素浪人 小野寺力(3)

やまだしょてん先生の『新感覚・野球時代小説』好評連載中!w
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やまだしょてん @marine_yamada

「私がやったことにすればよい。私は姿を消す。お前はいつもどおりにしておれ」「しかし、それでは…!」「お前がやらなくとも、いずれはこうなった。私がやったと言われたら、みなも信じよう」「待てっ!」「さらばだ。生きていたら、また会おう」 #素浪人小野寺力

2013-05-30 07:19:42

『素浪人 小野寺力』第6話

やまだしょてん @marine_yamada

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2013-05-30 23:21:00
やまだしょてん @marine_yamada

「待ちやがれっ!」「またあいつだよ!」「ちきしょう、逃げ足のはええ野郎だ…」まんじゅうを掠め取られた茶店の主の怒声が、犬の遠吠えのように響いている。「どろぬまの野郎、次こそは許さねえぞ…!」市場を抜け町を抜け、息を切らしながら男はうっそうとした竹藪に潜り込んだ。 #素浪人小野寺力

2013-05-30 23:29:52
やまだしょてん @marine_yamada

と、空がにわかにかき曇り、一気に夕立が襲った。遠雷も聞こえる。男はその丸っこい身体をさらに猫のように丸め、暗い藪の中を進んでいく。背中はぐっしょりと濡れている。「さてと、この辺だったはずだ…おお、いたいた。ほれ、めしを持ってきたぞ。今度は食うかな?」 #素浪人小野寺力

2013-05-30 23:34:55
やまだしょてん @marine_yamada

「あ、あ、ふっかふかのおまんじゅうやよ!でもたべられへんやよ!」「うーん、これも食わねえか…腹すかしてそうなわりには好き嫌いの多いやつだな…。まったく何の因果か、市場を逃げ回ってたらこんなわけのわかんねえのを拾っちまって…おめえはいったい何なんだ?犬か?猫か?」 #素浪人小野寺力

2013-05-30 23:40:40
やまだしょてん @marine_yamada

「いぬさんやねこさんじゃないやよ!ベイスたんはベイスたんやよ!(ぴょーんぴょーん)」「ははっ、なに言ってんだかさっぱりわかんねえや。まあいい、おめえがひとりなら、おれもひとりだ。こうして一緒にめしを食うやつがいるってのも悪いもんじゃねえな」 #素浪人小野寺力

2013-05-30 23:43:59
やまだしょてん @marine_yamada

「あのな、おれも若いころは剣術でならしてな…」雨の匂いが、男に昔語りをさせた。男の脳裏では、ぬぐい去れない記憶が蠢いていた。あの日も、今日のような雨模様であった。男には大沼という立派な姓があったが、食うに困り泥棒稼業に手を染めてから「どろぬま」の二つ名がついた。 #素浪人小野寺力

2013-05-30 23:47:56
やまだしょてん @marine_yamada

男は国元で剛剣の使い手として名を馳せたが、泰平の世ではその剣技も食い扶持に繋がらず、藩からは慣れない勘定方の手伝いを任されていた。失敗も多かった。周りの若い同僚からの冷たい視線。胃の痛む日々。そんな大沼がある日、ひょんなことから上役の不正な会計を見抜いた。 #素浪人小野寺力

2013-05-30 23:53:26
やまだしょてん @marine_yamada

普段から力で押すまっすぐな性格で、曲がったことを憎む大沼は上役に詰め寄った。小悪党なこの上役は口元だけでにたりと笑い、どすの利いた声を上げた。「ばらしてみろ。すぐにでも貴様の職を解いてやる。妻子ともども路頭に迷うがいい」全身の血が逆流する音を、大沼は聞いた。 #素浪人小野寺力

