SS:めりーくりすまぎょ

クリスマスに書いたお話のまとめやよ〜。
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クライト@旅芸人お休み中オネエ @krait_viajante

【1】年の暮れも近いある深夜。強く冷え込んだお陰か珍しくも雪の積もったアズランの農村地帯を、一人のウェディが歩いていた。ボア付きの上着に身を包み、耳ヒレを丁寧に毛糸の帽子に仕舞い込み、もこもことした手袋を付けた完全防備の姿は、雪道を行くのに相応しい格好ではある。

2013-12-25 12:48:40
クライト@旅芸人お休み中オネエ @krait_viajante

【2】しかしながら、防寒具を着込んだ当の本人は大して寒さを感じていない様子だった。時折鼻歌交じりになる息にも全く白さはない。そして不思議な事に、先程からサクサクと音を立てて踏みしめているはずの雪には、一切の足跡が残っていなかった。

2013-12-25 13:08:56
クライト@旅芸人お休み中オネエ @krait_viajante

【3】人…ウェディの姿をしながら、根本から人とは違う存在。それがこの雪景色の中を行くものの正体である。人ならざるウェディは楽しげに雪を踏みしめながら、手に抱えたプレゼント箱を両腕で抱きしめる様に抱え直して、手袋ごしに掌へと息を吹きかけた。「はあ、寒い……んやろねえ、多分」

2013-12-25 13:46:34
クライト@旅芸人お休み中オネエ @krait_viajante

【4】のんびりとした、独特な言い回しの声が、冷え込んだ空気にゆったりと溶けていく。息を吹きかけたところで温もりが得られる訳でも、そもそも温もりを必要とする程冷たさを感じている訳でもない。その気になれば常用している黒いノースリーブ一枚でも、充分に雪景色の中を歩き回れる筈なのだから。

2013-12-25 13:53:50
クライト@旅芸人お休み中オネエ @krait_viajante

【5】『人ならばそうするだろう』。その思いこそ、人ならざるものが人間らしい動作を取る理由だった。ただ一人己の存在を認知しない人物にいつ自分の姿が見えてもいいように、時宜に合う格好をしていたい…いつからか抱えるようになった無意識の思考が、自然と『彼女』の仕草を形作っていた。

2013-12-25 14:06:47
クライト@旅芸人お休み中オネエ @krait_viajante

【6】まるでままごとに熱中する子供のように、実際には何の意味もない、しかし本人にとっては何より意味のある動作を嬉しそうに繰り返しながら、ウェディは目指す場所へと真っ直ぐに進んで行った。──行く手に見えてきたのは、素朴なクリスマスの飾り付けがなされた一件の家。

2013-12-25 14:11:50
クライト@旅芸人お休み中オネエ @krait_viajante

【7】はやる心を抑えウェディは殊更にゆっくりと扉へ近付いた。木造りの扉へ片手を伸ばし、音を立てないよう慎重に引き開ける。自身が入れるだけの隙間が開いたところで、彼女はようやく家の中へと体を滑り込ませた。冷たいであろう冬の風が一緒に入り込まないように、出来る限り急いで扉を閉める。

2013-12-25 14:29:06
クライト@旅芸人お休み中オネエ @krait_viajante

【8】やっとの事で扉が閉まりきり、外の雪化粧が見えなくなったところで、ウェディはそっと息を吐いた。仮に扉の音で、或いは多少なりとも下がった室内の空気でこの家の主が目覚めたとしても…このウェディにとっては不本意ながら…やろうとしている事に何ら差し差し障りはないのだが。

2013-12-25 14:38:26
クライト@旅芸人お休み中オネエ @krait_viajante

【9】「やっぱり、こういうんは雰囲気やんねえ。…目え覚ましたら賑やかになりそうなんも中にいてた事やし」微かな声で呟きを漏らし部屋の奥へと視線を送る。きっと外は寒いからと、家主が家の中へ入れたのだろう。暖かそうなベッドの側で眠る青い魔物に目をやって、ウェディは小さく肩を揺らした。

2013-12-25 14:50:54
クライト@旅芸人お休み中オネエ @krait_viajante

【10】「さて…そしたら早速♪」にま、と表情を緩ませ、ウェディはベッドの方へと歩み寄り始めた。魔物がうっかり夢の中から出てこないように、先程扉を開けた時よりも数段慎重な足取りで家の中を移動する。…それもまた、その気になれば宙にも浮ける魔性のものがやけに拘る雰囲気作り、なのだろう。

2013-12-25 15:04:57
クライト@旅芸人お休み中オネエ @krait_viajante

【11】薄暗い室内でそろそろと足を前に出し、静かに重心を動かして、また逆の足を前へとやり。正体を知る者が目にしたならさぞ滑稽な動きだろうが、本人は至って真剣で、至極楽しそうであった。ものの十秒とかからない距離にたっぷりと時間を費やし、ようやくベッドを覗ける位置へと辿り着く。

2013-12-25 15:23:14
クライト@旅芸人お休み中オネエ @krait_viajante

【12】未だ夢の中で遊んでいる魔物を優越感の籠った目でひとしきり眺めてから、ウェディは改めてベッドの中を覗き込んだ。やはり寒さのせいだろう、家の主は頭まで布団に潜り、健やかな寝息を立てていた。「…ほんま、揃ってよう寝てること」平和な光景に、ウェディの眼差しが和らいだ。

2013-12-25 15:38:19
クライト@旅芸人お休み中オネエ @krait_viajante

【13】胸の奥底、じんわりと広がる温かさと、ごく僅かな苦しさと。そのどちらをも楽しみながら、抱きかかえていたプレゼント箱を布団の脇へと下ろした。「いや…確か頭のとこに置く、んやったやんね」考え直して、位置をベッドの上の方へとずらす。枕元に収まった箱を見、彼女は満足そうに微笑んだ。

2013-12-25 15:49:44
クライト@旅芸人お休み中オネエ @krait_viajante

【14】己の姿を見る事の出来ないこの家の主。己の存在を感知してくれない、たった一人の少年。朝が来て、目が覚めたら、枕元のプレゼントだけは見つけてくれるだろう。喜んでくれるだろうか、それともただ驚くだろうか。誰からのプレゼントだと思うのだろうか……。

2013-12-25 15:57:43
クライト@旅芸人お休み中オネエ @krait_viajante

【15】夜が明けた後の事を思いながら、ウェディは布団の端へと手を伸ばし…すぐに思い直してそれを引っ込めた。代わりに少年の頭があるだろう場所へと手をやり、布団越しに一度だけそっと撫でてみる。「メリークリスマス、坊ちゃん」聞きかじった祝いの言葉を降らせ、再び微笑みを浮かべた。

2013-12-25 16:07:38
クライト@旅芸人お休み中オネエ @krait_viajante

【16】迷宮の奥の宝箱に潜み、それを開けたものを魅了し、精気を吸い取って永遠の若さを保ち続ける、人の形をした魔物。冒険者達からいつしか美魔魚と名付けられ、恐れられてきた魔性のウェディにしては、それは純粋に過ぎる笑顔だった。

2013-12-25 16:28:43
クライト@旅芸人お休み中オネエ @krait_viajante

【17】声の余韻が消えた後も何も変わらず規則的に上下する布団を、ウェディはただ側に佇み、飽く事なく眺めていた。とても、とても幸せそうに。【めりーくりすまぎょ・終】 #大晦日まで毎日1つ何か書く

2013-12-25 16:39:09
クライト@旅芸人お休み中オネエ @krait_viajante

@warukoman ンアーッ! やのうて、それはどんなんか楽しみやわあv

2013-12-26 18:55:42