空想の街 ハンツピィの宴-8月29日~9月2日-彷徨う神父

創作企画・空想の町で開催されたハンツピィの宴に参加。 「彷徨う神父」のまとめです。
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リュカ @ryuka511

森を歩く事数日。月明かりの向こうにようやく街が見える。塔に向かって暫く歩くと橋があり石畳の街並みが広がっていた。夜を越せる場所を探そうと街を歩く。路地裏に古びた小さな洋館を見つけた。灯りは無く庭は荒れている。空家のようだと判断し暫く身を寄せようと決めた。 #空想の街 #彷徨う神父

2013-08-29 22:28:09
リュカ @ryuka511

ランタンに火を入れ、埃の積もった部屋を簡単に掃除した。野宿が続いたのでほっとする。窓から外を見ると夜半だというのに街は賑わって楽しそうな雰囲気が漂っている。明日は街を散策してみようか。久しぶりに明るい気持ちで神父は窓の外を見つめていた。 #空想の街 #彷徨う神父

2013-08-29 22:46:56
リュカ @ryuka511

蒸し暑さに目が覚める。窓の外に広がる青空。見知らぬ街に辿り着いたのだと思い出し、街へ出てみる事にした。宴の開催を知らせる貼り紙に目を引かれる。「ハンツピィの宴、獣と人との宴会……ですか。」まるで来るべくしてこの街に来たようだと、神父は自嘲気味に笑った。 #空想の街 #彷徨う神父

2013-08-30 09:43:41
リュカ @ryuka511

取り敢えず、祭ならば長旅でぼろぼろの服を新調しよう。気を取り直し神父は街を歩く。住民に服屋の場所を聞くと、中央区に腕のいい #仕立て屋 がいると教えてくれた。不思議な布でお客にぴったりの服を作ると聞いて、背の羽を隠し闇陰に溶け込む黒い服をイメージする。#空想の街 #彷徨う神父

2013-08-30 10:06:57
リュカ @ryuka511

#仕立て屋 の店を何とか探しだし、ドアに手をかけた所でふと立ち止まる。持ち合わせは銀貨が数枚。足りるのだろうか? それ以前に余所の通貨は使えるのだろうか? #空想の街 #彷徨う神父

2013-08-30 10:24:31
リュカ @ryuka511

笑顔で迎えた店員が一瞬複雑な表情をした気がする。人では無いと知られたら−。希望を聞かれ暗い想像を振り払う。「ゆったりした作りで華美でない服を、記号みたいなものなので拘りはないんですが、できれば司祭服のような……」しどろもどろになってしまった。 #空想の街 #仕立て屋 #彷徨う神父

2013-08-30 11:42:01
リュカ @ryuka511

蝙蝠と店員が口にし思わず硬直する。まさか見破られたわけじゃないだろう、偶然だ、落ち着けと自分にいい聞かせどうにか微笑む。夜空から作られた布、というのに興味を引かれた。「では夜空の布でお願いします。その夜空に細い三日月の明かりはありますか?」 #空想の街 #仕立て屋 #彷徨う神父

2013-08-30 19:39:52
リュカ @ryuka511

受け取りがてら街を散策しよう。「では明日取りに伺います。」と答えると店員はさらさらと注文書を書き控えを渡してくれた。本当に夜空から布を作るのだろうか。何と素敵な能力だろう。羨ましく思いながら「ではよろしくお願いします。」と会釈し店を後にした。 #空想の街 #仕立て屋 #彷徨う神父

2013-08-30 21:05:59
リュカ @ryuka511

昼前に目が覚める。今日はどこへ行こうか。昨日注文した服を引き取って、料理コンテストが開催されるらしいから見学しに行こうか。身仕度を整え店に向かう。そっとドアを開けると昨日の店員はおらず、2人の可愛らしい声がいらっしゃいませとハモった。 #空想の街 #仕立て屋 #彷徨う神父

2013-08-31 10:54:11
リュカ @ryuka511

注文書の控えを差し出す。「あの、昨日服を注文した者ですが、出来上がっているでしょうか?」この子達も店員なのだろうか。真っ直ぐな瞳に、かつて共に過ごした子ども達が重なる。思わず涙が滲んだ。何を泣いている、2人のウサギ耳は私の羽とは違うのだから。 #空想の街 #仕立て屋 #彷徨う神父

2013-08-31 11:05:43
リュカ @ryuka511

ひそひそ楽しげに話す2人から包みを受け取る。卓上でそっと開くと見事な深い闇色、しかし恐ろしさは無く微かな月明かりが希望の様に射す美しい服だ。「ありがとうございます。あの、持ち合わせがこれしか無いのですが足りるでしょうか。」神父は銀貨を差し出す。#空想の街 #仕立て屋 #彷徨う神父

2013-08-31 18:33:26
リュカ @ryuka511

首を傾げる2人。自分にもこの街と余所の通貨のレートなど解らない。「一先ず預けていきますね。足りなかったら仰って下さい。素敵な服をありがとうございました。」2人に頭を下げ神父は店を後にした。一旦帰って着替えてこよう。 #空想の街 #仕立て屋 #彷徨う神父

2013-08-31 18:41:50
リュカ @ryuka511

洋館に戻り神父は古い服を脱いだ。背の羽が解放を喜ぶように大きく広がる。両腕を広げるよりまだ大きな蝙蝠羽。鏡に映った姿から目を反らし、新しい服に袖を通す。新品の服特有のよそよそしさは全く無く、彼の一部の様に身体に馴染んだ。小さく畳んだ羽も窮屈さを感じない。 #空想の街 #彷徨う神父

