マスター・オブ・カブキ・イントリーグ #2

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「政府筋と言えば、戦争の噂も」「ああ」「アマクダリ・セクトや暗黒メガコーポがどこまで関与しているのか」ナンシーが言った。ザリザリザリ……IRC電脳空間がノイズに揺らぎ始める。今夜の太陽フレアはいささか機嫌が悪いらしい。「また会いましょう」ナンシーは微笑んでフスマを開ける。 25

2013-11-24 01:24:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ああ、オイトマするぜ」ガンドーが立ち上がる。武骨ではあっても、どこかキョート者らしい奥ゆかしさが感じられる。「今度そっちに行く機会があったら、弟子も紹介してくれよな」「ええ、可愛い女の子よ」「女ハッカー?」「高密度バイオニューロンチップを載せた、オイランドロイドの女の子」 26

2013-11-24 01:29:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ほう」ガンドーは目を見開いた。「そいつは興味深いな。ロボットの娘が、なんだ、美女と一緒に暮らして、ハッカーのお勉強?まるでカトゥーンだぜ」「カトゥーンみたいなのはお互い様でしょ」ナンシーが笑った。両者は自動サイバーマッポと電磁ノイズから逃れるように退室し、見えなくなった。 27

2013-11-24 01:41:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ガンドーはコケシ電話ボックスの中で目を覚ます。焦げ臭い嫌な匂いが、彼の鼻孔を刺激した。反射的にLAN直結を解除する。「オイオイオイ……何だこりゃあ」ガンドーは直結後の偏頭痛に耐えながら、外付け違法ファイアウォールを見る。それは2個までが破壊され、火花を散らしていた。 28

2013-11-24 01:48:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

あと少しログアウトが遅ければ、危なかった。「自動追尾型のIRCウィルスか?ネオサイタマ側じゃねえな。どこのどいつだ、仕掛けてきやがったのは……」発信源を探るため素早くシステムログをGREPする。そこで彼が見たのは禁禁禁禁禁禁禁禁禁禁禁禁禁禁禁禁禁禁禁禁禁禁禁禁禁禁禁禁禁禁禁 29

2013-11-24 01:53:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

研究施設の一室。拘束着ニンジャ装束を纏ったニンジャのシルエットが壁に映る。彼はぼろぼろの大型ソファに座り、オーガニック・スシらしきものを摘む。その後頭部からは、二本のLANケーブルが天井へと伸びていた。 31

2013-11-24 22:43:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

壁には大型プラズマTVがかけられている。ニンジャは直結命令でそのチャンネルを切り替える。「便利だなァ!これ!」しばしば耳障りな声で愉快そうに笑う。金属製の床には細かい溝が何本も走っており、足元には複数の死体らしきものが転がっていて、粘液めいたドリップ音が下水溝へ滴ってゆく。 32

2013-11-24 22:52:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

この下劣なる男にとっては、ソファにふんぞり返って映画を観るのと、部屋の隅の檻に落ちてくる女死刑囚を殺して屍姦するのとが、ほとんど等価の暇潰しめいた娯楽である。この邪悪なニンジャの攻撃性は、いささかも損なわれてはいない。攻撃性を鈍らせる事は、兵器としての価値を貶めるからだ。 33

2013-11-24 22:57:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「要求が来ました。髪を切りたいので、トップスタイリストを呼べだそうです」UNIX室に座る監視員がヘッドホンを押さえながら言う。「許容範囲内。手配していいわ」後ろに立つミコシ研究主任が、機密マニュアル文書を見ながら言った。「大丈夫ですか?もし殺したら…」「また枷を締めるだけよ」34

2013-11-24 23:08:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そうでしたね、了解です」研究員はUNIXを素早くタイプした。「まだ不安が?」ミコシ女史が厳しい口調で問う。研究員はレントゲン経過映像を何枚かモニタに映し出す。「いいえ、制御手術の成果については何も。しかし、あのニンジャの体内構造は……実際常軌を逸していますから……その…」 35

