親愛なる叔母さまへ

診断メーカーの「進撃せよ!~まいにち調査兵団~」(http://shindanmaker.com/352448)のプレイログの一部抜き出し。 本編より12年ほど前のお話。 「#予告兼下書き」なんて飾りです!
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お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 「お姉さまの嘘つき!」女の金切り声が聞こえた。少年は目を覚まし、スミレ色の瞳をキョロキョロとさせた。肌掛けを掴む小さな手は、燃え尽きたロウソクのように白くはかなげだった。「一緒にお母さまと戦うんじゃなかったの!」その声は苛立っていた。 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2014-01-19 11:59:16
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 「クルトもクリューも渡さない!ゲルプ家なんて、滅びればいいんだわ!」少年は目を細めて、幼い顔に似合わぬ白けた表情をした。女の声が途切れ、トントントンと雨粒が屋根を叩くような音を立てて、誰かが二階に上ってきた。少年はベッドに潜り込んだ。 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2014-01-19 15:25:38
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl ドアがノックされ、コンコンコンと悪戯な鳥が窓をくちばしで突いたような音を立てた。少年は布団から顔を半分出して、しばらく耳を澄ましていた。すると、今度はコンココンと音がした。少年はその音が気に入ったので、頭を出して呼び掛けた。「どうぞ」 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2014-01-19 15:40:39
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl ドアが開くと、見知らぬ女が入ってきた。女の髪は暖炉の火のように赤かった。少年は、美しく残忍な『炎の女王』を思い出した。しかし、少年は冷静だった。女の瞳は少年の母親や妹と同じ色をしていたし、少年は『炎の女王』が架空の存在だと知っていた。 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2014-01-20 00:13:35
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 女は手近な椅子をベッドの横に運び、ゆったりと腰掛けた。「お兄さんのクルト君ね?」「あなたは誰?」「誰だと思う?」「人さらい」少年の返答を聞き、女は思わず吹き出した。「惜しい!私はあなたのお母さまのお姉さま…つまり、あなたの叔母さまよ」 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2014-01-20 00:15:16
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 「叔母さま…ね」少年が確かめるように発音すると、女は頷いた。「そう、叔母さまよ。年は幾つ?」「6歳。…叔母さまは、僕とクリューのどっちを連れていくの?」少年がうっすらと微笑み尋ねると、女は首を傾げた。「さて、どちらにしようかしら?」 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2014-01-20 00:41:58
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 「ねぇ、僕にしたら?」少年は部屋に迷い込んだ虫を観察する時のように、すっと目を細めた。「僕なら暴れないから簡単だし、母さんもよろ…こ…」細めた目をそのまま閉じて、少年は言葉を切った。女は異変に気づき、少年の細い首筋にそっと指を添えた。 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2014-01-20 10:30:58
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl そして、少年の首の後ろに手をかけ、頭を静かに持ち上げて枕を抜き取り、少年の痩せた体の下に敷いた。「大丈夫よ、大丈夫」女は囁きかけ、少年の冷たい手足をさすってあげた。少年は呟いた。「…叔母さまは生きている?」「ええ」「僕も生きている?」 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2014-01-20 12:05:34
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 女は少年の手を取り、自分の左胸に押し当てて言った。「ほら、あなたも私も生きているでしょう?」少年のスミレ色の瞳は興奮したように輝き、次の瞬間には諦めの色がにじんでいた。「叔母さま…がっかりした?」「何に?」「僕に。僕は壊れているから」 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2014-01-20 12:18:17
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 「それほどでもないわ」女は少年の手を自分の胸から離し、今度はお腹に触れさせた。「私の子供はね、ここで死んでしまったの。生まれる前に。だから、あなたが壊れていても、ちゃんと生きていて、こんな風に一緒にお喋りできるのが、私はとても嬉しい」 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2014-01-21 00:48:52
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 女は少年の手を少年の胸に置き、その上に肌掛けをかけた。「いいお医者さんを知っているから、今度あなたの胸を診てもらいましょう。治るかもしれない」「…ねぇ、叔母さま」少年は肌掛けを握りしめた。「クリューを連れていくなら、僕も連れていって」 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2014-01-21 01:54:56
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 少年は搾り出すように声を出し、女に懇願した。「お願い…お肉もお野菜もパンもたくさん食べる。いい子にするから…だから、僕も連れていって。クリューと一緒に連れていって」女は肩をすくめると、少年の亜麻色の髪を撫で、滑らかな額に唇をつけた。 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2014-01-21 02:07:46