2013-08-31 18:53:58
リュカ @ryuka511

着替えて神父は再び街へ出た。そう言えば #料理コンテスト はまだやっているだろうか。中央区へ辿り着くとちょうど優勝作品が発表されている所だった。アップルカスタードパイにオームライス、どちらも美味しそうだ。ぐぅとお腹が鳴る。まだ振る舞われているのだろうか。 #空想の街 #彷徨う神父

2013-08-31 19:23:32
リュカ @ryuka511

広場では美しい #歌唄い の少女が楽器を手に歌っていた。どこか懐かしく感じる歌に聞き惚れた。家族も故郷も無い神父だが郷愁とはこういう気持ちなのだろうと思う。歌い終えた彼女にひっそりと心から拍手を贈った。恥ずかしそうに誇らしげに微笑む彼女に神父も微笑する。 #空想の街 #彷徨う神父

2013-08-31 22:20:05
リュカ @ryuka511

窓からの光に目を覚ます。今日は宴の日だ。広場へ行ってみようか。起き上がると玄関の方で物音がした。この家の持ち主が戻ってきたのだろうか。立ち上がり玄関に向かうと小柄な少女が入ってきた。「あれ、空き家だと思ったのに。」がっかりする少女に神父は慌てて首をふる。 #空想の街 #彷徨う神父

2013-09-01 08:20:55
リュカ @ryuka511

「いや、私はここで寝泊まりしてるだけなんです。」神父の言葉に少女はふーんと頷き見回す。「そっか、じゃああたしもここで寝泊まりしよ。いいだろ?」突然の発言に神父は戸惑ったが少女はお構い無しに上がり込む。「ちょっと埃っぽいけどまぁいっか。じゃ暫くよろしく。」 #空想の街 #彷徨う神父

2013-09-01 08:31:28
リュカ @ryuka511

困惑するものの自分も勝手にこの家を借りている故断る理由を見付けられなかった。さっさと空部屋に荷物を置いた少女は神父を見上げた。「今日はハンツピィの宴だろ? 一緒に広場へ行かないか? 私は各地の祭を追いかけてるんだ。古いルーツを持つ祭を。」 #空想の街 #彷徨う神父 #祭追いの少女

2013-09-01 18:42:02
リュカ @ryuka511

「祭を?」「そう、祭のルーツを追って研究してる。それよりさ、」少女は神父を見据えた。「あんた、もうポムの実は食べたのかい? 宴の参加者はこれを食べて半分人、半分獣になるんだ。見た所、その背中の羽はポムの実の変化とは違うみたいだね。」「!」 #空想の街 #彷徨う神父 #祭追いの少女

2013-09-01 18:46:39
リュカ @ryuka511

何故それを、と神父は背中に意識を向けた。服が破れたわけでも襟足から羽が覗いているわけでもない。狼狽える神父に少女は小さく笑う。「解るんだよ、あたしには。さぁ、広場へ行ってみよう。」狼狽える神父をよそに少女は神父を外へ引っ張った。 #空想の街 #彷徨う神父 #祭追いの少女

2013-09-01 19:41:23
リュカ @ryuka511

少女に腕を引かれ広場に向かいながら神父は考える。羽を見破られ不安になったが、彼女と共にいても大丈夫だと思えた。彼女は一体何者なのだろう。幼い容貌に不釣り合いな大人びた口調。「解るんだよ」と言った瞳は、゙何がを背負った者の目だ。 #空想の街 #彷徨う神父 #祭追いの少女

2013-09-01 20:30:44
リュカ @ryuka511

広場に着くと既に宴は始まっていた。彼女はすたすたと歩き宴のスタッフにポムの実が余っていないか聞いている。探しだしてくれた実を手に彼女は戻ってきた。差し出された実を受け取る。「これがポムの実だよ。人が食べると何らかの獣の特長が表れる。」 #空想の街 #彷徨う神父 #祭追いの少女

2013-09-01 22:13:03
リュカ @ryuka511

「ただし、元から獣の血が混じってる者には効かないらしい。」その言葉に実を受け取った手が震える。自分は遺伝子操作で蝙蝠の羽を持たされたクローン体。この実を食べて変化が表れれば、自分は人だという証明になる。だが何も変わらなければ−。 #空想の街 #彷徨う神父 #祭追いの少女

2013-09-01 22:35:52
リュカ @ryuka511

化け物と罵る声。怯えた視線。「怖いの?」神父は少女を見つめる。視線を受けた少女は微笑した。「大丈夫さ、今夜は宴だ。何が起きても起きなくても、あんたはあんたのままでいていいんだ。」「私のまま?」「そう。」頷いた彼女の背で長い狐の尾が揺れた。 #空想の街 #彷徨う神父 #祭追いの少女

2013-09-01 22:56:24
リュカ @ryuka511

いつの間に彼女は実を食べたのか。「ほら早く。宴が終わっちまう。」少女に促され神父は実を口にした。甘酸っぱさが広がり喉を落ちていく。だが、身体には何の変化も起きなかった。神父は自嘲する。「私は人でも獣でもない。私は一体何なのでしょう。」 #空想の街 #彷徨う神父 #祭追いの少女

2013-09-01 23:04:22