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脅迫者は「偽登山漫画」絡みのありとあらゆる商業活動に脅迫をかけてまわった。 身元の特定を避けるため、全国各地のポストを投函先として使用した。 移動には深夜バスを使ったが、経済的に豊かではない脅迫者にとっては厳しい出費だった。 脅迫77
2013-12-21 11:35:24「偽登山漫画」関連の企画展開は面白いように倒れていった。 脅迫者が開くなといえば「偽登山漫画」関連のイベントは見送りになったし、 脅迫者が売るなといえばレンタルビデオ店は「偽登山アニメ」のDVDを締め出した。 脅迫78
2013-12-21 11:36:15脅迫に屈した前例が一つできれば、面倒な騒動に巻き込まれたくない他の者たちもとりあえず 後に続くという構図が出来上がっていた。 脅迫79
2013-12-21 11:36:56警察の手が脅迫者の周辺へ伸びてくる気配は未だになかった。 手がかりが脅迫者の送った脅迫状にほぼ限られるのだから当然だった。 脅迫80
2013-12-21 11:38:06これでまだ材料になりそうなものがあるとすれば、ポスト周辺の商店に取り付けられた 監視カメラくらいだったが、彼一人のためだけに警察がその一軒一軒を回るとまでは 脅迫者は考えていなかった。 脅迫82
2013-12-21 11:42:28捜査対象となるビデオの数と収録時間とは膨大な量に上るはずだった。 脅迫者は自分自身に凶悪犯ではないという自負を持っていた。 脅迫83
2013-12-21 11:43:21無論やっていることの内容を考えれば十分凶悪犯の範疇に入るのかもしれないが 通常、凶悪犯罪者といわれて想定するところのそれ、 すなわち罪なき人間を傷つけ、あるいは殺す類の人物と彼は一線を画しているはずだった。 脅迫84
2013-12-21 11:43:54彼がやっているのはたかが「漫画」の妨害で、 それも悪しき「漫画」の粛清で、 そのようなものに警察が本気で向かってくるとは思えなかった。 脅迫85
2013-12-21 11:45:22被害者側の出版社がいかに訴えようが、 警察は表面上は真剣に対応することを誓いながらも、 腹のうちでは適当に放ったらかしにしておけばいいと冷笑しているに違いない。 脅迫86
2013-12-21 11:45:56そもそも何と言って被害届けを出すというのか。 たかが「漫画」で利益を得ようとしていたら、得体の知れない異常者につきまとわれ邪魔されているので 制裁を加えてくださいとでも泣きながら頼むのだろうか。 脅迫87
2013-12-21 11:47:16それを生業にし、自分をはじめ数多くのコアなファンを食い物にし、もてあそび、 もって私腹を肥やしてきた以上、その逆鱗に触れた際、尋常にあらざるしっぺ返しの 一つや一つ受けたところでまさに身から出た錆び、自業自得ではあるまいか。 脅迫89
2013-12-21 11:48:26脅迫者は好んだ漫画にのめり込み、人生を犠牲にまでする傍ら 「漫画」というものに対する世間の価値付けを客観視する視野も持ち合わせていた。 脅迫91
2013-12-21 12:04:59それが寧ろ「漫画」というものへの過度な偏見や過小評価にもつながっていたが、 それには「漫画」という所謂子供の読み物に狂うがあまり身を滅ぼした自分自身に対する 潜在意識的な皮肉が起因していた。 脅迫92
2013-12-21 12:06:13ともあれ、思ったほどの波乱もない中、思ったよりも効果を挙げていく己が犯罪に対し、 脅迫者は次第に危惧を失い、同時に求めるハードルも高めていった。 「偽登山漫画」の市場動向は、自分の恐怖政治の完全統制化に入ったものと彼は信じて 止まないようになった。 脅迫93
2013-12-21 12:06:59彼の脅迫で潰れた商業活動の数と、それによる損失額とが脅迫者にとってただ一つのプライドであり、生存する理由となっていた。 であれば「偽登山漫画」のアクションは目に入る限り根絶されなくてはならなかった。 脅迫94
2013-12-21 12:10:35彼の最終的な夢は「偽登山漫画」のこの世からの排除となった。 どんな些細な足跡も残させてはならなかった。 結果として脅迫を行うペースは徐々に増えていった。 脅迫95
2013-12-21 12:11:12それが警察により多くの材料を与える可能性を恐れる感覚は既に失われていた。 比例して、ネット掲示板に書き込まれる、「偽登山漫画」ファンたちの不平不満の声も膨れ上がっていった。 脅迫96
2013-12-21 12:12:14る者は好きな漫画が健常に市場展開されない現状を嘆き悲しみ、またある者は憚ることなく脅迫者へ対する怒りを露にした。 満たされない日常を生きる負け組みの世の中への逆恨みと彼を扱き下ろす者もいれば、 脅迫97
2013-12-21 12:14:06彼が愛した「本物」の登山漫画の具体名を挙げた上で、脅迫ファンはきっとあの漫画の信者で それが「偽」の登山漫画に追いやられ打ち切りに追い込まれたことで妬みの感情を持ったのだろうと ほぼ真実を言い当てるものさえいた。 脅迫99
2013-12-21 12:15:18そのような投稿をスクロールしつつ脅迫者は愉悦に頬を緩めた。 この者達は所詮ネットで虚しくほえるのが関の山、法を犯しても信念を貫く強い行動力を持ち合わせた自分とは立ち居地が違う。 何を言おうが結局自分の手のひらの上で転がされていることにかわりはない。 脅迫100
2013-12-21 12:15:57脅迫者にとって「偽登山漫画」のファンは「偽登山漫画」の製作関係者とともに「本物」の登山漫画を殺した重罪人であった。 少なくとも彼の目にはそう映っていた。 脅迫101
2013-12-21 12:17:37