- nekouradou
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「ついてきて。」とだけ言った後ずっと黙ったままだが、耳当てをした頭は楽しそうに揺れている。今にもくるりと回りそうな勢いだ。川沿いの風は冷たい。だが慶を見ていると一瞬、それを忘れそうになる。慶にはそういう、空気を変える力があると思う。当人は気がついていないようだが。 #空事学園
2013-11-29 04:24:54大きな学校だった。正確に言うと、宵闇越しでは一体、全体でどれくらいの敷地を有しているのか見当が付かない程の学園。そう、着いたのは“学園”だった。慶はまるで勝手を知っているかのように木々の間の小道を入ってゆく。時々見える建物の影は存外、大きくない。 #空事学園
2013-11-29 04:34:50敷地へ入る前、私は慶に念のため、こんな時間に部外者が良いのか尋ねた。返ってきたのは「だいじょーぶ、だいじょーぶ。」という気の抜ける応答だった。これは既に幾度も来ているという事なのだろう。ここは慶のお気に入りか――、いつの間にか私より低くなっていた背を見つめる。 #空事学園
2013-11-29 04:57:02慶の世界はどうやら私の知らないところにまで広がっていたようだ、それが私には嬉しかった。目の前にあるのは折れそうな程のその身体だが、案外にしなかやさも備わってきたのだな。慶の肩越しに柔らかな秋風が鼻歌とともに流れてくる。 #空事学園
2013-11-29 05:20:33キーボードを打つ手が鈍くなって、そこで真里はやっとストーブの火が消えかけていることに気づいた。吐く息は白い。資料集めに熱中し過ぎたようだ。ストーブに灯油を入れるため、真里は立ち上がった。 #空事学園 #五彩色染め
2013-11-29 13:07:28「火の取り扱いには十分注意するように」と、定期的に訪れる空理隊の指導で、灯油缶は外の簡易倉庫に置いてある。電気ストーブを設置できればいいのだが、あいにくプレハブのさして多くないコンセントは全て塞がっている。真里はダウンジャケットを羽織ると外に出た。 #空事学園 #五彩色染め
2013-11-29 13:07:49灯油の独特の匂いに包まれながら、真里ぼんやりと考えた。そろそろ新しい資料が欲しい。直接染物に関するものでなくてもいい、植物の資料が欲しかった。学園の図書室や街の図書館の本はあらかた読み尽くしていた。 #空事学園 #五彩色染め
2013-11-29 13:10:27『植物』というワードで真里はふと、温室のことを思い出した。あそこを管理している彼女だったら、何か真里の知らない本を持っているかもしれない。花のスケッチをしに行く許可ももらってあるし、今度行った時いたら聞いてみよう。 #空事学園 #五彩色染め
2013-11-29 13:11:38頁を捲る指先が細かく震え始める。最近はすっかり寒くなった、と思いながらこの間電気屋で買ったヒーターのスイッチを入れた。じじじ…という音を聞きながら、また本の続きを読み始める。もう少ししたら珈琲を淹れようかな。 #空事学園 #古書室
2013-11-29 13:43:44燈悟くん(の陰に隠れた私)が人見知り過ぎて皆に絡んでいけない #空事学園 コラボ大歓迎というかコラボしないとひたすら本を読む子になってしまう
2013-11-30 12:07:58もう明日から十二月ですね。授業は20日までですが、部や同好会は冬休み中も活動を許可します。雪が降った場合などは、各自安全に十分注意してくださいね。また、風邪やインフルエンザにも気をつけてください。 #空事学園
2013-11-30 21:37:40まとめを更新しました。というか、「11月分」というのを「11月~」に変更しました。長さを見て読みにくいようなら月の途中でも次のまとめに移行していきましょうか。 #空事学園「空事学園覚書(2013年11月~)【 #空事.. http://t.co/gB4kn4Y2Fl
2013-12-03 12:08:06忍び寄る睡魔と闘いながらペンを走らせる。温室の暖かさは普段は心強いけど、勉強中の睡魔と結託されると強敵だ。眠らないように、小さく歌を歌いながら問題を解く。左手で引き寄せた瓶から砂糖漬けを頬張って、噛む。いつもより多めに噛むのもうたたね防止のため。 #空事学園 #花病み
2013-12-03 14:55:06定期考査の勉強の合間に本を読み進める。少し暖かくなった古書室は、気を緩めると眠たくなりそう。そんな部屋の中で、眠気覚ましに淹れた珈琲を飲みながらまた一枚頁を捲る。そろそろ勉強に戻らないと、冬休みの補習に呼ばれるのは勘弁。冬休みは街に本を買いに行くのだから。 #空事学園 #古書室
2013-12-03 15:34:53手が冷たい人は心があたたかいと、最初に言ったのは誰だったのだろう。いくら暖かい温室とはいえ、水を触れば手は冷える。指をこすり合わせてはあ、と息を吐けば、夜空の星がきらきらと瞬いた。 #空事学園 #花病み
2013-12-05 20:27:05溜め息に砂糖漬けの花びらがふわりと浮いた。机の端にいったそれを摘まんで、落とす。昨日の母の電話から落ちた気持ちはなかなか浮上しない。『百合が熱を出しちゃって』『下がるまで帰省は延ばして』妹の容体より自分のことばかり憐れむ我儘な思考にも、うんざりしていた。 #空事学園 #花病み
2013-12-09 12:11:37「うー、寒い」赤いマフラーを口元に引き寄せながら呟く。冬休み前ということもあり、空事学園は、どこか静かで。すれ違う生徒も疎らな廊下を歩いて辿り着いたのは、温室。ちらりと中を覗けば、「…あ。いた」可愛らしい、小さな影。→ #空事学園 #花病み @hrsrh_a
2013-12-11 19:52:38そろそろと扉を開けて、中に入る。「合歓ちゃん」呼びかけてみるけれど、小さな身体は動かない。ひょこひょこと近づいて覗きこんでみれば、「…やっぱり。寝てる」風邪引いちゃうわよ?と呟いても、寝顔は穏やかで、寝息も規則正しいまま。→#空事学園 #花病み @hrsrh_a
2013-12-11 19:52:49となれば、わたしも立派に幽霊である。悪戯心が目覚めるというもの。やることは一つだ。「ふふふ、」わたしはにやけるのを必死に堪えながら、柔らかそうな頬を、つん、とつついた。#空事学園 #花病み @hrsrh_a
2013-12-11 19:53:00頬に何かが触れてふと目が覚めた。ふへ、と意味のない声を上げて開いた視界の先に。「え、あ、え、柳さん…!」上げた声に笑ったのは、落し物係の彼女だった。「おはよう」「お、おはようございます…」恥ずかしさに熱くなる頬に手を当てる。 #空事学園 #花病み @spice_100g
2013-12-11 20:00:34今つついたばかりの柔らかな頬が、小さな手に覆われる。なんて可愛らしいこと。「風邪引かないようにね?」そう言うと、彼女はまだ恥ずかしそうにしたまま、こくこくと頷いた。わたしは更に続ける。「…あのね、合歓ちゃん。実は、相談したいことがあるの」 #空事学園 #花病み @hrsrh_a
2013-12-11 20:08:46