ヨウカイスレイヤー短編集「シュート・ザ・バラージ！！」より「ネヴァー・ガット・ザ・シーリング・オブ・キンカク・テンプル」

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短編集「シュート・ザ・バラージ！！」より「ネヴァー・ガット・ザ・シーリング・オブ・キンカク・テンプル」

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永遠亭、空隙の間。1

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もはや隠れ住む必要が無くなったためか、外界から全てを断絶せしめたジツは解かれ、薬屋稼業まで始めた永遠亭。しかし唯一ジツの効果が続くこの倉庫部屋扱いとなっている広間には、ゲンソウキョウ中、あるいはこの地球上には存在しないとされているマジックアイテムがうず高く積まれていた。2

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これらのアイテムを蒐集するヨウカイ、即ちジツの発動者でもあるホウライサン・カグヤがこの広間を隔離したのは、憎き盗癖持ちの人間対策である。先の異変の際にドサクサ紛れで複数のアイテムを盗まれた反省から、セキュリティを強化した格好だ。3

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今日も烏の鳴き声が微かに聞こえる以外には異変はない。もともと人目に付きにくく、なおかつ人を迷わせる竹林に囲まれた永遠亭に来客など、日課の殺し合い相手であるモコーとエイリンに毒を提供する恐ろしい人形以外は皆無。侵入者が入ってくればすぐに分かるが、念には念を入れた。4

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すぐ隣の部屋はタタミ15枚分ほどの空間であり、壁にかかった「満月」「不如帰」「文武天皇」といったショドー、ブッダを邪気に晒し苦しめた二対の神が描かれたビヨンボ、床の間に飾られた優曇華の花(ウドンゲインの名の由来である。)などがワビサビ空間を作る。カグヤのプライベートルームだ。5

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カグヤはフートンを頭からかぶった恰好でアグラを組み、脳内でアドバンスド・ツミ・ショウギを行っている。外界へ自由に出歩けるようになった今でも彼女はこうして、一人で長時間の暇を潰せる遊戯を好む。彼女がニューロン内で詰みを完成させたその時、足元でガタリと音が鳴った。6

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「……」カグヤはイマジナリーショウギ盤をひっくり返すと、警戒を強めながら周囲を改めた。室内は当然タタミが張られており、上を歩くと音が鳴る機能など当然ない。カグヤが疑問に思っていると、タタミの一枚が突然跳ね上がった！室内でのドトン・アンブッシュだ！7

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床下から飛び上がり隣のタタミに着地したアンブッシュ者は、不吉に漂う黒い羽に包まれながら奥ゆかしくアイサツを行う。「ドーモ、カグヤ＝サン。アヤ・シャメイマルです」「……ナンデ？ナンデ床下から？」カグヤはアヤの突然なエントリーに気圧され、アイサツも忘れてぽかんとしている。8

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「おっとこれは失礼。正面から入るとテヰ＝サンやウドンゲイン＝サンに追い返されてしまうものでしてね」アヤは体に付着した埃を払うと、部屋中に散乱した羽と共に屋外へ吹き飛ばし、丁寧にタタミを直してカグヤに向き直った。「改めてドーモ。月の秘宝、マジックアイテムの取材をしに参りました」9

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「貴女の行動は本当に理解できないわね」「我々も貴方がた宇宙人の思考回路を理解できていませんのでご安心下さい」アヤは手帳を胸にあて軽くオジギした。「それで？マジックアイテムが見たいわけ？展示会ならたまにやってるからそっちで我慢して頂戴」「天狗が知らないことは無いのですよ」10

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アヤは鼻を鳴らした。「貴方が持つマジックアイテムが、ダンマク勝負において使用されることで輝くという事実は、先の異変でこの私にまで知れ渡っておりますから故」「大それた情報収集能力だこと」「取材は地道な作業の繰り返しですよ。諜報活動は天狗の十八番ですから、大それたことなど何も」11

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「そうね、ではこんなものではどうかしら」カグヤは突然垂直跳躍！「イヤーッ！」天井にカラテパンチ！部屋の天井板がベキベキと音を立てて剥がれ落ちる！カグヤは天井板の一辺をぶら下がるように掴むと、5メートル四方はあるそれを強引に引き剥がした！「イヤーッ！」アヤは素早く隣室へと退避！12

