【二次創作な】「ディザイアズ・トゥ・リーチ・ガンダーラ」#1

ニンジャスレイヤー(@njslyr)の二次創作小説です。クォリティは読んでのとおりですがよろしければお楽しみ下さい。
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欺瞞動画の会社 @naclaqns

ニンジャスレイヤーらの敗北から三日。キョート・アンダーガイオン第四層にて。23

2013-05-04 16:27:07
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永久に日の光が当たらぬ地下都市と言えど、昼夜の区別はある。深夜ともなればうらぶれた飲食店街はそのほとんどの軒がシャッターを下ろしている。だがその端の端、漆黒ゴリラの看板を掲げた黄色い店だけは、寝静まる市街にスパイシーかつふくよかな香りを漂わせていた。24

2013-05-04 16:30:47
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店内は狭い。カウンター席の他にはキョートサイズのテーブルがひとつ置いてあるだけだ。イタマエは一人。客も一人。大柄な中年男が腰掛けるイスは今にも壊れそうだ。男の頭は染めたように白く、顔には深いシワと永久に取れぬ疲れが刻まれている。元祖暗黒非合法探偵、タカギ・ガンドーである。25

2013-05-04 16:37:32
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「カツ・カレー…頼んだよな?」ガンドーが苛立ったように言い、イタマエが舌打ちする。閉店間際の厨房は既にフライヤーの電源を落としており、カツを揚げるのに時間が掛かっているのだ。だがカツが無ければ彼の空腹は決して満たされない。探偵業の実際は想像を絶するハードワークである。26

2013-05-04 16:43:48
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イタマエがキツネ色に揚がったカツを油から引き上げた。出刃包丁で一口サイズに切り分けられる度、ザクリザクリと小気味よい音が鳴る。ガンドーはそれを凝視する。彼の目の前で白い米飯に並べられるトン・カツ。更にその上にからたなびくように注がれるカレーソース。湯気が、そして濃厚な香りが。27

2013-05-04 16:50:38
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「ヘイオマチ」不機嫌そうにイタマエが差し出したカレーライスに、ガンドーは間髪入れずスプーンを突き立てる。彼のニンジャ器用さは瞬時にして一口におけるコメ・ソース・カツの理想的バランスを実現、イタマエの眼が光る…この深夜の客を只者ではないと見抜いたのだ。スプーンが口に運ばれる!28

2013-05-04 17:02:26
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探偵はあくまで無言だ。そしてイタマエも。一言の会話さえ交わされることはない…語るべきは全てこの一杯のカツカレーに集約されているのだ。スプーンが皿に当たる硬い音、鍋でカレーが煮え立つ音だけが響く。それはゼンであり、チャドーであり、亭主と客が繰り広げる一対一の真剣勝負である。29

2013-05-04 17:08:14
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粛々と中年男の胃に収まってゆくカツカレーはおよそ一割を残すのみとなった。ガンドーはカウンター上の壺を手に取り、皿の上でひっくり返した。中に残っていた僅かなラクシュミ・ピクルスが落下する。これはイタマエの減点である…幸運の象徴であるこのツケモノ壺は常に満たされているべきなのだ。30

2013-05-04 17:15:03
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粛々と中年男の胃に収まってゆくカツカレーはおよそ一割を残すのみとなった。ガンドーはカウンター上の壺を皿の上でひっくり返した。中に残っていた僅かなラクシュミ・ピクルスが落下する。これはイタマエの減点である…幸運の象徴であるこのツケモノ壺は常に満たされているべきなのだ。30

2013-05-04 20:01:45
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その作法を知ってか、それとも単にもっと食べたかっただけなのか。ガンドーは微かに、しかしそれと分かるように眉をしかめ、残ったカレーを平らげて水を飲んだ。「フー…」しとやかな辛味が彼の重いシナプスを活性化させ、ここまでの探偵行で得たおぼろげな情報を一つ一つつなぎ合わせてゆく。31

2013-05-04 20:02:56
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この仕事が彼に回ってきた経緯は不明だ。だが、ケビーシに届け出ず探偵を使うからにはそれなりの理由があると見るのが当然である。事件の焦点は一本のマキモノ。依頼主が遣わしたレッサーボンズによれば、巻名を「聖典テンジク」という。何者かに盗まれたそれを取り戻すのが今回の彼のビズだ。32

2013-05-04 20:09:45
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正規の教育を受けていない彼とてその名は知っている。平安時代、無法の魔都であったキョートをブディズムによって救うべく、サイギョという名のボンズが遥かインドへと旅立った。彼が持ち帰った仏典こそテンジクである。古事記にも記されたその逸話はモタロ伝説と混合する形で人口に膾炙している。33

2013-05-04 20:17:13
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お伽話を信じるほどガンドーは純粋な人間ではない。だがかつてニンジャスレイヤーと共に数々のニンジャ不可思議を見届けた彼は、少なくとも常人よりは真実に近い位置にある。何しろ自身がニンジャとなったのだ…彼はそれを悪い冗談と捉えていたが。さて、事件が起こったのはひと月ほど前の夜だ。34

