茂木健一郎氏 @kenichiromogi 第1135回【暇になったら、やりたいこと】連続ツイート
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ひや(1)内田百閒の「阿房列車」を読んでいると、すごいな、と思うのは、とにかく何もやらないこと。列車が遅れて、接続の列車が出発しそうになっても、全くあわてず、悠々と歩く。それで、目の前で列車が行ってしまって、ホームの上で二時間待つことになっても、あわてない。そのまま座っている。
2014-01-06 07:16:44ひや(2)開高健の「夏の闇」でも、最後の方になって、突然動き始めるまで、何もしない。火酒を飲み、風呂の中で葉巻を吸って、あとはだらだらしている。ソファに、自分が寝転がっている跡ができてしまう。このように、何もしない、という人は、本当にすごいなあ、と、私は思う。
2014-01-06 07:18:29ひや(3)「私のフレッドおじさん」だったか、ドイツのなんとかとかいう作家の書いた短編でも、おじさんが戦争から帰ってきて、毎日ソファでごろごろ寝転がって何もしない。ところが、ある日、すくっと立ち上がって、自動車の整備工場か何か始めちゃって、お金持ちになるのだ。
2014-01-06 07:19:30ひや(4)「三年寝太郎」でもそうだけれども、凄い人って、何もしていない時にも凄い、というイメージがある。怠惰で、ごろごろしているようでいて、実は頭の中でものすごく嵐が吹いている。そんなイメージがあるから、私は、畏友の塩谷賢が哲学やりながら一切働かないことを、偉いと思っている。
2014-01-06 07:20:39ひや(5)今日、多摩美の授業を終わったあと、論文も書かず、定職にもつかないで難しいことばかり考えているとても偉い塩谷賢と新年会をやるのを楽しみにしている私であるが、自分と言えば、朝から晩まで何かやっている。とにかく手を動かしている。情けねえなあ、と思いながら、手を動かしている。
2014-01-06 07:22:13ひや(6)そんな中、暇になったらやりたいなあ、と最近あこがれのような思いを抱いているのが、本当にどうでもいいことなのだが、みかんの中の房の数を当てる、ということである。コタツに座って、みかんをゆっくりとむいて食べるのだが、その時に、中に何房入っているか、当ててから食べたい。
2014-01-06 07:23:23ひや(7)これは子どもの頃覚えた技で、緑のヘタみたいなところを外すと、その下に、筋のようなものが、中心から放射状に並んでいる。その筋の数をかぞえると、中に何房入っているかわかる。それを数えて、それから皮をむいて、ほら当たっているとか、一つ違っていたとか、そんなことをしたい。
2014-01-06 07:25:09ひや(8)大きな物語を単純に信じる人は、危うい。危ういだけでなく、多くの人に危害を与える。何よりも、知的に不誠実である。だから、そんな大きな物語にふわふわするくらいなら、ヘタをとって、筋を数えてみかんの房の数を当てている方がましだ。
2014-01-06 07:26:57ひや(9)大乗から小乗へと比率が移るのは、自分の身体から逃げられなくなるわけだから、それはそれでよいことだと思うが、結局、世の中には、「職人の時間」しかないのだと思う。大きな物語も、職人の時間に分解することでしか、着地しない。みかんの中の房の数をかぞえているのと、同じである。
2014-01-06 07:29:34