ニンジャズ・デン

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナムサン……何たるナンセンスか。斟酌の余地の無い非道犯罪をたったいま未遂したこのヨタモノが法律を取り沙汰する程の異様な何かが、ブラッドバス・シアターにはあるというのか。通過する街路灯が照らす後部座席のフジキドは、ハンチング帽の下、無感情である。恐慌寸前の運転者とは対照的だ。 25

2013-07-03 00:06:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

やがて、黒々とした山のシルエットが遠くに見えてくる。その麓付近、やや高台、曇り夜空にライトを投げかける巨大な建物らしきものを、フジキドは確認した。ノイシュヴァンシュタイン城じみた、妙な建築物を。「あれです。行きたくないよ」運転者は泣いた。「行きたくない」 26

2013-07-03 00:10:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

白いワゴンはしめやかな走行を続ける。フジキドは腕組みし、物思いに沈む。ブラッドバス・シアター。……フジキドはこの物騒な名称を掲げる謎の無法地帯へ今から赴き、ヨナヨという名のオイランドロイドを救出せねばならない。 27

2013-07-03 00:17:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

やがて、ゆるゆるとワゴンは停止した。車はほとんど唐突に没個性な景観から抜け出し、バンブーの林を前にしていた。運転者ははばからず泣いている。「もう進めません」運転者は言った。「もう無理です。死にたくないよ……もう無理だよォ……」「……」フジキドの目が闇に光った。 28

2013-07-03 00:25:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

スライドドアが開き、フジキドがしめやかに車外へ降り立った。運転者は彼の退出にも気づかず、ハンドルを抱えるようにして、泣き続けている。「これ以上進めないよォ……殺されるの、いやだよォ……」ドアを閉じると、泣き声は中に閉ざされた。フジキドは竹林に消えてゆく曲がり道を見やる。 29

2013-07-03 00:27:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼は歩き出した。足の下でザクザクと落ち葉が音を立てる。前方、この竹林斜面を上がった先にある喧騒を、彼の聴力は既に捉えている。ブラッドバス・シアターの住人が発する、宴じみたサウンドだ。数人ではきかない。30

2013-07-03 00:36:19
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フジキドは眉根を寄せた。彼の歩みが遅まる事はない。歩きながら彼は、淡々と、このあと起こるであろうイクサに思いを巡らし、カラテを研ぎ澄ませるのであった。 31

2013-07-03 00:38:43
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……『ヨナヨは特別なオイランドロイドだ』依頼者であるソゴ・セシモトは、フジキドに対しても厳しく懐疑的な態度を崩さなかった。前金は5%。残りは成功報酬である。『絶対に表に出してはならんのだ。絶対にな。こんなことがあってはならなかった』 32

2013-07-03 22:23:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

実際、ソゴのセキュリティは厳重であった。箱入り娘ヨナヨ。知りたがりのハッカーの脳を無慈悲に焼く偏執的な電子攻性プログラムと24時間体制のアサルトライフル警備兵。電子・物理両面の保護下に置かれた彼女を拉致する事などできはしない。相手がニンジャででもなければ。 33

2013-07-03 22:29:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『ヨナヨは特別だ。だからカネになる!技術革新……美的……そうした夢を当てにした連中からのカネがな!役立たずのセキュリティも。この部屋も。エエ?貴様に出したそのオーガニック梅干しも!全部そのカネだ。あれがいなくなれば、俺はおしまいなんだ。わかるか?』ソゴの目は爛々と輝いていた。34

2013-07-03 22:39:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『身代金の要求が無い。つまり、俺よりカネを出す奴がいるんだ』ソゴは苛立たしげに言った。『決まってる……奴らだ。知ってるか、探偵?ピグマリオン・コシモト兄弟カンパニー、知ってるか貴様?』彼が口にしたのは、人工知能分野において20256の特許を取得している、謎めいた企業の名だ。35

