家出した引きこもりが夜行列車で少女と交わした会話2

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アドリア海 @keizi80

そう,そうやって自分はずっと生きてきたのだ。 結果すべての人間に疎まれ否定され忌み嫌われ、社会とのかかわりを完全に断絶されるのみならず街にとどまることも許されず 、まさに今こうして人里はなれた国の果てまで逃亡しようとしているのではないか。 引きこもり19

2014-01-26 11:06:45
アドリア海 @keizi80

そしてそれでいいのだ。 自分は社会にとって害であり、拒絶されるべき劣悪種なのだから、今更少女の一人や二人ぞんざいに扱ったところで問題はあるまい。 引きこもり20

2014-01-26 11:07:42
アドリア海 @keizi80

向こうはきっとこれまで自分が係わり合いを持った他者と同じように、まず意図的に応答を返さない自分に侮蔑されたと憤り、次にこいつはひょっとして頭がおかしいのではないかといぶかしみ 引きこもり21

2014-01-26 11:08:46
アドリア海 @keizi80

最後はああやはりこの人間はふれてはならない狂人であったのだと哀れみの視線を送り、何事もなかったかのごとくきびすを返していくに違いないのだ。 いつだってそうやって生きてきたのだ 引きこもり22

2014-01-26 11:10:35
アドリア海 @keizi80

そしてそれももうこの世間知らずの女で最後となるだろう 『なぜそんなところへ行くのですか?』 少女はみたび聞いてきた。 引きこもり23

2014-01-26 11:12:03
アドリア海 @keizi80

「・・・・」 『なぜそんなところへ行くのですか?』 「・・・・」 『なぜですか?』 引きこもり24

2014-01-26 11:12:49
アドリア海 @keizi80

相手の執拗さに引きこもりは内心たじろいだが、 すぐにそれはそれでしかたがないのだと納得した。 何せ相手は頭がおかしいのだ自分と同様に。 引きこもり25

2014-01-26 11:13:26
アドリア海 @keizi80

頭がおかしい者の悲しさは引きこもり自身が一番よくわかっていた。 少し頭のねじが逆巻きに刺さっているだけで、社会はもはや人を人として認識しては くれなくなるのだ。 引きこもり26

2014-01-26 11:14:32
アドリア海 @keizi80

『なぜそんなところへ行くのですか?』 引きこもりのなかで少女に対する不快感、そして哀憐の情は、次第に身勝手な仲間意識と変貌していった。 おかしい、たしかにこの女は頭がおかしいのだ。 引きこもり27

2014-01-26 11:15:59
アドリア海 @keizi80

この空気の読めなさ、しかるべき間合いの計れなさでは これまでの人生で悔しい思いをさせられることも少なくはなかったであろう。 引きこもりにはセーター少女の苦渋に満ちた人生が容易に想像できた。 いやむしろこの女の症状は、彼のそれよりも数段たちが悪いのだ 引きこもり28

2014-01-26 11:16:59
アドリア海 @keizi80

引きこもり自身はもはや己の存在を諦め、外殻を閉ざし、すべての接触を拒絶し 黙して語らず、その過剰な消極姿勢のあまり呆れられ、愛想を尽かされ、 自業自得の結果として社会から拒絶され返されているに過ぎないのであるが、 引きこもり29

2014-01-26 11:17:32
アドリア海 @keizi80

対してこの少女の場合自ら積極的に相手に働きかけ、もって対象の感情を害させているのである。 受け手側からすれば同じ忌むべき狂人あったところで、自分の場合はまだかかわり合いさえ持たなければ不愉快な思いをせずともすむところを 引きこもり30

2014-01-26 11:22:24
アドリア海 @keizi80

彼女にあってはその逃げ道を最初に封鎖してからかかって来る分生じさせる嫌悪の念もより巨大なものとなるはずであった。 つまり引きこもりはこの少女を自分より下に見た。 引きこもり31

2014-01-26 11:23:15
アドリア海 @keizi80

それはきわめて珍しい、社会の中で自分より不利な立場に立たされた弱者であると認識した。 その思考は引きこもりの中に余裕を生み、余裕は彼には不似合いな保護欲を呼んだ。 『なぜそんなところへ行くのですか?』 引きこもり32

2014-01-26 11:24:16
アドリア海 @keizi80

セーター少女は言葉を返そうとしない引きこもりを穴の開くほど見つめながら尚も聞いてきた 「あなたこそなぜそこへ行くのですか?」 引きこもりの口から初めて発せられた言葉は、彼女に対する逆質問であった。 引きこもりの顔には歪んだ微笑が浮かんでいた。 引きこもり33

2014-01-26 11:25:25