魔法使いは君だった

2013/12/5~2013/12/21の妄想です。 魔法を使うのは、本当に自分が困ったときだけだった。そんな僕を変えた君が、魔法使いだった。 ※本人とは一切関係ありません。
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プロローグ

cyk @nmnmab47

シフト表に塚田、橋本、そしてわたしの苗字が並び、塚田のところに記された矢印が一番長かった。勤務時間が長い証拠。おつかれさまでーす、矢印の終わりが同じ場所だった橋本くんとわたしは先にバックルームへと入り、タイムカードを切った。今日めっちゃ忙しくなかった!?とたわいもない話をする。

2013-12-05 00:07:31
cyk @nmnmab47

バイト先の着替えスペースは一人分しかない。どうぞ、先に着替えていいよ、レディーファーストってやつ、と橋本くんがゆずってくれた。橋本くんは高校2年生で、バイト先のみんなが弟のように可愛がる存在だ。ありがたく先に着替えさせてもらう。

2013-12-05 10:54:43
cyk @nmnmab47

着替え終わって橋本くんと入れ替わる。コートを着ながら明日のシフト表を見ると明日も塚田がラストまで入っていて、よく働くなあ、学生の本分間違えてるよなあと考える。ふとバックルームのドアの向こうの厨房を見ると、塚田が皿洗いを終え、軽く食器の水気を切ってから洗いかごに入れるところだった。

2013-12-05 10:58:38
cyk @nmnmab47

もう一つ洗いかごがあって、そちらに入った食器はすでに乾いていた。今日は夕方から混んだせいで洗い物が多く、乾いた食器が入った洗いかごが見るからに重そうに見えた。しかし塚田はそれを軽々持ち上げ、棚へ食器を片づけるためと歩き出した。そのとき、塚田の足が何かの段差に躓く、前に倒れる、

2013-12-05 11:04:58
cyk @nmnmab47

あっ、とわたしは思わず声をあげる。店長の顔が浮かぶ。絶対怒られるやつ。わたしたちも残業しなきゃかも。と一瞬のうちでいろいろと考え、まるでスローモーションになったようだった。皿やコップが前へと投げ出され、床に落ちる瞬間、塚田が何かをつぶやいた。

2013-12-05 11:08:15
cyk @nmnmab47

そのとき、ほんの一秒、時がピタリと止まった。それから落ちて行った皿やコップたちが重力に逆らうように、鳥がはばたくように、マリリン・モンローのスカートのように、ぶわあ、と宙に浮かび上がったのだ。

2013-12-05 11:11:11
cyk @nmnmab47

塚田は躓いて倒れたが、ふう、と息をつくと立ち上がってもう一度また別の何かをつぶやいた。すると今度はあちらこちらに浮かんだ皿とコップがまるで軍隊のように整然と勝手に集まって重なり、塚田が指差した調理台の上に乗った。食器は1枚も割れなかった。

2013-12-05 11:16:34
cyk @nmnmab47

わたしは一体何を見たのか、わからなかった。塚田はくるっと振り返ってこっちを見た。あわてて目をそらす。もしかして、みてた…?塚田の顔が青ざめる。えっ、いや、あ、危なかったね、割れなくてよかった、としどろもどろに返す。あ、うん、そうだね!危なかった!と塚田は明るく返し、沈黙した。

2013-12-05 11:24:40
cyk @nmnmab47

そのとき、わたしの肩がぽん、と叩かれる。ギョッとして振り返ると橋本くん、ちょっとなに二人見つめあってんの、早く帰りたいから通してよ、とむうっと言った。どうやら橋本くんは何も見ていなかったようだ。おつかれー、とだけ言って橋本くんとわたしはバイト先を後にした。

2013-12-05 11:28:49
cyk @nmnmab47

家に帰ってお風呂に入って、テレビをぼーっと見ながら、さっきのは一体なんだったのだろう、とアイスを食べた。食べ終わったアイスの棒をくるくる回して、ちちんぷいぷい、なんちって、と遊んでいたら携帯から音がした。LINEの通知。誰かと確認したら、塚田だった。

2013-12-05 11:55:55
cyk @nmnmab47

明日、何講まである?ちょっと話したいんだけど、とメッセージ。明日昼で終わるよ、と返すと、俺も!4時からバイトだから、駅前のドトールでどうかな、とすぐ返事がきた。話したいことってなに?と送ろうかと思ったけど、きっと、さっきのことだ。

2013-12-05 12:01:44
cyk @nmnmab47

塚田とわたしはお互いに大学3年生だったが、通っている大学は違う。バイト先はわたしの大学の近くであり、塚田の家の近くだった。そしてその近くにはドトールの路面店があった。店内に入ると窓側の席に塚田がすでに座っていた。ミルクレープのケーキセットを買って、そちらへと向かう。