2013-05-30 23:57:35
やまだしょてん @marine_yamada

我に返った時には、胴をふたつに割られた骸が足元に転がっていた。そこへ折り悪く足を踏み入れた、別の男。「これはっ…いったい…!」「…りきか。やったのだ…おれが…」「なぜ…」「この男の、外道の所業を見た。おれが曲がったことを許せぬ質であることは、よく知っておろう」 #素浪人小野寺力

2013-05-31 00:04:24
やまだしょてん @marine_yamada

「しかし…しかし、どうするのだ!」「どうもこうもない。おれは死罪。家族もそしりを免れまい。それが武士だ」「…」「この者がやったことを洗いざらい吐き出し、その上でおとがめを受ける。当たり前のことだ」「…私が…」「ん?」「私がやったことにすればよい」 #素浪人小野寺力

2013-05-31 00:07:27
やまだしょてん @marine_yamada

刹那、稲光が畳にふたりの影を作り、滝のような雨が庭を打った。罪をかぶった小野寺は、雨にまぎれるように脱藩。殺しが明るみに出て真っ先に疑われたのは大沼であったが、奉行所の吟味に対しては沈黙に徹していた。小野寺の姿が見えないと騒ぎになったのは、少しあとのことだった。 #素浪人小野寺力

2013-05-31 00:13:25
やまだしょてん @marine_yamada

大沼は仕事を続けていたが、飢饉に財政を圧迫された藩から足切りを喰ってしまう。家族を養うためひとり横浜に出て、港の人足として汗していたこともあったが、生来の不器用さはここでも消せず同僚や雇い主との諍いを繰り返し、首を切られ、ついには「どろぬま」に堕ちた。 #素浪人小野寺力

2013-05-31 00:18:42
やまだしょてん @marine_yamada

殺された上役は普段から岡場遊びが過ぎ、ついにはさる太夫に入れあげ、一刻が傾くほどの資金に手をつけていたことが明らかとなった。小野寺に対する厳しい追求は、やがて同情論へ変わっていった。国の危機を救った志士ではないか、さりとておとがめなしにするわけにもいかず。 #素浪人小野寺力

2013-05-31 00:21:21
やまだしょてん @marine_yamada

あ。 ×一刻 → ○一国 です。

2013-05-31 00:30:25
やまだしょてん @marine_yamada

老中たちの議論も行き詰った。かつては小野寺や大沼を目にかけていた久信公も、論を断ずることができず迷っていた。もう何度目かわからない、不毛な会議はそれでも続いた。が、それを打ち破る男がいた。「その小野寺とか申す男、剣の腕は確かなのでございますな?」 #素浪人小野寺力

2013-05-31 00:25:59
やまだしょてん @marine_yamada

射抜くような力強い眼で久信公に意見したのが、誰あろう栗山巧頭(くりやまたくみのかみ)であった。この時から、用心棒・小野寺力の新しい運命が、密かに胎動を始めていた。(つづく) #素浪人小野寺力

2013-05-31 00:28:49

お便りコーナー

やまだしょてん @marine_yamada

Blogやってる頃もオール・ザッツ・ホークスとかの連作ネタがあったけど、あの時は基本的に現役の選手を使っていたから、勝手にネタが広がっていってくれてた。今回のは周囲のキャラに助けられている気がする。できることなら少ないキャラ数で掘り下げていきたい気もするんだけど、まあいいか。

2013-05-31 00:58:21
やまだしょてん @marine_yamada

さて、自分へのごほうびとして館山銘菓・花菜っ娘を食べよう。

2013-05-31 01:00:45
御崎 @misaki_tw

@marine_yamada ああ、つづいてしまった…(どきどき)。それにしても総帥、おいたわしい(涙)。ベイスたんと戯れる様がなんとも…。

2013-05-31 01:09:46
やまだしょてん @marine_yamada

@misaki_tw 小野寺が主役(?)なので、いつかは出しておこうと思ってまして。また思いのほか長い話になってしまいました。ベイスたんに関しては…監督には内緒です(笑)。

2013-05-31 01:15:42