2013-07-03 22:46:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『俺が進めているプロジェクト……クソッ!ヨナヨの革新性に嫉妬しやがったんだ!警戒してやがる!ヨナヨが世に出れば、奴ら、飯の食い上げになると……クソッ!』ソゴは頭を抱える。『おしまいなんだよ!奴らの横槍に負けてたまるかよ!』そしてフジキドを睨みつける。『絶対に連れて帰れ!』36

2013-07-03 22:51:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……「お客さん?」バンブーの陰から現れたバラクラバ黒服男がフジキドにライトを当てた。「パス?」クチャクチャとガムを噛みながら、促す。その後ろに、同じようにバラクラバを被った男がサブマシンガンを構え、遠慮無くフジキドに照準している。 37

2013-07-03 22:58:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フジキドはバンブー林の暗闇に複数の敵意の存在を感じている。既にここはブラッドバス・シアターの領域内だ。フジキドが懐から無地のカードを取り出すと、黒服男はハンドスキャナを向け、情報を読み取った。ハンドスキャナの液晶に「寿」のカンジが点灯。「お客さんようこそ」黒服男が呟いた。38

2013-07-03 23:02:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼らの一人に先導され、闇の中を進むうち、獣道は石畳に変わる。斜面を登り切った先、赤くペンキで塗られたフェンス門が現れた。「アイエエエ!」「アハハー!」火炎放射じみたオレンジの明かりが空に向かって放たれ、悲鳴と嬌声が届く。黒服男は平然としている。門の反対側の黒服に合図を出す。39

2013-07-03 23:09:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ギイギイと音を立て、フェンスが開かれた。「タノシンデネ」厳かに呟いた黒服は、持ち場に戻ってゆく。フジキドはやや速度を緩め、庭園の光景を見渡す。「アイエエエ!」「アハハハー!」左手には、ドラム缶の焚き火を囲むヨタモノ達。犬の首輪をつけられた女を押しやり、囃し立てる。 40

2013-07-03 23:14:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アハハー!」薬物影響下にあると思しき半裸のヨタモノ達は、スピリタスを口に含んでは焚き火に吹きつけ、火炎放射じみたエフェクトを楽しんでいる。女が恐怖に身をすくませると、彼らの歓声はより騒がしくなる。右手には「あぼかど」と書かれた汚い屋台。蛍光緑に発光するカクテルを振る舞う。41

2013-07-03 23:18:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「兄さんスッキリしようよ」薄汚い女がフジキドの隣に駆け寄って来る。「館行くの?館より外がいいよ」その顔には痣があり、目元が腫れている。「……」フジキドは女の容貌を眺め、ヨナヨでない事を確かめると、無視して歩き出す。ドラム缶の隣に繋がれた女が泣き叫ぶ。彼女もヨナヨではない。 42

2013-07-03 23:25:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

道なりに屋台が並び、ヨタモノ達に酒や薬物や肉を供する。彼らはみな目の焦点がおぼつかず、男女とも上半身はだいたい裸で、短絡的文言の刺青が誇らしげだ。途中、ゴミ、食物、ガラクタが無秩序に堆積する大穴の横を通過した。ゴミの中に頭蓋骨がある。確かにある。フジキドは歩き続ける。 43

2013-07-03 23:37:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……遠目にはノイシュヴァンシュタイン城じみていた「館」は、実際のところ、そうした城の形状を模して作られた退廃ホテルであった。正確にいえば、退廃ホテルの廃墟だ。朽ちかかった壁は石ではなくコンクリートで、ヒビ割れをごまかすように乱雑な白ペンキが幾重にも塗られている。 44

2013-07-03 23:44:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

開け放たれた門の脇には、やはり黒服。「……」無言でスキャナを取り出す。フジキドは頷き、先ほどの無地のカードを再び提示する。「寿」。「スゴイタノシンデネ」男はフジキドの肩を叩いた。45

2013-07-03 23:52:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

途端に、オレンジの温かい明かりと、ざわめき、グラスをぶつけあう音、稚拙なピアノとバイオリンの演奏、そうしたものが押し寄せ、フジキドを迎えた。まるでオスモウ興行中の相撲バーじみた混雑と活気だ。だがここに居る者達が共有しているのはスポーツの楽しみではない。 46

2013-07-03 23:58:15