橘川幸夫氏の「メディアが何をしたか?(1984年)」
連投です。以下、「メディアが何をしたか」(1984年、ロッキングオン刊の単行本)より。この頭にクロマル方式も、1984年以前から使っていた方式。最初に使ったのは、70年代の岩谷宏。
2013-07-22 20:48:02●都市の将来は、情報社会の将来として、ぼくたち全体の問題になってくると思う。都市は媒体の集合地域としてあるわけだけど、情報社会になってくると、都市という空間的な意味はなく なってくる。高性能のメディアによって、人は誰もが都市に棲む。
2013-07-22 20:48:52●かつて、情報というのは、家の中なら、親から子へとか、先祖から子孫へとかいう一方通行だったわけです。北国なら北国に合った生活情報が伝わっていた。ところがメディアの進 化により、子どもたちは親や地域を通してだけではなく、まったくダイレクトに世の中全体から情報を受けるようになった。
2013-07-22 20:49:39●タテ社会=狭義のコミュニティが存在し得たのは、狭い地域での情報の回路が強固に一方 通行的に保証されていたからであり、その回路が崩壊しつつあることは、旧来のタテ社会の構造そのものの崩壊でもあるはずなのだ。
2013-07-22 20:50:48●情報が〈親〉とか〈学校〉とかいつタテ社会の回路を通さずに、直接、個人のドタマと直結する。つまり、世の中は「タテ社会」から「点在社会」 になりつつある。そのことによって、真に個人のオリジナリティが全体の中で活かされる…… そういうハズだったのである。
2013-07-22 20:51:09● ハズ、なのである。現状はどうか? せっかく、情報というものを、親や世の中の常識というフィルターを通過せずに、個人がダイレクトに獲得でき、自発的に努力すれば、必要な情報は 入手することができる状況になりつつあるのに、そんな動きはどこにもない(ぼくは、ほとんど知らない)。
2013-07-22 20:51:33●〈親〉とか〈学校〉という旧来の回路の意味は、確かに封建時代から比べれば変質したかもしれない。ところが、それに代わる情報回路であるメディアそのものが、別の、強固で一方通行的な、そして、巨大で単一なタテ社会を形成してしまった。
2013-07-22 20:51:56●都市で生活すれば、それだけで情報通になれる。さまざまな情報が入ってくる。入ってくるものに関しては見事な能力を発揮する日本都市人。でも、彼らの獲得した情報は決して彼ら自身 でつかみとったものではない。
2013-07-22 20:52:14●そこに居るだけで、なぜか入ってきてしまう情報。シャワー・シティ。おい、大丈夫か。情報のシャワーは、君を骨なしにしてしまう硫酸のシャワーではな いのか。
2013-07-22 20:52:29●こないだ「筑波大学」というところへ初めて行って、感じた。ここは「スペース・コロニー」だ。宇宙船の外は闇の空だ。はみ出すわけにはいかない、喧嘩をするわけにもいかない。宇宙船の外に出ることは、すなわち、死だ。
2013-07-22 20:52:50●仲間と別行動をすることは、もしかしたら仲間全員を滅亡させることになるのかもしれない。孤独だが、わめいてはいけない。地球からの通信(情報)で、かろうじてコミュニティを形成できる。
2013-07-22 20:53:12● 「惑星間航行システムにおける、人間関係の問題、もしくはアート創出の可能性」というのは、もっとたくさんの人がテーマにして良い問題だ。
2013-07-22 20:53:45●ハードウェアの成長ということで宇宙船の推力向上やら断熱構造の研究をやるんだったら、すくなくとも、それに合わせた「人間」の 側の問題をやっておかないと、めんどいことになる。人間のハートはかなり柔軟みたいだから、どんな器ができても、それなりに合わせたふりして生きのびることができた。
2013-07-22 20:54:16●しかし、ぼくは、もう、これ以上、シンドイ社会はやだっていうところまで来てるんだと思う。そっちに合わせるのには疲れた。というこっち(人間)が出てくるころだ。
2013-07-22 20:54:38●情報化社会というのは、それ自体が、ひとつの巨大な宇宙母艦だ。情報化社会になることによって、宇宙船地球号ということは、具体的に認識されるだろう。各個人は、1台のスペース・ シップとして、自らをカプセル化し、自開化し、情報エアーを注入した。さて、問題はこれからなわけです。
2013-07-22 20:54:59●感性によって将来の情報化社会を知覚した世代が、一気にカプセルの中にこもってしまったのは、ある意味では正解なのかもしれない。ヘタに、旧式社会の教条主義に乗っかって、はみ 出してみても、それはそれで別の「管理体制」に収容されることは見えてるわけだし。
2013-07-22 20:55:22●宇宙船の中で冬眠する時代一だったのかもしれない。密かな通信をインプットするだけが頼りで、あとはじっと目をつぶり、イイコでもワルイコでもなく、ヨイとかワルイとかそういうレッテルさ え貼る気の起きない植物として、眠ってる時代が必要だったのかもしれない。
2013-07-22 20:55:43この原稿は、インターネットはもちろん、パソコン通信もほとんどなかった時代。滑川海彦と市川昌浩と下中直人が恵比寿の橘川事務所でカプラつないでアメリカのDBにアクセスしていた時代。1984年だな、まさに。
2013-07-22 20:58:37●そいで、いろいろ編集者希望の若い人が相談にくるんです。一番、腹の立つのは「編集者」という仕事が前提としてあるみたいに思ってることなんです。
2013-07-22 21:33:14●それはどんな仕事でも同じだろ うけど、自動車免許修得ではあるまいに、編集者になって、これとこれをやれば、一人前の編集者として合格、なんてことあるわけない。
2013-07-22 21:33:21●学生がプリント・メディアの世界で生きたくて、編集プロダクションを作る。これは、良い。ところが、やってくうちに、クライアントであるマスコミの要望を、いかに忠実にこなすか、 ということに必死になる。
2013-07-22 21:33:38●とどのつまりが、マスコミ旧人の持ってる現代大学生というイメージに、〈自分〉たちをぴったりおさめるようなテクニックを身につけてしまう。観念のパラドッ クスだ。
2013-07-22 21:33:52