豆太x原沙良葉 相聞ツイノベ

甘酸っぺえ!甘酸っぺえ!!
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豆崎豆太 @qwerty_misp

急な転勤。慌ただしく引っ越した都会の町で、どうにか最低限だけほどいた荷物の中から、君の手紙を見つけた。頻繁にメールや電話でやりとりをしながら、時々そうやって手紙を交換するのが好きな君だった。「…電車でたった数時間の距離だ。会いたいと思えば、いつでも会える」 @hrsrh_a

2013-10-05 13:33:29
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

窓の外は雨。頬杖をつけば、自然に思い浮かぶ人が一人いる。隣にいた人。今は遠くにいる人。携帯を取りかけて、でもやっぱり病めた。代わりに使いさしの便箋を取り出す。筆不精だった君の返事は、一体いつになるだろう。窓の外で雨はまだ続いている。 @qwerty_misp

2013-10-05 13:38:35
豆崎豆太 @qwerty_misp

君から受け取った手紙に、僕が返事をしたのは何回だっただろう。綺麗とは言えない文字で書かれた拙い文章が便箋に浮いてしまって、それで何度も筆を置いた。綺麗な便箋に綺麗な文字、綺麗な文章が踊る君の手紙に、なんだか相応しくないように思えて。 @hrsrh_a

2013-10-05 13:44:27
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

店先で便箋を見かける度につい眺めてしまうのは、もう癖のようなものだ。キャラクターもの、和風のもの、上品なもの、可愛らしいもの。指が青ばかりに止まることに、届く手紙が青ばかりということに君は気づいているだろうか。(青は君の色) @qwerty_misp

2013-10-05 13:51:05
豆崎豆太 @qwerty_misp

都会の町は人が多い。仕事は忙しい。頭の中に、職場の人間の顔と名前、仕事の内容、生活の心配事や面倒事に頭を悩ませているうちに、君の記憶が薄れるように思えた。「今、何してる? 会えない時間は、会えない僕の存在は、君の負担になっていないだろうか」 @hrsrh_a

2013-10-05 13:58:50
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

狭い社会。少し歩けば見知った顔に出会うこの町で、君に会うことだけはもうない。見たことない都会で、君はいま一人で頑張っているんだろう。隣には、私の知らない人がいるんだろうか。「頑張って」でも。「忘れないで」手紙には書けない言葉を呟いて。 @qwerty_misp

2013-10-05 14:03:36
豆崎豆太 @qwerty_misp

「久しぶり。こっちはやっと荷物が片付いた。仕事も取り敢えず順調だよ。大学は相変わらず?」と、つまらないメールを書いた。なんでもいい、君の欠片がほしかった。好きだと、会いたいと、そんなことをいう権利はまだ僕にあるだろうか。 @hrsrh_a

2013-10-05 14:10:59
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

メールの着信音に、一緒に心臓も跳ねる。むにむにと文字を指先はいつもより少し熱い。「久しぶり。こっちはいつも通り。変わり映えしません。新しい生活には慣れた?」えいっと送信して、透明な電波を睨む。届け、届け、届け。 @qwerty_misp

2013-10-05 14:15:38
豆崎豆太 @qwerty_misp

メールが返ってきたのに気がついて、嬉しくてたまらなかった自分を誤魔化すように、ほんの少しの間それを放置していた。少しの時間をおいて、なんでもないような言葉で、返信を打つ。「慣れてきた」(そんなはずはない)「でも、あんまり人が多くて鬱陶しいよ」(君は居ないのに) @hrsrh_a

2013-10-05 14:25:00
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

元気そうな文面に安心する。良かった、と文字を打って、束の間もや、と燻る何か。(私がいなくても、私の知らない場所で、私の知らない人と)「大変そう。近いうちに遊びに行きたいな」何度も打ち直した返事は結局短くなってしまった。 @qwerty_misp

2013-10-05 14:29:57
豆崎豆太 @qwerty_misp

「……近いうちに、か」一人ごちた言葉は、勿論君には聞こえない。大学生と、安月給の会社員。そう頻繁に会えるものではないと分かっている。距離の近さに甘えていた自分を殴りたくなる。「ん、したら迎えに行くわ。じゃあ、おやすみ」送信ボタンを押して、引き出しから便箋を探す。 @hrsrh_a

2013-10-05 14:39:16
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

待っていた返事はあまり乗り気じゃなさそうな文面で、枕をぶん殴ってみた。悔しい、寂しい、腹が立つ、辛い。ぎゅううと布団に顔を埋める。当たり前のように隣にいた記憶が随分遠くに行ってしまった気がして。「ばーか」強く、瞼を閉じた。 @qwerty_misp

