エジプトの現場リポート

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

カイロに入っている。地元ＴＶでは今、市内の橋周辺の建物上からデモ隊を狙うスナイパーらしき男たちと、橋の上を逃げ惑う人々の姿を映し出している。そのスナイパーたちにデモ隊が銃で応戦している。今、催涙弾が発射された。人が人に実弾を撃つ。狂っている。もう６００人以上が死んでいる。

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

今朝、広場に集まった人々から十数枚の遺体の写真を見せられた。どれも頭や喉を撃ち抜かれて即死状態。プロ以外に考えられない、と彼らは言う。国の機関が国民を殺す。やめてくれ。遺体の写真がメールで広がり、対立は理論ではなく、感情論に。調停はきっかけを失い、混乱は出口を失っている

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

今、取材拠点のカイロ総局でも銃声が聞こえた。眼下の通りを行き交うデモ隊員たちが逃げ回っている。また銃声。どうやら水平撃ちしているみたいだ。逃げて、逃げて。死なないで。

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

取材拠点のカイロ総局の窓から。近くの橋の下で火災。火炎瓶か？　市民が近くにバリケードのようなものを築き始めている模様。パン、パンとまた銃声のような音。やめろ、やめろ。

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

銃声、銃声、銃声が止まらない。人が逃げ惑ってる。ヘリコプターが上空を旋回。どこのヘリコプターか分からない。また銃声。逃げてくれ。死なないで。

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

爆竹のように銃声が続いている。ちょっと待ってくれ。通りを歩いている人が山ほどいる。デモ隊も応戦している模様。その上空をヘリコプターが飛んでいる。

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

撃つな、撃つな、撃つな。彼らはかつての恋人かもしれない。大好きだった恩師かもしれない。悲しすぎないか。目の前で、窓の外で人が死ぬ。何人死んだのだろう。これから何人死ぬのだろう。

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

また連続銃声。いつまで続くんだ。そろそろ日が傾いてきた。人々が橋の上を走り抜けていく。そう思ったら、向こう側から新たな集団が来た。来るな、来るな。スナイパーが頭上から狙っているのに。

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

革命時にカイロ特派員だった貫洞欣寛記者が急遽カイロ入り。総局を飛び出して早速写真を撮ってきた。銃撃を窓で見ながら「２０１１年の革命の時と同じだ」。人が人に銃を突きつけて政治を変える。それが中東の政治なんだと、このベテラン記者は言う。そしてまた銃声、また銃声。

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

取材拠点の川向こうのエリアから黒煙。何かが燃えている。何が燃えているのかわからない。地元ＴＶは橋の上で撃たれて周囲に担がれている人の映像。１人ではない。少なくとも８組。痛いだろうな。そんなことしか思いつかない。

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

もうやめてくれ。もう撃たないで。革命も、反革命も、反反革命もうんざりだ。逃げているのは男だけじゃない。女も子どももお年寄りもいる。もう撃たないで。武器さえ持たない生身の人を、標的のように撃ったりしないで。

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

夕暮れに染まるカイロ市内。街はこんなに美しいのに、自然はこんなにたくましいのに。なぜ、生身の人間が生身の人間に弾を撃ち込む。そこで人生が終わると知っていて、多くの家族が悲しむと知っていて。私たちは退化しているのだろうか、愚かなことを愚かだとわからないくらいに。

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

花火大会のように連続で銃声音がする。眼下で人々が逃げ惑っている。銃声と銃声の間隔は５秒から１０秒。やめろ、やめろ。総局中で記者たちの声がする。

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

羊の群れのように人が橋の上を逃げ回っている。頭をかがめ、必死に走りながら。いつまで続くんだ。いつまで殺すんだ。エジプトはどうなってるんだ。エジプト政府はどうなってるんだ。

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

エジプトの国営放送は決してスナイパーの姿を映さない。時折、建物屋上にいるスナイパーが映ると、慌ててカメラを別の方向に変えたりする。その一方で、デモ隊側の応戦射撃や投石は必要に追跡し続ける。悪いのはデモ隊側と印象づけるための情報操作。あまりな稚拙なメディア。あまり卑劣なメディア。

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

エジプトの国営放送の報道番組のタイトル。「テロと戦うエジプト」。総局中に記者たちの罵声が飛び交う。撃っているのはどっちなんだ！　殺されているのはどっちなんだ！　メディアがその根底から崩壊している。

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

別の放送局の映像では、負傷者が次々と病院に運び込まれている。血まみれの映像。悲痛な表情で、痛みからの開放を必死に神に訴えている。罪のない人が、罪のないままに、苦しんでいる。映像はその姿を映す。あまりにもそのままに。苦しいくらい切実に。

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

今朝、デモの集結地点に指定されていた広場に取材に入った。集結していた人々は「友が殺された」「子どもが撃たれた」と暫定政権への憎しみを口にした。「だから、私は死を恐れないのだ」と。もう難しい。憎しみは憎しみしか生まない。力で覆そうとすれば、必ず力で覆される。

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

今心の底から不思議なのは、目の前でこんな惨劇が繰り広げられているのに、エジプト国内の少なくない人たちがこの悲劇を「肯定的」に捕らえている事実だ。元カイロ特派員の貫洞欣寛記者が言う。「それがエジプトなんだよ」。ねじれ、屈曲し、短い言葉では解説できない悲劇の国が今目の前に広がっている

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

地元テレビ局の映像。治安部隊とデモ隊との衝突のなかに、アルカイダのものと見られる黒旗が。もう終わりだ。作為なのか、不作為なのか。それすらも、私にはわからない。

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

地平線に日が沈み、周囲が急に静かになった。今日、何人がこの地で殺されたのだろう。今、何組の妻や子たちが帰らぬ夫を待っているのだろう。そう思うと、腸がねじれ切れそうだ。こんな日は私の人生に２日しかない。もう１日は３・１１。翌日に被災地入りしあの地獄のような風景を見た日。

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

今日痛感したこと。日本はまだまだ「良い国」だということ。多少の認識の違いがあっても、それを理解し合おうという寛容さが残っている。人が人を慈しむ。そんなささやかなものがいかに尊く、壊れやすいものなのか。自国の銃弾に逃げ惑うエジプトの人々の姿を眼下に見ながら、涙ながらに考えた。

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

テレビでは撃ち抜かれた人々の遺体や傷口を延々と映し出している。今朝訪れた広場では少なくとも９５人が殺害された。私がインタビューした人も今生きているかわからない。今朝話した人がもういない。それが私が今滞在しているエジプトという国です。

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

人は何のために生きているのか、今日一日、人が人を狙撃する光景を見ながら何度も考えた。今痛切に思う。私は日本という国を愛している。だから上司の命令で高齢者を銃で撃ったり、子どもに銃の照準を合わせたりしないで済む世の中を全力で守っていこうと思う。それが私の１６日、終戦記念日翌日でした

三浦英之　「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

一夜明け、取材拠点に入る。街は今は平穏だ。橋を戦車４台が占拠している。昨日の「衝突」では１５０人以上が死んだらしい。 http://t.co/rLiwjNLYXF　今日はどうなるのだろう。これから同僚と車で現場に向かう。この目で見てこよう。何が起きたのか。何が起きそうなのか。