カールツァイス財団、という法人の在り方
- Alfred_Laimy
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ドイツ最大、世界でも有数の企業規模を誇るカールツァイスAG。驚くことに、この会社には“株主”というものが存在しない。ただの一団体を除いて。
2013-06-24 16:04:34カールツァイスAGという会社は、カールツァイス財団という財団法人がすべての株式を保有し運営する、世界でも類を見ない特殊な形態の企業。このため、資本家からの搾取に晒されることがないので、“四半期のプレッシャー”を無視した長期の経営ビジョンが建てられる。
2013-06-24 16:07:38その代わり、株式を利用した資本増強は出来ない。経営の面ではシビア。なぜこのような、奇怪な運営方針がとられているのだろうか。
2013-06-24 16:10:06その答えは、アッべの数を発見してレンズ設計に色収差という概念を持ち込んだ天才物理学者エルンスト・アッべの「人類に奉仕すべし」という思想に基づいている。このため人類への貢献度が高いとされる技術の場合、発明をしても特許を申請しない事もある。
2013-06-24 16:20:46アッべはまた、人に根ざした思想の持ち主でもあった。世界に先駆けて一日8時間の労働基準を設けたのも、カールツァイス財団である。この考えが正しいか否かは、現代の先進国の常識を見渡せば、判断に難くはないだろう。
2013-06-25 01:48:12アッべの思想は実に研究者らしい。元々イエナ大学で研究に励んでいたところをツァイス親分に引っ張ってこられたため、彼は研究と経営という、二面を同時進行で対処する必要があったのだろう。現代で言うところの“技術畑出身”だ。
2013-06-25 01:49:15折しも当時のドイツでは、マルクスとエンゲルスが『共産党宣言』を世に送り出し、資本主義に疑問を呈したという社会背景もある。財団運営という方式は、資本主義と共産主義の折衷案と言うことができるかもしれない。
2013-06-25 01:50:15財団運営という環境を、ものづくり企業に当てはめるとどうだろう。先述の通り市場からの資本調達が出来ないというデメリットがある反面、資本家からの搾取と短期成果主義からの解放という大きなメリットが受けられる。はたしてどちらが幸せだろうか。
2013-06-25 01:51:47研究という視点でものを見ると、丁度シンガポールが国をあげて研究に力を注いでいる。そのやり方は、世界中から優秀な頭脳を集め、数年スパンで研究成果を要求するというもの。
2013-06-25 01:52:47例えば生物系の研究の場合、マウスなどのサンプルは使い放題、莫大な研究予算が割り当てられる。ただし、数年経っても著名専門誌に論文が掲載されない場合は、研究所を追放されてしまう、といった具合だ。
2013-06-25 01:53:57著名専門誌に論文を載せようと思ったら、当然「読みたい」と思わせる研究で成果をあげなければいけない。つまりメディアのニーズに応えなければいけないのだが、果たして研究者にとって、こんな環境が本当に幸せだろうか。
2013-06-25 01:54:59さて、もう少し視点を変えてみよう。このシンガポールのケースは、おそらくここだけに留まらないだろう。もっと身近な例があると思われる。即ち、家電業界。
2013-06-25 01:56:12この例をそのまま、ソニーに当てはめてみてはどうだろうか。非常に分かりやすいのはプレイステーション3のケースだろう。
2013-06-25 01:57:32PS3は久夛良木健氏が、家庭用スーパーコンピュータともいうべき野望を引っ提げて世に送り出した次世代マシンだった。莫大なヒトとモノとカネを注ぎ込み、作る度に赤字を出しながら、それでも久夛良木氏は決して基本姿勢を曲げなかった。
2013-06-25 01:58:39そんな久夛良木氏に対して、資本家もメディアも口を揃えてPS3の赤字に対する経営責任を問うた。作るほど赤字が出る商品なんて気が狂ってる、お前のせいでどれだけ損をしたと思っているんだ、と。
2013-06-25 01:59:48こうして久夛良木氏はソニー副社長の座を降ろされた。ゲームの代名詞を「ファミコン」から「プレステ」に変えた人間が、である。
2013-06-25 02:00:56その後PS3は、家庭用スーパーコンピュータからゲーム機へ、コンセプトを改めていく。Linuxなどの外部システム構築禁止は、その象徴だろう。
2013-06-25 02:02:10ソニーに関しては久夛良木氏に限らず、とんでもない数の未来の芽を、ハワード・ストリンガー時代に摘み取った。アイキューブド研究所、オラソニックなど、元ソニーの優秀な“芽”が、今になって花を咲かせている。非常に残念なことにソニーの外の話だ。
2013-06-25 02:03:12これを踏まえてもう一度カールツァイスを考えてみよう。財団運営という企業形態は、果たしてものづくりにとって幸せなのだろうか。
2013-06-25 02:04:55これはつまり、リスクを伴う潤沢な資本環境と、急成長は出来ない安定した研究環境と、ものづくりにとってどちらの方がより重要かという事を問うているのに他ならない。
2013-06-25 02:05:59エルンスト・アッべは経営者より技術者としての理想郷を求めた。一世紀以上も前に、ものづくりのあり方、技術と人にあり方を、彼は既に示していたのだ。
2013-06-25 02:07:13資本主義が疲弊しだしている事については、おそらく多くの人が気付き始めている。より多くをより早く求めることに、無理が生じ始めている。
2013-06-25 02:08:18カールツァイス財団は、重商主義の現代における新たな法人のあり方として、より多くの人に見直されるべきだろう。
2013-06-25 02:09:24以上が一連のカールツァイスに対する、僕の考えです。経済学や経営学を専攻している訳ではないので、その辺の高度な理論に関しては知識不足な点もあるでしょうが、世界企業のレベルまで達した法人にとって、財団化という手段はの可能性として非常に有望ではないかと思うのです。
2013-06-25 02:13:21