- treeofevil
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――とある大罪
【舞台裏】 「ただいま」 「おかえりなさーい!負けたねホマレ!」 「…おかえりなさい、負けたねホマレ。」 「…私が望み、これが正しいと選んだ結果さ。何の悔いもないよ」 「でも負けたわ!」 「死んだら負けなんだろ?」 「手厳しいね。…まったく、君達双子という奴は…」
2013-12-01 21:19:38「暴食君はどうした?まだふてくされてるのかい?」 「パォシーなら寝てるわ、ふて寝ってやつね」 「いつもは遊んでくれるのに、何しても反応しないもんだから、ホマレがいなくてつまんなかったよ」 「…凶悪な見た目のわりに繊細な犬だからね、彼は。」
2013-12-01 21:20:20「どうすれば元気になる?今のままなんて嫌、つまんないもん」 「パォシーに高い高いして貰うの僕達好きなんだ。ねぇ誉、どうしよう?」 「…落書きでも、すればいいんじゃないか?」 「額に肉って奴ね!わかった!いきましょうヴァーニャ!」 「じゃあ僕は魚って書く事にするよ。いこうターシャ」
2013-12-01 21:21:18「………行ってしまったか。冗談のつもりだったんだが。」 「…しかし落書きか、面白そうだな。」 「………。」 「……私も着替えたら、行ってみるかな。」
2013-12-01 21:21:45――とある大罪
「――♪ ~♪」 一通り喋り倒して満足したのか、蟲喰の少女は珍しく、すいよすいよと寝息を立てて、眠っている。怠惰はそれを眺めながら、静かに歌い、金を柔く、柔く、撫でて。 「よかった。けがも、なくて」 『いたい』も『けが』も、自分には、わからないけれど。
2013-12-01 21:30:46『あかいもの』がついてなければ、きっと大丈夫。 「……まよる、おそい、ね」 座敷にそぐわない、柱時計を見上げ、吐息。それに応えるは。 「――『幸福』を掴めたかのう」 「しあわせ?」 こてり。首を傾げる。
2013-12-01 21:30:54「いやいや、構うな、怠惰の。 ……さてはて、次なる扉が、現れたか」 ひめさま、と声を漏らす。そっと、自分の膝から少女の頭をおろし、畳んだ毛布を枕代わりに差し込む。 「……いってきても、いい?」 「ああ、構わぬよ、怠惰の」 「あり、がとう。ひめさま」
2013-12-01 21:31:05――やくそくを、した。たいせつで、だいじな、やくそく。 ずっと、ずっと、このむねに。この、こころに。 いだいていたい、たいせつな、あたたかい、おもい。
2013-12-01 21:31:14「エメロード、いってきます、」 ささやき。金をひと撫でする。僅かに身じろいだ少女を見て、口元を綻ばせる。 「ひめさま、いってきます、」 嗚呼、と豪奢な姫は返した。 ドレスのしわを伸ばしながら、裸足のまま、板張りの廊下を歩く。 「よう。行くのか」 「――ヒビキ、」
2013-12-01 21:31:25ヘッドフォンをおろし、紅を見つめる青。くしゃりと、その銀を撫で、幽か、その口端を吊り上げる。 「うん、いってきます、」 「気ィ付けろよ。寝床作って待っといてやっから」 「……うん、ありがと、う」 こくり。頷き、裸足のまま、庭先へと足を踏み出す。 久方ぶりの土の感触が、心地よい。
2013-12-01 21:31:35「わすれてはいけない」 自分が何であるかを。 「わすれてはいけない」 自分の大好きなものを。 「わすれてはいけない」 自分の在り方を。 「わすれて、ないよ」 ――だいすきなひととの、たいせつなやくそくは、この胸に。
2013-12-01 21:31:43「……いって、きます。」 薄桃の唇を引き結び、長い袖の中の手で軽く、握り拳を作り。 まるで、祈るかのように、目を瞑って。――そっと、扉を、押し開ける。
2013-12-01 21:31:53向こうには、どんなところだろう? 誰かと一緒にお昼寝が出来るところならいい。 胸元、手を合わせ、ゆっくりと歩む。 「あめが、ふるのは、」 いやだなぁ。ぽつり、呟いて。 「みんな、なかよしが、いちばん」 こくり。ひとり、うなずいて。
2013-12-01 21:32:37「おひるね、ゆっくり、できるところ」 うん、そうだ、そんなところがいい。ひとり、うなずき、わらって。 「森、森がいいな……。土の、においと、樹の、かおり……」 隙間から、差し込む光が、あたたかいところ。そうだ、そんなところがいい――。
2013-12-01 21:32:46――とある大罪
唐突に目が覚めた。怠い身体を無理矢理起こし、周囲を見渡す。目に入ったのは、埃を被った赤い絨毯と、整然と並ぶ木製の椅子。天井にはステンドグラスで描かれた絵があり、開け放たれたままの両開きの扉から廃れ汚れただけの家屋が見える。そのままスウ、と正面へと視線を動かせば、十字架と聖なる像。
2013-12-01 22:06:24男−−アーネウスは目を見開いた。そして、自らの首に手を当て。 「ふ、ふはは、はははははははははっ!!」 何もかもを理解した瞬間、爆ぜたのは笑いだった。高く響き渡るそれは嘲笑であり、礼賛。 「ああ!やはり神など居ない!」 高らかに冒涜は木霊する。
2013-12-01 22:07:34おかしくてたまらないと、腹を抱え、顔を覆い。アーネウスは嗤い続けた。 死から掬われたのはこれで二度目になる。一度目は、考えるまでもなく『強欲』の『傲慢』だ。偶然、辿り着いたあの鈴蘭の花園で、アーネウスは『傲慢(少女)』に繋がれた。二度目は、考えるまでもなく今だ。
2013-12-01 22:08:13いったい誰がアーネウスを掬ったのかは知らない。だが、救済の神とやらでは無いだろう。己が真っ先に地獄に堕とされる人間であることをアーネウスはよく知っている。掬うなど、いったい何の冗談だと言ってやりたくなるほど有り得ない。 −−ああ全く、神など下らない。ただの幻想で何が買える?
2013-12-01 22:09:46笑いを止め、立ち上がる。痛みが無いことに首を傾げて己を見れば、どうやら傷も全てないらしい。ああ全く、何処の誰かは知らないが有難いことだ。埃を払い、一つ伸びをする。長く眠っていたのだろう。凝り固まった身体が、少しばかり億劫だ。 踵を返し、十字架に背を向ける。
2013-12-01 22:10:11投げ捨てた筈の靴も有って、至れり尽くせりだとまた笑いが零れた。 歩を進め、教会を出る。戦いなど無かったかのように痕も無い静かな街を少しばかり退屈に思いながら。 「……ああ、そう言えば」 ふと、足を止め。薄い雲のかかる、薄い灰と水色の空を見上げて。
2013-12-01 22:10:17