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その日も〔50円玉〕はネットゲームをしていた。 日がな一日ゲームをしていた。 いい年をした身であるにもかかわらず、働くことも働こうとすることも決してなかった。 山村1
2013-12-27 11:54:27『お前最近ゲームばっかりだな』 ネトゲ仲間の一人が通信回線で肉声メッセージを送ってきた。 「え、あ、はい」 『少しは社会復帰しようとか考えねえのかよ』 山村2
2013-12-27 11:54:50『それお前の被害妄想だろ』 「被害妄想ではないです。表に出ただけで笑われます」 『誰もお前のことなんて見ちゃいないしそもそも関心自体ねえんだよ』 山村4
2013-12-27 11:55:40「いやそれは違います。みんな僕に敵意を持っているし、ことあるごとに攻撃してこようとしてくる。 あの人たちは僕が死んでもいいと考えてるし、あわよくば殺したいとすら考えているんです」 『そんなわけねえだろ』 「そうなんです。ここの住民は陰湿だから」 山村5
2013-12-27 11:56:11〔50円玉〕はパソコンにつながれたマイクに向い蚊の鳴くような声で細々と喋った。 『外を見せてよ』 「外、外は何もないですよ」 『いいから見せろよ。カメラあるんだろ』 「ありますけど、表に出たくないです」 山村6
2013-12-27 11:56:38『なんで』 「つかれるだけだし、人に見つかったらまずい」 『いいだろ見つかったって、俺も一緒にいるんだから』 「基地害だって思われますよ。外でカメラとパソコンもってぼそぼそしゃべってたら」 山村7
2013-12-27 11:56:57『思われるも何もそれが普段のお前なんだろ。今の自分を恥じるんじゃないよ』 「恥ずかしいですよ」 『じゃあ今の生活を改めろよ。恥ずかしいんだろその生活』 「いや改めるとかそういうことはしないです」 山村8
2013-12-27 11:57:17『なんで?だって自分で恥ずかしいって思ってんだろ?』 「思ってますけど、それと自分の生活を変えるということは別だし」 『お前そんなんだから駄目なんだよ』 「余計なお世話ですよ」 山村9
2013-12-27 11:57:35〔50円玉〕は前かがみになり、マイクに向かって咳をするように息を吐いた 『お前、昔は結構表に出てただろ』 「出てましたけど」 『あのころのお前は今よりもまだ輝いていたと思うぞ』 「そうですか」 山村10
2013-12-27 11:58:02『それが今のお前はなんだ。部屋にこもって朝から晩までゲームで遊んでばっかりで』 「遊ぶのは昔も遊んでましたよ」 『でも表に出れてただけまだましだろ。ゲームはだめだ。お前みたいなやつが ひがな一日ゲームに染まるようじゃそれこそ人間としておしまいだ」 山村11
2013-12-27 11:58:26「あなたよくそういうこといいますね。そもそもあなたと僕とはゲームあっての付き合いじゃないですか。 ゲームがなければ出会ってすらいない」 『俺はお前と違い生活のすべてをゲームに支配されちゃいないぞ。ゲームはあくまでただの息抜きだ。 俺はなお前のことを心配してやってるんだよ』山村12
2013-12-27 11:59:26「それこそ余計なお世話じゃないですか」 『お前去年は近所の庭仕事の手伝いとかもしてただろ』 「してましたけど」 『またやれよ』 「いやですよ」 山村13
2013-12-27 11:59:49『やれって』 「いやですよ」 『お前そういうところから一歩ずつ社会復帰していかないとだめだぞ』 「いやだっていってるだろうが!!」 〔50円玉〕それまでとは一変した口調で激昂した。 山村14
2013-12-27 12:00:14椅子から立ち上がり、パソコンの前でブルブル震え、荒い息をついた これには通話相手も虚をつかれたのか、言葉を失い黙りこくった。 「僕それでどんないやな思いさせられたかあなた知らないでしょうけど」 『・・・・・』 山村15
2013-12-27 12:00:42「他人事だと思って無責任なこといわないでください」 『・・・・・』 「あなたのその軽はずみな発言の一つ一つで僕がどれだけ迷惑受けてるのか考えたことあるんですか」 『・・・・・』 山村16
2013-12-27 12:01:15翌日〔50円玉〕は表に出た。 あたり一面雪で埋もれていた。 〔50円玉〕は長らく整備を怠ってきたためあちこち駆動がおかしい乗用車を無理矢理叩き起こし、半年振りとなるドライブへ出かけた。 山村18
2013-12-27 12:02:20行き先は5キロも離れたところにあるコンビニ兼酒屋であった。 車から降りて店内に入ると、その眩しい照明にもう耐えられない心持がした。 このような店でさえ、自分には場違なスポットのように感じられた。 山村19
2013-12-27 12:02:53アルコールを買おうと、冷蔵ボックスの前に移動すると、表面のガラスが自分の顔を反射していた その白髪が目立ち、しわがより、見苦しい無精ひげに囲まれた頭部の持ち主は、 紛れもない〔50円玉〕その人であった。 山村20
2013-12-27 12:03:30まるで生きながら腐ったかのようなその容姿にゲーム男は愕然とした。 家の鏡と違って、ここのガラスは残酷なまでに客観的だった。 これはだめだ。 これはとても外に出していい顔ではない。 山村21
2013-12-27 12:04:06〔50円玉〕は俯き、なるべくほかの客や店員に顔を熟視されぬよう気をつけながら、 酒とつまみ、漫画雑誌を抱えてレジに向かった。 半年ぶりの贅沢であった。 山村22
2013-12-27 12:04:37「・・・・・」 店員は無言でバーコードをスキャンし始めた。 〔50円玉〕はおや、と思った。 通常はいらっしゃいませの一言でも言うのが筋なのではあるまいか。 山村23
2013-12-27 12:05:11〔50円玉〕は恐る恐る上目使いに店員を確認した。 金色に髪を染めた若い店員であった。 「950円です」 店員はぶっきらぼうにそう告げた。 山村24
2013-12-27 12:05:51礼儀がなっていないな。 〔50円玉〕は苦々しく思った。 この店員は、いやこの店は、社会のしきたりというものをもっと学ぶ必要がある。 山村25
2013-12-27 12:06:43