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アヤは素早くカメラを取り出し、黄金に輝く板面の画像を数枚収めた。なんたる宇宙人の秘めたるカラテパワーか、カグヤは金箔塗りの巨大な天井を片手で持ち上げている！「これは物理キンカク・テンプルの最上階に存在する幻の一枚天井。正確にはそのレプリカね」カグヤは自慢げに天井板を掲げる。13

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剥がされ崩落したはずの天井は何事も無かったかのように再生されている。いや、よく見ると表面にわずかながら金箔が付着している。本来の天井と二枚重ねにすることで巧妙にアイテムを隠していたのだ。「それがマジックアイテム……まずい！」「イヤーッ！」KRAAAAAASH！14

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カグヤが突然手に持った天井板を投擲した！「グワーッ！」ヨウカイ第六感で攻撃を直前で察知したアヤは、戦闘用の簡易結界を展開すると低空飛行で隣室へ飛び移り、かろうじて回避！「『スピードにはパワーをもってせよ』……ミヤモト・マサシの残したコトワザだったかしらね！」15

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先ほどまでアヤのいた部屋に入ったカグヤは、「イヤーッ！」垂直回転ジャンプで再度天井にカラテパンチ！すると、おお、ナムサン！この部屋の天井もまたベキベキと音を立てて剥がれ落ちてゆくではないか！勿論その天井板の裏面も綺麗な金箔塗り！「イヤーッ！」カグヤが天井を引き剥がす！16

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カグヤは剥がした天井板を持たぬ方の手で、オーガニック・バンブー製のフスマに直撃した、先ほど投擲した天井板を軽々と持ち上げた。バンブーは鋼鉄よりも高い強度を持っており、直撃しても建物に損害は無し！これも彼女のフーリンカザンとでもいうのだろうか！17

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「ちょっと待った！」「どうして？貴女が望んだ、ダンマク勝負において輝くマジックアイテムを見せている真っ最中じゃない。ちゃんと写真に収めて良い記事書いてよね！イヤーッ！」再度放たれる巨大天井板！「イヤーッ！」アヤは素早く状況判断を行い、隣ではなく奥の部屋へ滑り込む！18

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「イヤーッ！」カグヤは間髪入れず二枚目の天井板を投擲！時間差攻撃がアヤに迫る！「イヤーッ！」アヤは振り返り小型竜巻を召喚！一枚目の天井板の勢いを殺すと、二枚目の天井板にぶつけてガード！ぶつけられた天井板が爆発四散！パシャリ、と小気味のいいシャッター音が部屋に響く。19

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すかさず隣の部屋に退避し、ファインダーから隣室を覗き込むアヤ。相手が人間の形をしている以上、一度に持てる天井板の数は二枚。そしてこの部屋は二方向が全面壁という、いわゆる角部屋。ガードに利用した方の天井板が破壊された今、確実に仕留めるために隣室の天井板も剥がすであろう。20

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シャッターチャンスだ。アヤは確信した表情でカグヤのエントリーをファインダー越しに窺う。もう落ち着いた。さあ来い。来い。……来た。カグヤがジャンプパンチで天井板を剥がし、片手で持ち上げる。シャッターを切る。爆発四散していない方の天井板を掴み、持ち上げる。シャッターを切る。21

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「イヤーッ！」カグヤが一枚目を投擲！「イヤーッ！」アヤはシャッターを切ると同時にファインダーから目を離し、強烈なケリ・キックで小型竜巻を生成、勢いを殺し盾めいて空間に掲げる！「イヤーッ！」天井板の向こうから二枚目を投げるシャウト！アヤは隣室へと通じるフスマに手をかける！22

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だがいくら力を加えてもフスマは開かない！「何故！？何故開かない！」アヤは当然知る由もない、そのフスマの向こうこそがカグヤのジツによって高位セキュリティが施された、空隙の間に他ならないことを！当然タタミを捲って地下に逃げるにももう遅い。ネズミ袋！23

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KRAAAAAASH！キンカク・テンプルの天井板を模した巨大ダンマクがもう一つの天井板を突き破った！その巨大面積と質量は彼女のスピードをもってしても、もはやどうすることもできぬ！避けられない！「グ、グワーッ！」アヤの結界が爆発四散！24