普通の女の子が艦娘になって轟沈するまでのお話

艦これ2次創作SSです。 と言っても艦これ要素は結構薄いです。 「艦娘とは」「建造とは」の辺りに焦点をあてた少々ダークなストーリーにしたつもりです。
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Suneco @s_suneco

戦争が始まって、お父もお兄も連れていかれてしまった。でも私は、お国のために働けるお兄達が羨ましかった。お母は「女は家を守るのが仕事よ」と言っていたけど、私もお兄のように国を守る人になりたかった。

2013-11-19 16:42:32
Suneco @s_suneco

だから、私宛に赤紙が来たときはほんとうに嬉しかった。お母は泣いてたけど、私も戦争に行ってお兄みたいに働けるんだって思うと、ドキドキが止まらなかった。お母に「平和な世界にして帰ってくるね」と言うと、お母は目に涙を浮かべたまま笑顔を作って送り出してくれた。

2013-11-19 16:45:52
Suneco @s_suneco

私は海軍に連れて来られた。「今日からここがお前たちの暮らす鎮守府だ、仲良くやっていけ」軍人さんの声が響く。周りを見回すと私と同じくらいの子から結構年上に見えるお姉さんまで、たくさんの女の人が並んでいた。

2013-11-19 16:49:28
Suneco @s_suneco

私達は年齢別に分けられて、たくさん勉強した。やってることは前の学校と同じようなものだったけど、体育、特に泳ぐ授業が多かった。私は泳ぐのが得意で、この広い海をどこまででも泳いでいける気分だった。

2013-11-19 16:57:07
Suneco @s_suneco

友だちもできた。中でも仁那って子とは大の仲良しになった。仁那は同じ寮室の子で、泳ぐのはちょっと苦手だけど、座学ではすごい成績を残していた。勉強が苦手な私と、運動が苦手な仁那。私達はお互いにお互いを支えあって日々を過ごしていた。

2013-11-19 17:05:51
Suneco @s_suneco

「……今期生の娘達はどうだ?」「年少組は例年通り、ですね」「確か今期はお前の妹もいたな、そいつはどうだ」「……あいつは優秀です、適正ランクでしたらかなりの上位かと」「そうか、お前も兄貴として鼻が高いな」「……」

2013-11-19 17:16:32
Suneco @s_suneco

ある日、私は何人かの同級生たちと一緒に軍人さんに呼び出された。私は怒られるのかな、とビクビクしていたけど、軍人さんは笑いながら「普段頑張ってるお前たちにご褒美だ。他の奴らには内緒だぞ」と言ってお菓子を出してくれた。

2013-11-19 17:23:21
Suneco @s_suneco

見たことないそれはアイスクリンと言うらしくて、私はその冷たくて甘い味に感動した。仁那にも分けてあげたいなと思ったけど、「ここで食べないと溶けてなくなっちゃうよ」と言われたので、ゴメンねと思いながら全部食べた。いつもよりも元気になった気がした。

2013-11-19 17:25:14
Suneco @s_suneco

寮室に戻ると、「何があったの?」と仁那が声をかけてきたけど、本当のことを言うと羨ましがりそうなので私は「ちょっと怒られちゃってね」とごまかした。ちょっと胸がチクチクしたけど、軍人さんが内緒だって言ってたし、仕方ないよねと自分を納得させた。

2013-11-19 17:31:03
Suneco @s_suneco

その日の夜中、仁那の悲鳴で目を覚ました。「怖い夢、見たの……」寝ぼけている耳に仁那の震えている声が届く。「――ちゃんが、どっか遠くに行っちゃう夢……ねえ、そこにいるよね? どこにも行ったりしないよね?」向かいの布団から消えほそりそうな悲鳴が響く。

2013-11-19 17:42:57
Suneco @s_suneco

私はスッと立ち上がり、仁那の布団に潜り込んだ。「大丈夫だよ、私はちゃんとここにいるよ」仁那の手を握りしめる。「……ホントに?」「うん。だって私達、二人で一人前じゃん」「……」「だからね、ずっと仁那ちゃんと一緒だよ」「……良かった……」

2013-11-19 17:48:31
Suneco @s_suneco

仁那はホッとした表情を見せ、次第にくうくうと寝息を立て始めた。握られたままの手を見て、私もそのまま仁那の布団で寝ることにした。仁那の身体を感じながら、私もすぐに眠りに落ちた。不思議とその日は今までで一番良く眠れた。