2013-05-04 20:23:58
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ガイオン東部に位置するトーダイ・テンプルは数々の国宝級美術品を収蔵し、その展示により莫大な観光収入を挙げていた。だが一般市民の目に触れるのはごく一部に過ぎない…その裏には歴史の暗部をほのめかすマジックアイテムの数々が隠されている。ファイアーソード、ジツ反射鏡、歪曲ジュエル…。35

2013-05-04 20:31:02
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そして、テンジク。それらニンジャの存在を証明しかねない危険な品々は、テンプル中心部に位置する宝物殿「ショーソイン」に封印されている。最新鋭のセキュリティ、屈強な警備ボンズウォリアー達、そして半ば以上ダンジョンの様相を見せている宝物殿自体がこれらを守るのだ。36

2013-05-04 20:35:59
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だがその守りはいとも簡単に破られた。侵入者、あるいは侵入者達は十数名のボンズウォリアー…ガンドーの見立てが正しければ、その中にはニンジャすら含まれている…を殺害、セキュリティシステムをハッキングによって欺きダンジョン最深部よりテンジクを奪取。その後の行方は杳として知れない。37

2013-05-04 20:43:28
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現場に残されていた物は皆無である…強烈な香辛料の匂いの他は。奇跡的に生存した僧兵は病床で「ナマステー…ナマステー…」と謎の言葉を繰り返すばかりだ。捜査初日の収穫はこれが全て。余りに断片的な情報、これ以上の手繰りようは無い。何か奇跡的な幸運に出会わない限りは…「ナマステー!」 38

2013-05-04 20:51:23
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突如の来客!ガンドーは顔をコートの襟に沈め様子を伺う。頭には紫色のターバン、彫りの深い浅黒の顔には口ひげ、詰襟のシャツ。それだけならインド人観光客でも通ろう、だがガンドーのニューロンに潜むカラス・ニンジャは見逃さなかった。微弱かつ異質ではあるが…これはニンジャソウルの気配!39

2013-05-04 20:59:02
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これは偶然か、それともここがカレーショップだからか!?「カレー、カレー…」インド人の至極シンプルな注文にイタマエが手を動かし、同調するようにガンドーの頭脳が回転を始める。ナマステ…インド…ニンジャ…テンジク…!情報がデフラグされた、この千載一遇のチャンスは二度と巡ってこない!40

2013-05-04 21:06:10
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イタマエが素早くプレーンカレーを皿に盛り、無言でインド人へと差し出す。だがインド人はそれを受け取らない、「カレー…?」ただ不思議そうにそれを見つめるだけだ。「私はカレーを頼んだ」「お待たせしました。カレーです」「カレー…?」インド人の眉根にシワが寄る!憤怒の形相である!41

2013-05-04 21:14:49
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首を傾げる読者諸氏のために解説をしておこう。日本的カレーと元々のインドカレーとの間には若干の乖離が見られる。粘度の差、ダシの使用、具材のバリエーション…言うなればスシが諸外国において独自の発展を遂げたのと同じ現象である。それ自体は食文化の広がりであり、歓迎すべき事なのだが… 42

2013-05-04 21:22:04
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想像してみてほしい。読者諸氏が慣れぬ国での旅行中、「スシ」の看板を見つけたとする。日本食に飢えた諸氏は砂漠の中のオアシスめいたその店に入る…そこで出されたのが、ナチョ・スシやカニカマ・サラダロールだったとしたら?そして諸氏が常人を圧倒する暴力の持ち主…ニンジャだったとしたら?43

2013-05-04 21:27:16
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インドニンジャは皿を受け取り、中身をまじまじと見た。ソースの中に浮かぶニンジンやジャガイモ、そして…ナムサン、牛肉の破片!牛肉食はインド人にとっての禁忌である!「ナマステーッ!」激昂!皿を振りかぶる!だその時!BAGOM!銃声と共にカレー皿が砕け散った!「グワーッ!?」44

2013-05-04 21:34:25
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頭上より降り注ぐ熱いカレーにインド人は悶え苦しむ!ガンドーの脇の下から覗くのは黒い銃口、彼の相棒49マグナムである!「いけないぜ、それ以上はよ。ドーモ、タカギ・ガンドー…いや、ディテクティヴです。悪いが遊んでもらうぜ」ガンドーがもう一丁のマグナムを抜き放ちつつ立ち上がる!45

2013-05-04 21:42:11
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「ヌゥーッ…ナマステ!スナッチャーです」カレーまみれのインドニンジャは深々と合掌オジギをする。そう、インドもまた日本と同じく礼儀を第一に重んじる国なのだ!「アイエエエ!?ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」イタマエが錯乱!カレーオタマを振り回し店外へと脱出!「「イヤーッ!」」46

2013-05-04 21:49:07