デス・トラップ、スーサイド・ラップ #2
「イヤーッ!」ルイナーは身を沈め、下から上、抉りあげるように左腕を動かした。緩慢にすら見える彼のカラテを、キュイラジアーの鋼鉄装甲は易々と受け容れる。まるで溶かすように装甲を破ったルイナーの左手は内燃機関につながる焼けたケーブルを掴み、惨たらしく引きずり出した。「イヤーッ!」42
2013-12-11 23:55:59「ピガ、ピガガガーッ!」KABOOM!爆発したキュイラジアーを避けて後ろへ転がると、彼は先ほどのサブマシンガンを再び拾い上げた。噴き上がるキュイラジアー残骸黒煙めがけ、ルイナーは引き金を引き続けた。TATATATAT……煙を見通し、認識していたのだ。奥にまだ一人。ニンジャだ。43
2013-12-12 00:01:13マシンガンなど気休めにもなりはしない。黒煙を越えて回転ジャンプでエントリーしてきたニンジャが着地と同時にオジギし、カラテを構えた。「ドーモ。ミスティルテインです」「ドーモ。ルイナーです」ルイナーは目を細めた。ミスティルテインの左横に、アグラ姿勢の別のニンジャがジワリと滲んだ。44
2013-12-12 00:07:24「ソフトマインドです」滲む輪郭のアグラ姿勢者は、ニヤリと笑ったようだった。ルイナーは踵を返した。負傷した彼が二人の手練れニンジャに勝てる筈もなし。ルイナーは状況判断する。スーサイドないしフィルギアを追撃に向かった者等がスライドして来た可能性が高い。どちらかが包囲を突破したか。45
2013-12-12 00:13:56「他の連中はいざ知らず。手負いのお前は確実に仕留める。楽だからな」ソフトマインドとおぼしき声が投げかけられる。その声音は不気味だった。「ザッケンナコラー!」「スッゾコラー!」後方からはクローンヤクザ部隊の生き残りが追い付いてくる。ルイナーは怪訝に思う。鉄条網の働きが弱いか? 46
2013-12-12 00:18:41BRATATAT……TATATAT!BRATATAT!「グワーッ!」「グワーッ!」退路に立ちはだかるクローンヤクザ達が銃撃に破れ、一人また一人と死んで倒れてゆく。いかなクローンヤクザといえど、ニンジャ動体視力の持ち主と真っ向撃ち合えば勝ち目なしだ。ルイナーは大通りへ飛び出す。47
2013-12-12 00:23:58「……」ルイナーは左を見る。走行車両が道いっぱいに展開。バリケードじみて塞ぐ。そして右。散開ポイント方向へ戻る事になる。彼は眉根を寄せた。道を戻る不本意もある。だがもう一つの懸念は、アナイアレイターの鉄条網だ。彼のニンジャ視力は、錆び崩れてゆく枝葉を確かに視認する……。 48
2013-12-12 00:26:32「絶望だなァ……お前絶望だ」眼前ワン・インチ距離、視界が塞がる。輪郭をおぼろに沸騰させるニンジャの嘲り顔があった。ソフトマインド。「どうやっても無理、無駄」「イヤーッ!」ルイナーは横腹へ水平チョップを繰り出す。ソフトマインドはやや離れた地点に再出現する。「聞きたくないよなァ」49
2013-12-12 00:30:46ルイナーに腰から切断された残像がぼやけながら失せてゆく。数フィート先でアグラするソフトマインド。「事実は曲げられない。お前は死ぬ。どうしようもない。努力は無駄」「イヤーッ!」ルイナーは後ろへまわし蹴りを繰り出す。「イヤーッ!」ミスティルテインだ!ルイナーの蹴りをブリッジ回避!50
2013-12-12 00:33:58ミスティルテインはブリッジ姿勢からプロペラめいて両脚を回転させながら跳ね上げ、ルイナーを蹴りに行く!「イヤーッ!」「イヤーッ!」ルイナーはバックフリップでこれを回避!「しっかりやれよミスティルテイン=サン……しっかりと」「イヤーッ!」「イヤーッ!」ぶつかり合うカラテ! 51
2013-12-12 00:43:18「ようく見ているからな……」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」ミスティルテインとルイナーは木人拳じみたワン・インチ距離の打撃戦を開始した。「なかなかいい。消耗させろ……アスファルトで干からびる逃げ遅れのミミズのようにしてやれ」「イヤーッ!」「イヤーッ!」52
2013-12-12 00:46:07ルイナーの右腕には大きな不安があり、カラテ応酬も防戦主体とならざるを得ない。彼はミスティルテインと打ち合いながら退路を探る。不気味なソフトマインドはアグラ姿勢の輪郭をにじませ、ニヤニヤと笑ったままだ。なぜ攻めてこない?何か考えがあるとみえる。 53