2013-11-19 17:53:31
Suneco @s_suneco

次の日の朝、私はまた呼び出しを受けた。部屋から私を見送る仁那の顔は少し寂しげだったが、すぐにいつもの笑顔を見せてくれた。向かった先には、昨日アイスを一緒に食べた子達がいた。軍人さんが話し始める。「君たち、今までよく頑張ってきた」

2013-11-19 17:58:46
Suneco @s_suneco

「我々は君たちの今までの生活を観察し、評価してきた。君たちが我々と共に戦場に赴く素質があるかどうかをテストしていたのだ。そしてここにいる君たちは我々が適正があると判断した優秀な兵士の卵たちだ。自分達に拍手を」部屋にまばらな拍手が響く。褒められていることがわかったので嬉しくなった。

2013-11-19 18:08:37
Suneco @s_suneco

「今から最後の試験を行う。名前を呼ばれた者から着いてきなさい」一人ずつ隣の部屋に入っていく。あまり勉強が得意でない私は、いつ自分が呼ばれるのか気が気でなかった。部屋に入っていった子が誰も戻ってこないことにも、気が付かなかった。

2013-11-19 18:13:00
Suneco @s_suneco

とうとう私の番が来た。恐る恐る扉をくぐると、そこは長い廊下だった。2つ、3つほど廊下を抜けた先には、大きな金属の扉があった。軍人さんが耳元でささやく。「入って部屋の中央まで進め。それで終わりだ」ギギィと音を立てて扉が開いた。

2013-11-19 18:18:35
Suneco @s_suneco

「ここは……」重そうな音を出して背後の扉が閉まる。真っ暗な部屋を見渡すと、中央の部分だけ青白く照らされていた。私は恐怖に負けそうになりながら、少しずつ光の下へと歩いていった。

2013-11-19 18:29:00
Suneco @s_suneco

ぷん、と何かの臭いが鼻についた。すぐにはわからなかったが、覚えがあった。鉄とアンモニアの臭い。「えっ……?」この部屋で何があったのか。他の皆はどうしたのか。頭の中がぐるぐると回り出す。

2013-11-19 18:33:54
Suneco @s_suneco

後ろを振り返っても、重そうな扉は私一人では開けられそうにない。私には進む以外の道は無いらしい。「行くしか、ないのね……」意を決して進みだす。笑い出す膝を必死に抑えながら、光の中心に立った、その瞬間――

2013-11-19 18:40:32
Suneco @s_suneco

「これで最後の一人か」「今期生も既に9人素質がなくて死んでいる。2桁は勘弁してくれよ」「こいつは大丈夫だろう、兄貴のお墨付きだ」「ああ、噂のお前の妹か。ってことは中尉の娘なのか」「だな」「(頼む、死なないでくれよ……)」

2013-11-19 18:46:23
Suneco @s_suneco

――頭の中に、情報が流れ込んでくる 船としての歴史 思念 全てが私を、書き換えていく 全身に痛みが走る 身体に金属が装着されていく 穴が開いた感覚 私、死んじゃうのかな……永遠に思える痛苦の中、私は意識を手放した。

2013-11-19 18:58:31
Suneco @s_suneco

目に入ったのは、電灯の光だった。「あ、起きた?」仲間の声が聞こえる。私はやけに重い腰を起こし皆の方を向いた。皆、背中から腰にかけて何か金属を付けていた。ふと背中を見ると、自分にも同じようなものが付いているのがわかった。

2013-11-19 19:08:18
Suneco @s_suneco

「生きててよかったよ」その言葉を受けて部屋を見回すと、試験の前に比べて人数が減っていた。他の皆は、と尋ねると皆一斉に口をつぐみ、さすがの私でも大体の事情は察せた。あの想いに、痛みに、耐えられなかったんだ。

2013-11-19 19:13:17
Suneco @s_suneco

程なくして軍人さんが部屋に来た。「よく試験に耐えた。これで君たちも晴れて我々の一員だ。君たちには兵”器”として最前線で戦ってもらう」

2013-11-19 19:19:53
Suneco @s_suneco

私たちは別の部屋に移動した。そこには最初鎮守府に来たときに会ったお姉さんたちがいた。皆なにかしら金属の装備品を付けていた。中にはどうやって歩くのかわからないくらい大きなものを背負ってる人もいた。

2013-11-19 19:23:45