卓越の指さばき演奏がどのように比較されるのか、まずはバッハ『ゴールドベルク変奏曲・第5変奏まで』を例にとります。
2013-04-09 12:08:49~最初のゆっくりとした「アリア」の次から順に第1~速弾き第5変奏までを聴いてみましょう。 http://t.co/0MzdInWxsB …
2013-04-09 12:08:5710b》因みに誰でもいいですが、ヴィルトゥオーソと呼ばれているA.ガブリーロフの同曲演奏。http://t.co/wvMb6Wl31K グールドに強く影響されているものの全く鍵盤へのアプローチが違い、不安定です。・・退屈であれば次々聴き進めて頂ければと思います。
2013-04-09 12:09:1310c》もう一つ、グールド唯一のショパン演奏を比較の例に挙げます。『ピアノソナタ第3番第4楽章/ショパン』・・ 左手が音楽全体をリードしています。右手の早いパッセージにはわざと曖昧さを残し、特に高音域は滅多に強調しない。http://t.co/Guw5id0pw8
2013-04-09 12:10:2810d》この曲に関しては(ロマン派音楽の際たる例なので当たり前ですが)、比較するべき演奏例が腐るほど存在し、ポリーニの同曲演奏を挙げておきます。同じくフィナーレ第4楽章。http://t.co/ZSUyPkQy8b ポリーニは「最も完璧な技巧のピアニスト」とさえ言われています。
2013-04-09 12:12:4211》なお、グールドは若い頃より曲を暗譜するのに信じられないことに「譜面のみを見つめて頭に音の全部~全体構成から細部に至るまで~を叩き込んでからしかピアノに向かわなかった」と言います。それだけでも他の演奏家とは全くレヴェルが違うのです。
2013-04-09 12:13:04~ そしてグールドはまた「演奏技術などはやれば誰でも出来ること」つまり取るに足らない事と固く信じていたようです。素人がコンピュータで入力しても「良い音楽はでき得る」と断言さえしました。
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