2013-12-12 00:53:10「イヤーッ!」「イヤーッ!」「キンボシだぞ、ミスティルテイン=サン。ガンバロ……そのヨタモノを殺して最小努力・最大報酬だ……」「イヤーッ!」ヤリめいたサイドキックを、ルイナーはバックフリップ回避!着地点にソフトマインド!「イヤーッ!」空中踵落とし!「おやおや……私を虐めるな」54
2013-12-12 00:58:35ほくそ笑みと黒い影の拡散を残し、やや離れた位置に再びアグラ姿勢のソフトマインドが出現した。「無駄だ、無駄……俺に構うなど絶望を上塗りするばかり」「貴様の相手は俺だ!イヤーッ!」ミスティルテインがジャンプパンチで襲いかかる!「グワーッ!」ルイナーのメンポがひしゃげる!55
2013-12-12 01:01:42ルイナーはたたらを踏み、左腕のガードを掲げた。だがミスティルテインがハヤイ!「イヤーッ!」内から外へ右腕を動かしたミスティルテインは、ルイナーのガードを外側へ開いてしまった。そして左手による無慈悲なサミング攻撃をルイナーの顔面めがけ繰り出した!「イヤーッ!」「イヤーッ!」56
2013-12-12 01:09:03ナムサン!ルイナーの右肩が裂けた。繋ぎ止める鉄条網の隙間から血が零れた。だがルイナーはミスティルテインの肩に右手を置く事に成功していた。そう。成功だ。右手を置く。ミスティルテインは血走った目を見開き、己の身体の異常の兆しを悟る。そして片膝を突いた。突かされたのだ。 57
2013-12-12 01:10:52「ははは。痛々しいな。ミスティルテイン=サンをくれてやろう。だが、それ以上使い物になるか?その腕は?」ソフトマインドが嘲る。ルイナーは右手を下へ下へと押し込んだ。「……イヤーッ!」「グ……グワーッ!?」ミスティルテインがもがく。うずくまるように背を丸める。丸めさせられたのだ!58
2013-12-12 01:13:41ルイナーは更に右手を押し込む!鉄条網がバシバシと音を立てて解け、抉れた傷から血が流れ出す。だがルイナーは止めなかった。ミスティルテインはほとんどドゲザめいた姿勢になっていた。プレス重機で押し潰されるようにして、その屈強な身体は歪み、捻じ曲げられてゆく。「グワーッ!アバーッ!」59
2013-12-12 01:17:18「イヤーッ!」ルイナーは左手で右肩を押さえる!そして更に押し込む!「アバーッ!アバーッ!サヨナラ!」折りたたまれるような不気味な姿勢を取らされながら、ミスティルテインは圧縮死!爆発四散!「イヤーッ!」回し蹴りを繰り出しながら振り返ると、ソフトマインドはやや離れた位置でアグラ!60
2013-12-12 01:20:34ソフトマインドには少しも動揺や悲愴の様子はなく、追撃の意志もない。ぼやけた影はただ目を細め、笑っているのだ。「イヤーッ!」ルイナーがその顔面へケリ・キックを繰り出す。やはり黒い残像が砕けるように散り、やや離れた位置にソフトマインドが出現する。ルイナーは走り出した! 61
2013-12-12 01:22:29「俺に必要以上にかまっていても仕方がないぞ……死ぬ前に出来るだけあがくといい」ソフトマインドの声が追ってきた。「何をやろうが絶望だ。それを学ぶために、ガンバロ」右肩を押さえながらルイナーは加速する。大通りをこのまま行けば戻ることになるが、途中の脇道に別のマンホールがある!62
2013-12-12 01:26:15「さあどうする……真っすぐ行けば来た道だろう?お前の仲間が死んでいるだけだ。そこで待っているのはスターゲイザー=サンだ。なかなか厄介だったからな、あのニンジャは。スターゲイザー=サンでなければ務まらぬ……さあ。撤退したほうがいい。他の仲間の元を目指すといい……!」 63
2013-12-12 01:30:37走るルイナーのニンジャ視力は、前方遥か先で錆び崩れてゆく鉄条網の残骸光景を焼き付けている。やがて道路沿いに廃業ボーリング・センター建物が現れる。ここを右へ曲がり、そして坂を降りれば、地下水路への入り口がある。その先に合流地点がある。ルイナーは状況判断した。彼は微かに笑った。64
2013-12-12 01:33:18「さァそろそろ道に……フム?」「後回しだ」ルイナーは言った。更にスプリントの速度を上げる。ソフトマインドはやや驚く。「何?自殺行為。ヤバレカバレか」目的地点はスターゲイザー、足下のアナイアレイター!走りながらルイナーは笑い叫んだ。「イザって時に情けねえ野郎だ!お前はよォ!」65
2013-12-12 01:39:56