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl パタパタパタと、少年が一番好きな音が聞こえてきた。音は階段を駆け登り、バタンとドアが開くと、少年とよく似た少女が部屋に入ってきた。「クルト!あのね…」少女は屈託のない笑みを浮かべていたが、女の姿を見つけると、顔をヒクッと引きつらせた。 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2014-01-21 02:30:06
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 少女の手から小さな木の実がバラバラとこぼれ落ち、目からは涙がポロポロと流れていた。少年はふうっと息を吐き、少女を安心させるように優しく言った。「この人は『炎の女王』じゃないよ。僕たちの叔母さまだ。だから、心臓を焼いて食べたりしないよ」 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2014-01-21 02:38:29
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 「…ほんとに?」少女は少年の顔を見て、次に恐る恐る女の顔を見た。少年はちらりと上目遣いで女の目を見て、遠慮がちに女の膝に触れた。もう一度見ると体を起こし、今度は躊躇わずに女の膝にしがみついて頬を押しつけた。「ほら、大丈夫でしょう?」 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2014-01-21 10:33:18
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 少女はパタパタと駆け寄り、女の手を掴んだ。「ほんとだ!熱くない。温かぁい」少女がキャッキャと女の腕にしがみつくと、女は嬉しそうに微笑んだ。「あらまあ、顔もしぐさも小さなユーディだわ!妹のクリューちゃんね?はじめまして、私は叔母さまよ」 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2014-01-21 10:55:38
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 「母さんのお姉さんなんだ」少年が教えると、少女は首を傾げた。「お姉さんなのに、叔母さまなの?」「そうよ、変かしら?」女は少女の腕から自分の腕を静かに引き抜き、身につけていたスカーフを解いて少女の首に巻き付けた。「えんじが似合うわね」 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2014-01-21 14:23:48
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 「わぁ、きれい!見て、クルト!きれい?」少女はピョンピョンと飛び跳ねた。少年は女の膝に抱き着いたまま、浅い呼吸で気だるげに頷いた。「…クリュー、きれいだね」女は少年の体を抱き起こし、楽な姿勢でベッドに横たわらせ、そっと肌掛けを被せた。 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2014-01-21 16:22:52
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 「さて、叔母さまはそろそろ帰ろうかしら」女は上着のポケットから茶色い革の手帳と山吹色の万年筆を取り出した。「クルト君、お医者さんに来てもらうから、ちゃんとお話しするのよ。いいわね?」「うん」少年はゆっくりと頷き、頭を少しだけ起こした。 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2014-01-21 16:45:10
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 女はサラサラと軽い音を立てて、手帳に文字を書き込んでいった。少年は初めて出会った音に魅了され、体を起こして女の手元を覗き込んだ。女は手帳から顔を上げた。「クルト君、文字は読める?」「読めるよ」「書けるかしら?」「まだ書いたことがない」 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2014-01-21 16:57:13
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 少女も寄ってきて、ベッドによじ登った。「クルトはね、むずかしいご本も読めるの」女は万年筆の蓋を閉めて、少女の髪を撫でた。「そのスカーフはあげるわ。あなたにとってもよく似合っている。また会えたら、お洒落した可愛い姿を叔母さまに見せて」 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2014-01-21 17:15:45
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 「ありがとう、叔母さまぁ!」少女が飛びつくと、女は抱き留めて頬ずりをした。「あ〜ん、食べちゃいたい」女は口元を緩めて呟き、少女を抱きしめたまま少年に話しかけた。「あなたには、これを」少年は手を伸ばし、差し出された万年筆を受け取った。 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2014-01-21 17:29:29
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 「…僕に?」少年は、窓から外を覗くとパンの雨が降っていた時のような表情で万年筆を眺めた。「そう、あなたのものよ」女は頷いた。「私はあなたともっとお喋りしたい。ねぇ、その万年筆を使って、私に手紙を書いてちょうだい。必ず返事を書くわ」 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2014-01-21 20:40:52
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 『親愛なる叔母さまへ お心遣いありがとうございます。僕もティーメも9歳になりました。僕は元気で、もう昔みたいにベッドで寝ていなくても平気です。時々外へ遊びに行くようになりました。叔母さまの髪のように赤い落ち葉を拾いました。同封します。 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2014-01-21 21:12:26
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 僕は叔母さまと、この手紙を届けてくれるマルタを信じて書きます。僕はある女の子を好きになりました。違うな、ずっと好きだったことに気がつきました。その子のことを考えると、とても幸せな気分になります。手を繋ぎたいし、一緒にいたいと思います。 #予告兼下書き #日刊調査兵団

2014-01-21 21:23:40