2013-10-05 14:44:20
豆崎豆太 @qwerty_misp

今回の転勤は、短くても一年、と言われている。一年もすれば、君は大学生から社会人になるだろう。たとえば君が泣いているときに、手をつなぎにもいけない遠い場所から、「待っていてほしい」なんて、今は言えない。「汚い字でごめん」と前置いて、少しずつ便箋を埋め始めた。 @hrsrh_a

2013-10-05 14:53:07
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

うとうとと微睡めば、優しい夢がおりてくる。見慣れた君の笑顔、いつもの道。「ごめんね」俯いて言えば君が驚いた気配がした。「大変なのは君なのに。勝手に嫉妬して、拗ねて。可愛く我儘を言うことさえ出来ない」髪に君の指が触れた。「本当は会いたいよ」 @qwerty_misp

2013-10-05 15:02:14
豆崎豆太 @qwerty_misp

不安を君に打ち明けることと、このまま隠していることと、どちらがいいのかまだ判断がつかない。会いたい、待っていてほしい、そういう言葉が君の負担にならないか不安になる。結局そのどちらも書けなくて、「来年また、そっちの桜を一緒に見に行こう」とだけ書いた。春は遠い。 @hrsrh_a

2013-10-05 15:07:20
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

手紙好きな私を少し呆れたように君は見ていた。筆不精な君からの返事はあまり多くない。だから。郵便受けでその封筒を見つけて暫しフリーズしたのは私のせいじゃない。急いで開けて、中を読む。見慣れた君の文字に、自然に笑みが浮いた。さあ、早く返事を書かなくちゃ。 @qwerty_misp

2013-10-05 15:15:36
豆崎豆太 @qwerty_misp

君のいる町まで、メールは数秒。手紙だと、どれくらいの時間がかかるのだろう。もう君は手紙を読んだのか。確認のしようもなくてそわそわして、手持無沙汰に仕事の資料を開いた。あの町にいたころ、暇な時間はどうやって潰していたんだろう。今となっては思い出せない。 @hrsrh_a

2013-10-05 15:23:07
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

拝啓。雨が増えてきましたが、どうお過ごしでしょうか。私は湿気と髪の毛と教授を相手に奮闘しています。紫陽花が咲きそう。暑くなればプールも始まるね。桜は好きだけど秋の梨や栗も好き。雪祭りもあるね。私は桜以外のものが、そう、君も、大好きです。敬具 @qwerty_misp

2013-10-05 15:30:42
豆崎豆太 @qwerty_misp

大好きなどと書かれた手紙を見て、肩が落ちた。こちらが躊躇った言葉を、君は簡単に投げかけてくる。自分がひどい卑怯者になったような気がした。「……決めた」会いに行こう。下らないことを考えるのはやめて、会いに行ってしまおう。負担にでも何にでもなり下がろうと思った。 @hrsrh_a

2013-10-05 16:03:59
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

手紙は好きだけど実は得意という訳じゃない。投函した後に後悔するのはいつものこと。だけど。自分の書いた文字を思い返して学校の机に思わず突っ伏した。君からの珍しい手紙にちょっとテンション上げすぎた。恥ずかしい。…恥ずかしい。 @qwerty_misp

2013-10-05 16:08:01
豆崎豆太 @qwerty_misp

三連休を待って、手紙を書いた。「今から会いに行く。この手紙と、どっちが先に着くかはわからないけど」アパート下のポストに投函して、その足で駅へ向かった。駅までの道すがら、郵便車とすれ違う。「競争だ。どっちが先に、会いに行けるか」 @hrsrh_a

2013-10-05 16:14:09
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

三連休の初日。せっかくの休みなのに学校に呼び出されたせいで機嫌は少し下降気味。青空に相応しくないため息を吐いて帰路を辿れば、いつもの駅から誰か、見覚えのある誰かが出てくるのが見えた。あれは。あれ、は。 @qwerty_misp

2013-10-05 16:18:09
豆崎豆太 @qwerty_misp

ああ、何てタイミングだろう。電車を降りたすぐそこで、肩を落とした君の姿を見つけた。元気がないのが不安なような、ほっとしたような。顔を上げた君と確かに目が合って、右手を上げた。「あすか!」 間の車道を、郵便車が通る。 @hrsrh_a

2013-10-05 16:31:52
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

「こうた!」思わず呼んだ彼の名前が空に弾けてきらきらと光る。右手を挙げた彼に向って、走り出す足。駆け寄って、そわそわと手を揉んで、でも何を言えばいいのか分からずに「久しぶり」結局ただ笑いかけた。 @qwerty_misp

2013-10-05 16:36:20
豆崎豆太 @qwerty_misp

「よかった。…連絡しないで急に来たから、会えないかと思ったんだけど」家を出たときの威勢はどこへやら、ひたすらに照れ笑いしかできない自分が情けない。「っと、明日とか明後日とか…っていうか、今から、時間があったら出かけない? 桜は、咲いてないけど」 @hrsrh_a

2013-10-05 16:42:25