ゼア・イズ・ア・ライト #6

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ドッドッドッドッ……ドッドッドッ。モーターサイクルのアイドリング音を霧雨が曖昧に霞ませる。アナイアレイターの金色の双眸はヘッドランプよりもなお強い。仁王立ちになり、状況を見つめている。スーサイドは屈みこんだ。ルイナーの心臓はまだ動いていた。 45

2013-06-09 23:14:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「やられちまってンのかよ」アナイアレイターが毒づいた。「クソゾンビー野郎はどこだ。フィルギアのやつは!」「黙れよ!」「アアッ!?」スーサイドは道にツバを吐いた。彼はルイナーを見下ろした。「生きてるか」スーサイドの眉間には血管が浮き上がる。命を吸わないように、堪えているのだ。46

2013-06-09 23:22:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「死んだなら捨ててけ!」アナイアレイターはアスファルトをストンピングした。亀裂が拡がる。「マジで言ってんのか」スーサイドがアナイアレイターを振り返った。「マジで言ってんのか。オイ」「……」アナイアレイターは音が出るほどに奥歯を噛み締めた。装甲バスを殴りつけた。「イヤーッ!」47

2013-06-09 23:27:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

KRAASH!車体側面が歪む。炎上するバスは既にもぬけの殻。中にクローンヤクザはもういない。ハイウェイを塞ぐ長方形の鉄の壁だ。ルイナーの右肩はほとんど消失し、焼け焦げて、血の染みが広がってゆく。「血を……」「イヤーッ!」KRAAASH!「クソ野郎!遊んでんじゃねえ。来い」48

2013-06-09 23:34:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アナイアレイターが歩いてきた。スーサイドは立ち上がった。「まだ生きてる。できるのか知らねえが、やれよ。テメエのそのジツで抑えるんだ。こいつの傷口を」「トドメ刺す事になるぞ」「そンならこいつもそこまでだろ」「ウーッ!」アナイアレイターは獣じみて唸った。彼は右手をかざした。 49

2013-06-09 23:39:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

シュルシュルと音を立て、棘まみれの針金が伸びた。鉄のイバラはルイナーの上腕、失われた肩、胸のあたりに乱暴に巻き付き、覆い、サツバツアートめいて締め上げる。血の流出は無理矢理に止まった。だが何の治療にもなっていない。あとはルイナーに備わったニンジャ耐久力がどこまで保たせるかだ。50

2013-06-09 23:45:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アナイアレイターは石のように無表情。彼はルイナーを担ぎ上げ、己のバイクにまたがる。スーサイドも自分のバイクへ。彼らはしめやかにUターンした。今回の件、シマナガシの関与はここまでだ。フィルギアはそのうち戻ってくるだろう。エルドリッチは……シマナガシのハッパへの執着次第だ。51

2013-06-09 23:51:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

霧雨、ライト、ブリッジ、トリイ、標識。まずは闇医者だ。スーサイドは内心暗澹たる気分である。……アマクダリ・セクトのニンジャとは、やりあえる。戦える。本気の連中とも。それがわかった。ネオカブキチョのイクサに、筋道が見えた。その手応えに喜んでもいいはずだ。だが、高揚できない。 52

2013-06-09 23:55:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ルイナーのカラテが破られたのもある。しかし、イクサとはそうしたものだ。やりあえば、どちらかが傷つき、あるいは死ぬ。「嫌な感じ」は、もっと漠然と、真綿のように、彼の意識に澱となる。ニンジャを何人か倒す。イクサで倒す。それでアマクダリを倒せるのだろうか。 53

2013-06-10 00:03:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

一人、また一人と手勢のニンジャが死んでゆくなか、アマクダリの者達はどこか淡々としていた。ノレンを押すかのような感覚があった。羽虫を煩わしげに払っているかのようでもあった。フィルギアの言を話半分に受け止めていた今回の「戦争」の件は、彼の中で不思議と真実味を増して感じられる。54

2013-06-10 00:15:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

大使が死んで戦争になれば、どうなる。何が起こる。当然とんでもない事になる。いや、もっとじわじわと進む変化なのか。シマナガシは、そして他の何人かのニンジャは、これを止められるのか。「嫌な感じだ、すげえ嫌な感じだ」彼は呟く。 55

2013-06-10 00:23:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ネオカブキチョのイクサを思う。フィルギアはニンジャスレイヤーの協力を取り付けた。今回の件を交換条件に。ルイナーがああなった甲斐はあったろうか。だがもし、今回、ニンジャスレイヤーがアマクダリに倒される事があれば……?ZGGGG……遠くの雲が一瞬光り、霧雨は豪雨になった。 56

2013-06-10 00:30:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ブツブツとスピーカーが鳴り、車載UNIX群のファン音が微かに乱れた。「ノイズか?」インターセプターが呟いた。「落雷ですね」運転ヤクザが車内スピーカーを通じて親切に答えた。カメレオンは肩をすくめる。装甲車の車内タタミ敷き空間には三人のニンジャがアグラしている。58

2013-06-10 00:40:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

三人、すなわち、インターセプター、カメレオン、そしてフージ・クゥーチである。ザリザリ……スピーカーのノイズを通し、ファイアブランドの通信が入ってくる。『ドーモ。ファイアブランドです。お前さん達を追従している。なお妨害者はひとまず撒いた』「よかろう」フージが答えた。 59

2013-06-10 00:47:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

タタミ空間の隅にはクローンヤクザが壁に向かって並んで正座し、車載UNIXに並列LAN直結している。インターセプターは来るべきイクサに備え、集中を深める。特徴のない顔立ちの女ニンジャ、カメレオンは、かすれた口笛を吹きながら、己のネイルを眺める。「天下」の印が描かれている。60

2013-06-10 00:57:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そしてもう一人、フージ・クゥーチ……鉄仮面の下で、呪われたニンジャは意識の半分を瞑想状態に落とし、思いを巡らせる。カメレオンは作戦の要。インターセプターはカラテの守り。そしてフージはジツに対する守りであるが……実際のところ、彼はニンジャスレイヤーに対する備えとしてここに居る。61

2013-06-10 01:03:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

今回の大使暗殺は非常に重大なミッションだ。それゆえ二重三重の妨害工作をはじめから想定し、布陣を組んでいる。手勢のニンジャはある意味、妨害にかかって死ぬ為にこそ参加している。案の定、胡乱なニンジャ達や傭兵がこの装甲車両を襲撃した。死亡報告が既に複数入っている。特に問題は無い。62

2013-06-10 01:08:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーがこのミッションを嗅ぎつけてくるかどうかは定かで無い。どちらでもよい。インターセプターがいる以上、ニンジャスレイヤーであろうとなかろうと排除が可能だ。しかしながら、フージはいわばシャマニズムめいた勘によって、ニンジャスレイヤーが現れるであろうと確信している。63

2013-06-10 01:14:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤー!あの者の存在を思うたび、フージは、クローンヤクザの義体と重なりあう己の認識身体に、ぞっとするほどの冷たさ、激烈な痛みを覚え、叫び出さんばかりになる。その痛みを和らげるエンドルフィンめいて、復讐を果たす甘美なイメージが遅れて湧き出し、ニューロンを慰める。 64

2013-06-10 01:20:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そうした彼自身の煩悶を、別レイヤー上の彼自身の意識が冷徹に観察している。フージは呪われたニンジャである。そして呪い殺すニンジャである。ニンジャスレイヤーは死ぬであろう。 65

2013-06-10 01:27:32