僕の居場所

TLで三十路時雨を見てバッと溢れてきた情熱をそのまま書き殴った物。
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シャル819 @char819

愛と人生について考えた挙句、夜中のテンションのままに書いていたSSが書き上がったのでひとまず寝る。貼るかどうかは一晩寝かせてから決めよう。

2013-12-14 06:01:04
シャル819 @char819

あの忌まわしい戦争から10年。彼女が鎮守府を離れてから15年。世界はもはや戦後であり、深海棲艦はすでにほぼ過去の遺物となっている。そんな時、彼女の元に一枚の手紙が舞い込んだ。差出人はかつての鎮守府。遺物整理の際に出てきたものらしく、回りまわって彼女の元へと届けられたのだ。1

2013-12-14 06:34:59
シャル819 @char819

彼女の名は時雨、かつて、白露型駆逐艦の二番艦の少女だった女性である。提督の信頼も厚く、深海棲艦との戦いでは彼女は主に夜戦で大きな戦績を残し、幾度となくMVPに選ばれたこともある。艤装の火力そのものは低いながらも、幸運艦と呼ばれた駆逐艦時代を髣髴とさせる活躍ぶりだった。2

2013-12-14 06:35:20
シャル819 @char819

だが15年前、艦娘達の戦いを通じて集めたデータにより深海棲艦に対抗可能な新兵器が開発されると、戦争は次第に元の人々、つまり職業軍人の手に返っていった。当然といえば当然だろう。年端も行かない少女を戦わせていたのは、彼女たちしか戦えないという事情があったからだ。3

2013-12-14 06:35:56
シャル819 @char819

そしてそれは、艦娘達の役目の終焉ということでもあった。少女達は装備を解除されて、平穏な日常へと戻っていく。もちろん軍事機密などのこともあるし、なにより深海棲艦との戦争そのものは継続していたので、社会復帰や保障については手厚く、そしてそれ以上に慎重に行われた。4

2013-12-14 06:36:19
シャル819 @char819

時雨もまた、社会復帰プログラムによって徐々に一般生活へと戻り、今では普通の女性と変わらない生活を送っている。だが本当に社会復帰ができたのかといえば、彼女自身疑問だった。それは彼女に限らず、多くの艦娘が抱える問題でもあった。実際、少なからぬ艦娘がその後も軍に残る道を選んでいた。5

2013-12-14 06:37:00
シャル819 @char819

戦いの緊張感に慣れすぎると平穏な日常があまりに退屈に感じてしまう事例は、艦娘にも起こりうることだった。元々、艦娘に選ばれるような少女は、多かれ少なかれ好戦的な面を持っている。特に艤装の影響を強く受けると、戦争状態こそが日常になってしまうこともしばしばあるという。6

2013-12-14 06:37:35
シャル819 @char819

幸いにも彼女はそうではなく、戦いを続けたいという意志は強くはなかったのだが、それでも、今の生活は彼女にとってはなにかが欠けた空虚なものに感じられた。戦いたいとは思わないが、鎮守府での生活に戻りたいと思うことは少なくない。あの頃が、彼女の人生で一番輝いていた。7

2013-12-14 06:38:05
シャル819 @char819

なにが足りないのか?最近になって彼女はよくそのことを考えている。仲の良かった白露型の元艦娘達ともときおり連絡を取っているのだが、白露や村雨はそこまででもないようで、今は日常に戻り、平穏な暮らしを満喫しているらしい。忘れたころに、いくつか幸せそうな報告が彼女の元にも届いた。8

2013-12-14 06:38:39
シャル819 @char819

だがその中で、夕立はただ一人その後も軍に残ったため、今はすっかり音信不通となっていた。元々夕立がそういう細かい連絡のやり取りが好きではない性格だったので、直接話をする機会がなくなると、途端に関係も遠くなってしまった。それに、軍内部からは連絡を取りにくいという事情もあった。9

2013-12-14 06:39:40
シャル819 @char819

それでも、最初のうちは何度か手紙が送られてきた。時雨が中にいたころと同じように、検閲の入った、あくまで無難な内容のものだ。だがその中でひとつ気になったのは、提督の転属の話である。時雨が退役してからしばらくして、提督もあの鎮守府からどこかへ移って行ったらしい。10

