「メリークリスマス・ネオサイタマ」後半・再放送2回目Ver(実況なし)

ツイッター連載小説"ニンジャスレイヤー 第1部 「ネオサイタマ炎上/Neo-Saitama in Flames」"より @njslyrによる再放送「メリークリスマス・ネオサイタマ」2回目・後半のまとめ(実況なし) 前半(#1~#3) http://togetter.com/li/607074 後半(#4・#5) (今ここ) 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーは微動だにしない。まるで石像だ。動く物といえば、マフラーのように斜め上方に吹き流される赤黒のぼろ布と、左手に握られたフロストバイトの生首のみ。ニンジャの首は、この巨大なハカイシに、すなわち自らの妻子の墓標に供えるセンコだ。 彼の眼に、涙は無い。とうに枯れ果てた。

2013-12-25 23:04:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

サツバツとした怒りを通り越し、もはや殺人マグロのごとき無表情と化したフジキドの眼には、一年前のクリスマスの惨劇が蘇っていた。 忘れもしない、マルノウチ抗争の夜だ。 あれは、スゴイタカイ・ビルの中階層にあった、中所得者層のためのセルフテンプラ・レストラン「ダイコクチョ」でのこと……

2013-12-25 23:07:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「揚げた美味しさが」「テンプラ」「DIY」などと極太オスモウ・フォントで縦書きされたノボリが、広い店内でイナセに躍っている。クリスマス装飾の電子ボンボリが、年の瀬感を演出する。 流石はクリスマス・イブ、満席だ。フジキド家の3人は、1ヶ月前から予約していたから、どうにか席を取れた。

2013-12-25 23:13:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「今年も、ここに来れて良かったわ」と、油の入ったカーボン土鍋を前に静かに笑う妻フユコ。「ニンジャだぞー! ニンジャだぞー!」と、椅子の上で狂ったようにジャンプする幼いトチノキ。 「やれやれ、トチノキはニンジャが大好きだな」とフジキド・ケンジ。「一体何処で、ニンジャなんて覚えた?」

2013-12-25 23:16:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あなたが買ってきたヌンチャクじゃない」と、フユコは子を座らす。 「去年のクリスマスに買ったやつか」「ずっとお気に入りなのよ。それで先日、初めて、箱の絵に気付いたの」 「ニンジャー!」「静かになさいトチノキ、危ないわよ。…それに」その先は小声で言った「ニンジャなんて、いないのに」

2013-12-25 23:19:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「スリケン! スリケン!」トチノキは大人しくなったと思った矢先、ピッチングマシーンのように両手をぐるぐると回した。 「グワーッ! ヤラレター!」ケンジは息子の無邪気さに応じ、心臓と喉にスリケンが刺さった真似をして、大げさに苦しんで見せた。 「あなた、やめてくださいよ、恥ずかしい」

2013-12-25 23:22:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ザッケンナコラー!」不意に、遠くから剣呑な怒声が聞こえた。 「……あら、ヤクザかしら」とトチノキの肩を無意識に抱くフユコ。「店外だろう、大丈夫さ」とケンジ。 店内を見渡すと、同じような境遇の家族連れや若いカップルや同僚サラリマンが、何事もなくテンプラに興じている。何も問題ない。

2013-12-25 23:25:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

確かにネオサイタマは過酷な都市だ。生きるには辛い時代だ。だが、無茶な高望みをしなければ……メガコーポが煽る過剰消費の呪いを逃れ、バリキやズバリの罠にもはまらなければ……こうして幸せは手に入る。 願わくば、トチノキにも賢く育って欲しい。 沸き始めた油を見ながら、ケンジはそう考えた。

2013-12-25 23:28:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ドーモ! 活きの良いのが入ってますよ」と、フェイク・イタマエが声をかけて去ってゆく。「ネタはあっちにあります、セルフでどうぞ!」 「ドーモ」と2人は座ったままオジギする。 「ねえ、ショーガツは?」「今日休みを取るだけでも精一杯だったんだ」「顔色、あまり良くないわよ。気をつけて」

