【習作】夜行食堂 第三話 つまみ
- crosstaichi
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02 このメニュー札しかうちの店には置いていない。 まあ頼まれればなんでも作れるもんは作るのがうちの身上だから、ごちゃごちゃ書くのが面倒といえば間違いはない。
2014-05-24 22:40:1803 こういう札しかないと、初めての客にどうして酒が三杯までかと聞かれる事がある。 よっぽど見るもんがないんだろうな。 だからそういう時はこう答える事にしている。 「三杯以上はつまらん酒だからさ」 それに「注文決まったかい?」を添えれば苦笑いの完成さ。
2014-05-24 22:44:2704 「やってる?」 っと一見のもにおだな。 「ああ、好きなとこに腰掛けてくれ」 ガタッ カウンターの前に陣取るもにお。 すっと良く冷えたおしぼりを進める。 これが蒸し暑い今にはありがたいのをよーく知ってるからな。 キーン!と冷えた奴を差し出した。
2014-05-24 22:48:0505 「あ、まずはビールを! それとなんかつまみ作れます?」 「出来るものなら何でも作るよ」 俺の答えにうーんと悩むもにお。 こりゃあ決まるまで長引きそうだ。
2014-05-24 22:51:1106 ビールを冷えたグラスに注いでいく。 ガラスで出来たジョッキを水滴が彩る。 他の店はまだ陶器で生ぬるいビールが多いらしいが、うちは冷たさにこだわっている。 ま、縁あって手に入れた冷やす保存箱のおかげだな。 アルケイナ様様、だ。
2014-05-24 22:53:5607 ごとん 「はい、ビールとつまみお待ち」 キンキンに冷えたビールと小鉢に盛られたつまみが、もにおの前に並ぶ。 「つまみは好みで七味をかけてくれ」 「これ何ですか?」
2014-05-24 22:56:3308 「ああ、オークの耳料理さ。 鮮度が重要なんだけどうまいんだぜ?」 「へー! いただいて見ます!」 はしで薬味と一緒につまんで、パクリ。 「! うまい!」 「だろ!」 いい笑顔だ。 思わず俺も笑っちまった。 笑顔が怖いって言われてから注意してんのになあ…
2014-05-24 23:00:42「作り方教えてもらえます?」 「ああ、簡単なもんだからな」 もにおは慌てて記録を取り出す。 …大したもんじゃないのになあ。
2014-05-24 23:02:2210 「まずは下準備だ。 オークの耳をしっかり洗う。 この時に産毛とかが無いようにカミソリで剃るんだ」 「そうなんですね!」 「そうしたら米酒を少し入れたお湯で中に火が通るまで、湯通しするんだ。 しんなりした方がいい人は長めに、コリコリした食感がいい人は短めに茹でる」
2014-05-24 23:07:5311 「茹でたら氷水でサッ!としめる。 十分冷えたら水気をとり…」 「ふんふん」 「短く刻んで…大根おろし、果実で作った酢醤油であえて…皿に盛り付ける訳だ」
2014-05-24 23:13:4812 「そうしたら真ん中を高く、とんがり帽子みたいにまとめる。 そうしたら小葱をどざー! 追加の酢醤油トットットってかけて味をあわせたら完成だ」 「いやあ!すごい!」
2014-05-24 23:18:1913 「まあ好みでオークの耳に衣を付けてあげてもいいし。 七味をかけると辛いけどうまいんだぜ」 小皿を見ると…もうカラだな… 「すいません、無くなったのでお代わり!」 「あいよ。」
2014-05-24 23:21:1114 その後4杯の耳と3杯のビールを平らげて、もにおは店を後にした。 …二杯目から大盛りにしたんだけどな。 俺は心の中で耳神様と呼ぶか、と独りごちながら、彼の飲み干したジョッキを片付けたのだった。 (終)
2014-05-24 23:26:25耳料理と聞くと怯む事もあるけれど、その実軟骨料理である。 唐揚げみたいに揚げてマヨネーズと醤油で一杯!なーんて事も楽しめちゃうのだ。 是非暑いこれからのビールを支える名脇役にいかが!
2014-05-24 23:29:25