2013-12-14 06:40:14
シャル819 @char819

提督。かつて彼女達の指揮をとり、勝利へと導いた人物。彼女は今もはっきりと彼の顔を覚えている。無口だか好奇心旺盛で、よくいろいろな艦娘の艤装を触っては怒られていた印象が強い。そして戦闘では常に冷静に戦況を見極め、多くの戦いを勝利へと導いた、まさに天才だった。11

2013-12-14 06:40:37
シャル819 @char819

だが思い出してみると、不思議なほど彼は自分自身のことを語らなかったことに気がつく。顔や声ははっきりと思い出せるのに、彼が提督になる前のことや、彼の好き嫌いなどについてはほとんど話をした記憶がないのだ。彼はいつも、艦娘たちを見て穏やかに笑っていただけである。12

2013-12-14 06:41:14
シャル819 @char819

そんな彼が、時雨に対して一度だけ声を荒げたことがあった。彼女が自分のあり方に悩み、自分はここにいてもいいのかと漏らしたときだ。提督は彼女の肩を力強く掴み、まっすぐに目を見て感情を吐き出した。「お前の居場所はここなんだ!俺にはお前が必要なんだ!」と。13

2013-12-14 06:41:53
シャル819 @char819

その日を境に、彼女の中でなにかが変わった。それまでは昔を、かつての無念の記憶を埋めるために戦っていたのが、提督と今の仲間達のために戦うようになったのだ。扶桑と山城もそれを感じ取って、自分達のお守りと同じ髪飾りを時雨にもつけてくれた。それは、彼女の新たな誇りだった。14

2013-12-14 06:42:12
シャル819 @char819

でもそんな時は過ぎて、普通の女性になり随分経つ。あの髪飾りも、今は引き出しの奥に眠ったままだ。鎮守府時代を思い出すのが辛いと感じてしまい、いつしか見えないようにしまいこんのだ。扶桑も山城も艦娘を引退した後は、故郷に帰って穏やかに暮らしているらしい。もう不幸ではないという。15

2013-12-14 06:42:34
シャル819 @char819

そんな風にして過ごしていた時雨の元に届いた手紙は、かつての提督からのものだった。手紙の本来の日付は14年前、夕立からの連絡にあった提督が鎮守府を移った時期と一致する。どうやら軍内部で差し止められていたものが戦後明るみに出てきたようで、今になって彼女の元へと届けられたのだ。16

2013-12-14 06:43:14
シャル819 @char819

内容は無口な彼らしくシンプルなもので、軍を離れた彼女への気遣いの言葉と些細な日常報告が綴られていた。その中に深海棲艦の拠点を叩く精鋭部隊に選ばれ、より前線への転属となった旨が書かれており、どうやらこれが検閲に引っかかったらしい。だがなにより、最後の言葉が彼女の心へと刺さった。17

2013-12-14 06:45:09
シャル819 @char819

「この戦争が終わったら、君を迎えに行きたい。約束どおり、君の居場所であり続けたい」 18

2013-12-14 06:45:35
シャル819 @char819

「まったく、提督はずるいよ。これじゃあ僕の居場所はどこにもないはずじゃないか……」 もう14年前の手紙である。あれから、提督についての話はまったくといっていいほど聞いていない。今どこでなにをしているのか、そもそも、生きているのかどうかさえも不明である。19

2013-12-14 06:46:02
シャル819 @char819

それでも、時雨はようやく、見失っていた自分の居場所が見えた気がした。あの、提督と過ごした日々こそが、彼女にとっての日常だったのだ。提督が生きているかどうかもわからない。もし生きていたとしても、今でも彼女を求めているのかもわからない。それでも、彼女は立ち上がる。20

2013-12-14 06:46:29
シャル819 @char819

「時雨、行くよ!」自分を奮い立てるように、あの時のようにそうつぶやいてゆっくりと歩き出す。外はあの時のように雨、でも、マイペースでいいんだ。雨はいつか止む。提督も、その言葉にやさしく微笑んでいたのだから。21

2013-12-14 06:46:45
シャル819 @char819

なんとも面倒な自分の内面が吐き出せたので今は満足。一晩明けたら知らん。

2013-12-14 06:48:14
シャル819 @char819

最後に、わがまま、気ままなお願いですが、あと1ツイートに迫っておりました提督との再会。この1ツイートを読者の皆様の夢の中で書かせていただければ、これに優る喜びはございません。

2013-12-14 14:22:41