【妄想録】露普露＋普独

クロイヌ @Modest_Phouka

約束の日を迎えた。兄をカリーニングラードへ送り出した俺は、ひとりダイニングテーブルに突っ伏した。ずっと一緒だと信じていたのに。どうやら、今の環境は今の兄にとって有害なものであるらしい。この国にいる事こそが。これからは、本当に、ひとりだ。俺は真の意味で、大人にならなければならない。

クロイヌ @Modest_Phouka

思い出せない事がたくさんある、と思う。思う、と言ったのはもはや俺にそれを自覚させるほどの、確固たる自己の基盤が無いからなんだ。ごめんな、どれだけお前を愛していたのか、もう俺にはわからないんだ。俺は確かにお前を慈しみ、愛し育てたんだろう。だけど、もうわからない。なにもわからないんだ

クロイヌ @Modest_Phouka

最後のキスをした。心が交わる事のない親愛のキス。俺は今日、彼を永久に失わない為に、彼を永久に手放す。暴れて点滴を抜かないように薬で眠らせた兄の腕に、可能な限り優しく触れる。ざらざらした真っ白の肌の縦横に走る醜いヒビのよう傷。かつて俺を抱き上げた腕は見る影もない。みんな俺が奪った。

クロイヌ @Modest_Phouka

明けない冬はない。だが俺は未だに目を開けられない。つめたい冬に骨の髄までがちがちに凍らされちまって。春の日差しは鋭くて、俺にはもう眩しすぎるんだ。獣たちを眠りへといざなう閉ざされた世界。だけどそれはひどく居心地が良くて、俺はまだ真っ暗であたたかいこの巣穴を捨てる事ができないんだ。

クロイヌ @Modest_Phouka

目を開けてギルベルト君、周りはキレイなものばかりだよ。雪解け水の透明な小川、樹から溶けた氷がぽたぽたぽたぽたまるで宝石みたい！春がきたんだよ、ギルベルト君。つめたい冬はもう終わり！もうすぐひまわりの季節がやってくるよ。ああ、君に見せたななぁ。だから、ねえ、目を開けてよギルベルト君