治安維持法をめぐる回想――清水幾太郎『戦後を疑う』(1980年)より

 戦前戦中の日本社会は、治安政策を強化・拡大させ、多くのひとびとをその影響下におくことに成功しました。最も声だかに流言・デマ統制が叫ばれたのもこの時期です。  今回は、そうした治安政策の一例として、悪名高い治安維持法をめぐる回想をとりあげてみましょう。とりわけ、その成立期(1925-1928)に関する証言です。戦後日本を代表する知識人の一人、清水幾太郎(1907-1988)の晩年の著作『戦後を疑う』から抜粋しました。 参考サイト: Wikipedia-治安維持法 続きを読む
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dabitur @dabitur

[quote] 「年少の諸君と話をしておりますと、私が知っている以上に、戦前――と申しましても、当然、時期によって大きく違いますが――を真暗なものと考えている人が多いのに驚きます」(清水幾太郎(1980/85:17)) http://t.co/4JwOhyaMrP

2013-12-08 17:04:07
dabitur @dabitur

[quote]「もっとも、戦後の日本の途方もない自由に比べたら、どの国も、どの時代も、不自由に決っておりますし、また今更、諸君の持っている印象を訂正する心算もありませんが、取敢えず、私自身の小さな経験を一つ二つ申上げてみようかと思います」(清水幾太郎(1980/85:17))

2013-12-08 17:05:29
dabitur @dabitur

[quote] 「前に述べましたように、治安維持法が公布されたのは、大正十四〔1925〕年四月二十二日で、三月七日に衆議院葦三月十九日に貴族院を通過しております。これが公布された四月、私は官立の東京高等学校に入学致しました」(清水幾太郎(1980/85:17f))

2013-12-08 17:06:54
dabitur @dabitur

[quote] 「この高等学校は、官、公、私立を合せて三十校ぐらいあった日本の高等学校の中でも、最も歴史の浅い、最も小さなもので、戦後は、最も歴史の古い、最も大きな第一高等学校と合併して、今日の東京大学教養学部になってしまいました」(清水幾太郎(1980/85:18))

2013-12-08 17:08:04
dabitur @dabitur

[quote] 「『稀代の悪法』と呼ばれる治安維持法が公布された時、私は、既に多少は世間のことを知っている年齢であった訳であります」(清水幾太郎(1980/85:18)) http://t.co/4JwOhyaMrP

2013-12-08 17:08:53
dabitur @dabitur

[quote] 「しかし、お恥ずかしいことですが、それによって何もショックを受けませんでした。本当は、大変なことになったかと思うべきだったのでしょうけれども、そうは思いませんでした」(清水幾太郎(1980/85:18))  http://t.co/4JwOhyaMrP

2013-12-08 17:10:52
dabitur @dabitur

[quote] 「そう思うよりは、同年三月二日に衆議院、三月二十六日に貴族院を通過し、五月二日に公布された普通選挙法の方に気を取られていました」(清水幾太郎(1980/85:18))

2013-12-08 17:11:42
dabitur @dabitur

[quote]「何しろ、普通選挙運動は、私が生れる十年前の明治三十年頃から始まった民主主義の運動で、幼い私には何のことか判りませんでしたが、父が絶えず口にする『フセン』(普選)という言葉を聞きながら育って来たようなもので」(清水幾太郎(1980/85:18))

2013-12-08 17:13:29
dabitur @dabitur

[quote] 「長い間の民主主義の運動がやっと実を結んだのですから、その方が大事件だったのです」(清水幾太郎(1980/85:18)) http://t.co/4JwOhyaMrP

2013-12-08 17:19:58
dabitur @dabitur

[quote] 「また、〔治安維持法の対象の〕『国体変革』などを企てる日本人が何処にいるのか、全く想像もできなかったので、治安維持法には全く実感がなかったのです」(清水幾太郎(1980/85:18))

2013-12-08 17:21:12
dabitur @dabitur

[quote] 「後から考えれば、普通選挙法の公布という民主主義の一大進歩と、反民主主義的な治安維持法の公布とが抱き合せであったとも見えますし、或る人たちの説くように、普通選挙法という『飴』と治安維持法という『鞭』とが一組のものであったとも言えるでしよう」ibid.