2013-12-06 00:08:28
cyk @nmnmab47

おはよ!と挨拶される。バイトでの癖だ。おはよ、今日もバイトなんだってね?と言うと、そうなの、稼ぎたくてね、といつもの朗らかな笑顔で言う。ふらりと寄った家具屋に気に入ったソファがあったのだという。それから試験のことやバイトのことを話したりして、本題にはなかなか入らなかった。

2013-12-06 00:16:27
cyk @nmnmab47

ある程度喋ったところで、塚田が思い出したように、あ、昨日のことだけど…と、俯き気味に言った。お願い!あのこと誰にも言わないで!これおごるから!いくらだった?!と食べかけのミルクレープを指差す。いやいいよ、ていうかわたしがそんなに口軽くみえますか、と言うと、ううん、と首を振った。

2013-12-06 00:29:03
cyk @nmnmab47

言わないというか、きっとぶわあ、とかシュシュ、とか幼稚な語彙ばかりでしか説明できないし、伝わらないと思った。そもそも説明以前にあれが何だったのかがわからない。…ねぇ、昨日のやつ何なの?と小声で尋ねる。すると塚田も小声になって答える、あれはね、魔法だよ、俺魔法使いだから、と。

2013-12-06 00:33:03
cyk @nmnmab47

それはまるで子どもに話しかけるような口ぶりで、信憑性が皆無だったが、昨日起こった出来事はまさに魔法という言葉がぴったりだった。魔法使いっていうか、魔女の血を引いてるの、お母さんが魔女でお父さんが人間。それを聴いて、魔女の宅急便だぁ…とつぶやくと、そうそう、一緒だよね、と笑った。

2013-12-06 00:47:49
cyk @nmnmab47

今回はじめて誰かにばれた?と聞くと、ううん、何回かばれたよ。小学生のとき友だちが車に轢かれそうになって、車を数十メートル動かしたときとかね、大声で呪文叫んじゃったから。 ふうん、と相槌を打ちながら、昨日つぶやいていたのは魔法発動のための呪文だったと知る。

2013-12-06 10:11:05
cyk @nmnmab47

その他にも何回かばれたけど、全部俺が記憶を消して、なんとかした、と複雑な表情をする。記憶を消すってどこまで?物だけじゃなく人にも魔法をかけられるの?…もしかして全て知ったわたしの記憶も消される…?言いはしなかったが、不安な顔をしていたのだろう。塚田は笑う。今回は、しないよ。

2013-12-06 10:21:34
cyk @nmnmab47

悩みとか聞いてほしいのかもね、このことでさ。身勝手かもしれないけど、知っててほしいよ、といつもとは違って遠慮気味に言った。わたしでよければ、とカフェオレをすすった。塚田は安心したように笑う。これから塚田とわたしだけの秘密が増えると思うと、すこしこそばゆい感じがした。

2013-12-06 12:56:35
cyk @nmnmab47

ばれない程度には魔法使うの?と尋ねる。一般会話に魔法という言葉が出てくるのがとてもアホらしいが、知りたかった。うん、たまに使うよ、ほんっとに遅刻しそうでやばいときに大学まで移動したり、肩凝ったときにぬいぐるみに肩たたきしてもらったりとか、あとはね、ラテアート。バイト先の。

2013-12-06 17:00:53
cyk @nmnmab47

ラテアート?何するの?と聴きながら自然と前のめりになる。お客さんで可愛いな、っていう女の人がカフェラテ頼んだときに星型の魔法陣を描いて、おいしくな〜れ〜!ってやるの。…ほんとにおいしくなるの? 質問がどんどん出てくる。

2013-12-06 17:05:41
cyk @nmnmab47

ラテ自体がおいしくなってるんじゃなくて飲んだ人の嗅覚とか味覚の感度をあげるから、おいしく感じるわけ。こういうの間接魔法っていってね、魔法をかけたい人ではないものに事前に魔法をかけておいて、効果を出すんだよ。…魔法について教えてくれる塚田はいつもより穏やかで頭よさげに見える。

2013-12-06 17:08:24
cyk @nmnmab47

普段の塚田はよくバイト遅刻だし、単位ギリギリらしいし、オーダー間違えるし、よくわかんないけど鍛えて重いもの運んだりしてるし、全て魔法の力借りたら解決するのに。というようなことを言ったら、魔法でラクして生きるのが嫌だし、利他的でありたい。それに魔法使ったら疲れちゃうし、と言った。

2013-12-06 21:12:19
cyk @nmnmab47

塚田は大人だね、多分魔法が使えることと葛藤もありつつ…なんていうか、自分の軸を持っててすごいよ、と言うと、嬉しい!バレてよかったかも!と喜んだ。そんなこんなしてたら3時45分を回っていて、やばい!また遅刻しちゃう!出ようか!といつもの塚田が戻ってきた。

2013-12-06 21:49:31
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