2013-12-25 23:31:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「バクハツ・ジツ! カブーン!」両親の会話をよそに、トチノキは史実を無視した劇画的で記号的なニンジャポーズを取って叫んでいた。 夫婦は笑い、知らぬうちに固くなっていた表情を緩める。 「いいかい、トチノキ、本物のニンジャってのはな…」 …何を言おうとしたのだろう、もう覚えていない。

2013-12-25 23:34:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……ALAS! まさに、その時だった。フジキド・ケンジの運命が、完全に変わってしまったのは。

2013-12-25 23:36:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

KA-DOOOOOOOM…! 後方でマッシヴ・ハナビの如き爆発音が上がった。全てがスローモーションに見えた。ケンジはトチノキの濁りなき瞳を覗き込んでいた。黒い小さな瞳が、ムービー・スクリーンのように拡大され、ケンジの背後から迫る猛烈な爆風と、ニンジャめいたシルエットを映し出した。

2013-12-25 23:38:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

動脈血のように赤黒いニンジャ装束を纏い、フジキド・ケンジはシャチホコ・ガーゴイルの上に独り佇む。あの日から、全てが変わってしまった。もう、決して元通りにならないものがあるのだ。 重金属酸性雨で羽を傷めた鴉たちが群れ集い、フジキドの体に停まり、黙々とフロストバイトの肉を啄んでいた。

2013-12-25 23:47:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「「「ニンジャ殺すべし。だが、俺の供えるセンコは、本当にフユコやトチノキの魂を慰めているのだろうか。彼らは、オーボンの夜にも還らなかった。俺は、正しいのだろうか。俺は本当に、正気なのだろうか」」」 ひときわ大きな三本脚の鴉が、生首から片眼を抉り出し、顔を上げてごくんと呑みこんだ。

2013-12-25 23:50:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「「「なんたるマッポーの世だ!」」」フジキドは心の中で苦悶する。「「「もしかすると、俺の魂は、俺の中に憑依したあの謎のニンジャソウルと溶け合って、ひとつになっているのではなかろうか。だとしたら……いや、待て、これは何だ!」」」 ニンジャスレイヤーが不意に動いた。鴉たちが飛び去る。

2013-12-25 23:53:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フジキドは生首を手早くシャチホコの口に詰め込んでから、ニンジャロープとニンジャ脚力を巧みに使って屋上から飛び降りた。果たしてそれは、いかなる偶然であったのか。遥か遠く離れた地上から、ごくごく微弱な……焚かれたオーガニック・センコの香りが……奇跡的にも彼の嗅覚細胞に結びついたのだ。

2013-12-25 23:56:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

スゴイタカイ・ビルの中階層付近まで降りた彼は、垂れ幕を吊るす突起に手を引っ掛け、そこから鋭いニンジャ視力でビル前広場を見た。そこには、マルノウチ抗争慰霊碑の前で静かに手を合わせる、ノボセ息子夫妻とムギコの姿があった。 「おお……ナムアミダブツ!」フジキドのメンポを血の涙が伝った。

2013-12-25 23:59:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

祈り終えたムギコの父は、ノボセ老から託されたオリガミ・メールを読み返した。『ムギコや、わしにはひとつ、心残りがある。お父さんたちと遊びに行くついでに、わしの代わりにスゴイタカイ・ビルに御参りに行っておくれ。お前にはまだ何のことやら分からないだろうが、それで皆、少しは救われるのだ』

2013-12-26 00:02:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「さあ、もう帰ろう。風邪を引くと悪い」ムギコの父が後ろを振り向くと、彼らの護衛についていたデッカーたちは、まだ手を合わせオジギの姿勢を取っていた。無理もない、マルノウチ抗争で多くのマッポも死んだのだ、と彼は神妙な顔を作った。 「あっ、これ、カワイイ!」不意に、ムギコが声を上げる。

2013-12-26 00:05:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ムギコの履いていた汚染除けハイカット・ブーツに、寒さと恐怖でガタガタと身を震わせるミニバイオ水牛が擦り寄ってきたのだ。ツチノコ・ストリートを抜けて来た時に、あちこちに小さな傷を負ったようだ。 「ねえ、うちで面倒見てもいい? そう! まだ貰ってないもの、クリスマス・プレゼント!」

2013-12-26 00:08:37