【習作】夜行食堂 第二話 スイカ
- crosstaichi
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01 今年の夏、ダイアロスは天候に恵まれていなかったように感じる。 豪雨や暑さ、竜巻と言った話がちらほら飛び交っていたというのも一つの理由だろう。 一つの理由、と言ったのには訳がある。
2013-09-06 22:15:4002 うちの店の屋根が飛ばされた。 冗談では無く、本当に飛んで行ったのだ。 原因はわからないらしい。 マナの影響? 竜巻? 老朽化? まあなんにせよ。 俺の店は壊れてしまったわけだ。
2013-09-06 22:18:1103 こんな時にありがたいのは同業者の組合だ。 会長のスーさんは腕の立つ大工を紹介してくれたり、見舞金をもってきてくれた。 嫁さんのリンさんもギルドの仲間たちに協力を求めてくれた。 おかげで建築資材の出費も抑えられ、貯めてた分でなんとか修繕費を賄えたというわけである。
2013-09-06 22:22:3305 そんなこんなで今日は再開第一日目。 まだ木の香りが立つ、といいたいけれど出来るだけ前の木材を直して使った店内はなかなか賑やかである。 そんな中でも自慢したいのは、自分で彫り上げた木彫りのメニュー表だ。
2013-09-06 22:27:1107 昔はあるのか無いのかわからないほど薄汚れたメニュー表だった。 でも俺のこだわりでもあったメニュー。 こんどは探し出せるように木彫りで頑丈にしたという訳。 我ながら子どもじみてるな。
2013-09-06 22:32:0508 〈ガラガラガラガラ〉 扉を開けてまた客が二人入ってきた。 「いらっしゃい。狭いけどそこに座って。」 カウンターの空き席を指差す。 この目つきの悪いパンダとニュタコのようなにゅたおは、うちの店でも最古参と言える常連だ。
2013-09-06 22:36:3909 パンダの方は名前をテッカニン。 ダイアロス爆走族の元リーダーで、ライバルとのラストレースを最後に街の裏仲介役を始めたらしい。 今ではずいぶん勢力を持つらしいが、最初の印象は最悪だったなあ。
2013-09-06 22:41:2110 にゅたおの名前はバル。 まあ夜の飲み屋を経営してる人だ。 昔はバハを中心にしたトレジャーハントの雄だったらしいが、なんでか今の形で落ち着いたらしい。
2013-09-06 22:44:0511 「店長、新築祝いによく冷えたスイカを持ってきたから振舞ってくれ」 テッカニンがそう言うとカウンターにスイカが どしん と置かれた。
2013-09-06 22:47:0412 「あいよ」 スイカと言えば切るだけだ。 ただ近年タネを避ける切り方とかやってるが、あれは邪道。 タネを選り分ける事もスイカの醍醐味なのだから。
2013-09-06 22:50:0113 厚めでは無く、ワザとバラツキが出るように切る。 こう言うのは好き好みがあるから、自然のままがいい。 最後に小皿に塩を盛り、どんと大皿に盛ってだす。
2013-09-06 22:52:2714 「はい、カットスイカだよ。 有るだけ、早い者勝ちさ。 塩が欲しいなら自分でやってくれ。」 「スイカ!いいね!」 「あ!その大きいのあたいの!」 「タネの少ないとこは…」 「真ん中だけ食うなよ!タコ!」
2013-09-06 22:55:2815 火に油をいれたようにみんなワイワイ騒ぎながらスイカを取り合っていり。 テッカニンといえば、バルが種を甲斐甲斐しく取ったスイカを表情も変えずに食べている。
2013-09-06 22:57:2017 「そう言えば今日はチロルさんの盆踊り祭りだったわね!」 「花火大会もやるって言ってたなあ!」 「見ながら食べていいよ」 そう俺が言うと、みんなスイカを持って慌ただしく玄関先に出て行った。
2013-09-06 23:01:5518 「店長」 「なんだい?」 テッカニンが懐から布袋を出し、渡してきた。 中には金が随分と入っているようで、ずしりとした重さが有る。 「これは?」 代金にしては些か多すぎる。
2013-09-06 23:05:4719 「みんなにスイカを奢ったからな。 その代金だよ。 じゃあまた改めて。」 「私もまたくるわね!」 そう言うと、二人は荷物をまとめてさっさと帰って行った。
2013-09-06 23:08:0220 鮮やかに見舞金を渡された訳だな。 そう理解した俺はみんなが花火に夢中になってる中、優しい強面とそのパートナーに心の中で感謝した。
2013-09-06 23:12:30