2013-12-08 17:23:53
dabitur @dabitur

[quote] 「私も、そう考えた時期がありました。しかし、当時としては、普通選挙法の方が大事件で、治安維持法は一向に目立ちませんでした」(清水幾太郎(1980/85:19))

2013-12-08 17:24:45
dabitur @dabitur

[quote] 「ところがこれも戦前をひたすら暗く書こうとする書物に共通な傾向ですが、治安維持法だけを大きく取上げて、同じ議会が生んだ普通選挙法を非常に軽く取扱っています。これは、どうも当を失していると思います」(清水幾太郎(1980/85:19))

2013-12-08 17:25:29
dabitur @dabitur

[quote] 「戦前、出版物は検閲され、必要とあれば、発売を禁止されました。また、禁止を免れるために、伏字を用いることがありました」(清水幾太郎(1980/85:22))  http://t.co/4JwOhyaMrP

2013-12-08 17:35:47
dabitur @dabitur

[quote] 「一口に伏字と申しましても各国各様で、アメリカ式、フランス式、ドイツ式、ロシア式など、それぞれの特色があって、なかなか面白いのですが、今日は省略致します」(清水幾太郎(1980/85:22)) 

2013-12-08 17:36:24
dabitur @dabitur

[quote] 「ただ、あのブハーリンと限らず、後に触れることになると思いますが、世界革命の総本部、モスクワのコミンテルン(共産主義インタナショナル、第三インタナショナル)関係の出版物、その翻訳は、大部分、どの書店でも自由に買えたことを知って戴きたいと思うのです」(ibid.)

2013-12-08 17:37:01
dabitur @dabitur

[quote] 「当時も、現在と同じように、東京の神田の駿河台下に三省堂という有名な書店がありました。一階の広い売場の真中に、一つの大きな台があって、そこには、マルクス主義やコミンテルン関係の外国書がズラリと並んでいました」(清水幾太郎(1980/85:22))

2013-12-08 17:37:38
dabitur @dabitur

[quote] 「高等学校へ進んだ頃、私はそこで、『共産党宣言』のドイツ語版、英語版、フランス語版を買い揃えました。また、この種の文献の専門店が東大の赤門の近くにあり、そこでも色々の文献を買いました」(清水幾太郎(1980/85:22))

2013-12-08 17:38:10
dabitur @dabitur

[quote] 「なお、治安維持法が改正された昭和三〔1928〕年六月、改造社という大出版社は、『マルクス・エンゲルス全集』の刊行を開始し、昭和十年八月までに、二十七巻、別巻、補巻を出版しております」(清水幾太郎(1980/85:23))

2013-12-08 17:39:09
dabitur @dabitur

[quote] 「こんな話を始めると際限がありませんので、もうやめることにしますが、当時の左翼文献の盛行を思うと、自由民権運動の時代にスペンサーの邦訳が氾濫していたことが思い出されて来るの です」(清水幾太郎(1980/85:23))

2013-12-08 17:40:29
dabitur @dabitur

[quote] 「自由民権運動時代、スペンサーは日本を風靡していたのです。そして、或る時、スペンサーは姿を消して、日本人はケロリと彼のことを忘れてしまいました」(清水幾太郎(1980/85:24))

2013-12-08 17:42:42
dabitur @dabitur

[quote] 「序のことに、私が徴兵検査を受けた時の経験を話しましょう。あれは昭和二〔1927〕年で、私は、歌の文句ではありませんが、『高校三年生』でした。場所は、私の本籍のある東京の日本橋区の或る小学校の雨天体操場です」(清水幾太郎(1980/85:24))

2013-12-08 17:44:47
dabitur @dabitur

[quote] 「身体検査が終って、百何十人でしょうか、私たち壮丁は、茣蓙〔ござ〕に坐って、当日の指揮官の某陸軍大佐が順々に判定を下すのを待っていました。私は、現在と同じように、背ばかり高く痩せておりました」(清水幾太郎(1980/85:24))

2013-12-08 17:46:31
dabitur @dabitur

[quote] 「やがて、私の名が呼ばれまLたので、大佐の前へ進み出ました。大佐は、『丙種〔へいしゅ〕合格』と大声で言いました」(清水幾太郎(1980/85:24))

2013-12-08 17:48:22
dabitur @dabitur

[quote] 「丙種合格というのは、丁種不合格と同じようなもので、軍隊の使いものにならぬという意味でしたから、もし『丙種合格』と言われたら、『残念であります』と言わなければいけない、と或る友人から聞いておりましたので、『残念であります』と私は大声で申しました」(ibid.)

2013-12-08 17:49:10