2013-11-24 23:15:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「フェイズを前に戻すべきだと?」「いえ、とんでもありません」「ならばそのような否定的コメントは慎みなさい」「ハイ」研究員は押し黙る。もはやオペレイション・マジックモンキーという名の巨大な歯車は、戦争という名の潤滑油を得て回転を始めており、誰にもそれを止める事などできぬのだ。 36

2013-11-24 23:21:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

少しして、指揮官めいたニンジャが監視室のドアを開ける。彼の名はイフリート。たちまち室内のアトモスフィアが張り詰める。「奴はどうだ?」「戦闘訓練フェイズの推移は、非常に素晴らしいものです。ガイアが我々にもたらした福音かもしれません」ミコシ女史がいささか興奮気味に答える。 37

2013-11-24 23:33:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「くれぐれも奴にパワーリソースを与えすぎるな」「その点も、完璧に制御できています、データを」ミコシがキーを叩くと、戦闘訓練場で苦痛にのたうち回り、犬めいて御預けを喰らう拘束着ニンジャの姿が映し出された。「よかろう、計画の遅れは許されん」イフリートは目を細めて頷いた。 38

2013-11-24 23:43:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「徐々に礼儀作法も叩き込む。元老院が求めるのは戦果だけではない。あれらがドゲザする姿だ」「彼はとても素直になりますよ」ミコシが深々とオジギする。「フン」イフリートは鼻で笑い、踵を返す。「四時間後に部隊を連れて出る。捕獲作戦だ」「少女型ですか?」「いや。だが、興味深いものだ」 39

2013-11-24 23:56:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……割に合わねえな、全く合わねえ」アッパーガイオンの薄暗いホテルの一室。タカギ・ガンドーは目の前に置かれたアタッシェケースの札束を睨みながら、不機嫌そうに煙草を吹かした。 41

2013-11-25 00:11:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「もうひと掴み、経費って事で貰いたいとこだぜ。なあ、そうだろ?」ガンドーが提案する。相手は黙り込む。ガンドーの目の前には顔を隠したエージェント。クローンヤクザではない。汗が滲む。危険な賭けだ。室内にはこの男だけだが、彼は狙撃手や監視者の気配をニンジャ感覚で感じ取っている。 42

2013-11-25 00:19:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「これ以上のカネを渡す事はできん。あの少女を保護し、キョートへと連れ帰るという依頼内容だったはずだ」エージェントがケースを閉じる。沈黙。ガンドーがサケを呷る。「保護が必要?記憶を消されてる?……クソッタレめ、ありゃ最高に凶悪なニンジャだぞ。俺は死にかけたんだ。この傷を見ろ」 43

2013-11-25 00:29:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

エージェントは何も言わず、相手を凝視する。交渉術に長けたガンドーでも、その腹の底は知れない。そして口を開く。「……未だチャンスはある。ネオサイタマに戻り、探索再開を……」「断る。……いいか、俺は不機嫌なんだ。なんで不機嫌かって?てめえら、あの女学生の正体を知ってたろ?」 44

2013-11-25 00:35:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「確証がなかったからだ。彼女が我々の追う少女型ニンジャであるという」「で、何のために探してるかも言えねえんだろ?」「君の関知すべき事ではない」「ブッダ!聞いたかよ!俺はもうゴメンだぜ!」ガンドーは机を叩いて立ち上がる。狙撃を招かない程度の乱暴さで。狙撃手も胃が痛い事だろう。 45

2013-11-25 00:42:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ネオサイタマに行ったら死に掛けて、帰ってきたら俺の事務所は荒らされてデータが抜かれてやがる!全くツイてねえよ!あんたらに関わってると、ロクな事がねえ!」「依頼を……断ると?」男は冷たい声で言う。「ああ!コケシ社がどうなろうと知ったこっちゃねえ!俺はまだ死にたくねんだよ!」 46

2013-11-25 00:46:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「日報にあった、覚醒後の追跡データを提出したまえ」男は高圧的な態度を崩さない。その背後に強大な組織が存在するとき、日本人はしばしば、ニンジャとすら対等に交渉を進めるのだ。「……なら、せめて札束をもうひと掴みさせてくれよ。バカンスにゃ金が要るんだ」ガンドーはにたりと笑った。 47

2013-11-25 00:54:05