パズドラ乞食小説「勇者降臨！」

架神恭介/作家・ゲームデザイナー @cagamiincage

唖然とする我を置いて、マスターはすたすたと何処かに消えてしまった。えっ、リーダーは、この老いぼれドラゴン……？　マジで？？　魔王の我じゃなくって？　マジで！？

架神恭介/作家・ゲームデザイナー @cagamiincage

信じられぬとばかりに老ドラゴンの顔を凝視する。その老ドラゴンが口を開いた。「ベリアルくん、気持ちは分かる。だが、軍隊というのは優秀な下士官あってこそ……」　えっ、待って。我、いま慰められてるの！？　

架神恭介/作家・ゲームデザイナー @cagamiincage

「ケリ姫、今日も頑張ろうねー」「ウッホ、ウッホ」　後ろでは女どもがハイタッチしている。我はブルブルと首を振り深呼吸する。……落ち着け。落ち着けベリアル。所詮は猿並みの知能のマスターの考えることだ。気にせず己の仕事を全うするのだ。我は威儀をただすと女どもに向かって右手を差し伸べた。

架神恭介/作家・ゲームデザイナー @cagamiincage

まずはコミュニケーションだ。「我が名はベリアル。貴様ら下賤の者らと共に戦おう、我の足を引っ張らぬよう精々気張るが良い」紳士的に挨拶し、友好の握手を求める。だが千代女とやらはそんな我をドブ川のような濁った目で睨め付けると……「気安く話しかけてんじゃねーよ、倉庫番がッ！」　なあッ！？

架神恭介/作家・ゲームデザイナー @cagamiincage

「オ、オエェ……」直後、飛んで来た千代女の前蹴りが我のみぞおちに突き刺さり、我は胃液を吐き散らし、膝を折って苦悶する。「万年倉庫番の穀潰しがッ！　一丁前の口きいてんじゃねーよ！」こ、このアマァ……炎の呪いを食らわしてやろうか……！

架神恭介/作家・ゲームデザイナー @cagamiincage

ペッと唾を吐き捨て千代女が背を向ける。くぅ……、なんという！　あ、悪魔のような女め！　「ウッホ、ウホッ……」ケリ姫は心配そうに俺を見ていたが、やがて千代女の後を追っていった。代わりに寄ってきたのはポイズンエンチャンターだ。「師匠、千代女ちゃんのこと、悪く思わないで欲しいッス」

架神恭介/作家・ゲームデザイナー @cagamiincage

「千代女ちゃんも辛い立場なんッス。最近、敵がどんどん強くなってきて、もう千代女ちゃんリーダーじゃ厳しいってマスターがぼやいてて……。今回もリーダーに選ばれなかったし、彼女、焦ってるんッス。普段はもっと明るくて優しい子なんッスよ」　到底信じられぬ！　グワーッ、あの悪魔め！！

架神恭介/作家・ゲームデザイナー @cagamiincage

「そうだぞ、ベリアルくん」我の肩をポンと叩いたのは老ドラゴンの火ノエルだ。「ワシも今回は幸いリーダーに選ばれたが、こんな僥倖、一生に一度あるかどうかじゃ。リーダーの座を追われた彼女の気持ち、ワシにはよく分かる」「そうだね、俺にもよく分かるよ」横から口を挟んだのはシヴァだった。

架神恭介/作家・ゲームデザイナー @cagamiincage

「俺もさ、破壊神だの、神だの言われてるけどさ。ハハッ。実際ただの万年倉庫番さ。今回、アンタんとこのマスターから名指しで指名されて、そりゃあ嬉しかったよ。俺もまだ必要とされてるんだ、必要としてくれる人がいるんだ、ってさ」そう語るシヴァの瞳から一粒の涙が零れていた。

架神恭介/作家・ゲームデザイナー @cagamiincage

万年倉庫番……か……。我は彼らに同情した。シヴァも老ドラゴンも随分と日陰で生きてきたのだな。我のような大悪魔にはまるで縁のない話だが。……そうだな、今回ばかりは彼らに華を持たせてやるのも良いかもしれぬ。あの憐れな小娘のことも大目に見てやるか……。

架神恭介/作家・ゲームデザイナー @cagamiincage

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架神恭介/作家・ゲームデザイナー @cagamiincage

そうして、翌日、我ら一行は勇者の姿を求め旅立った。

架神恭介/作家・ゲームデザイナー @cagamiincage

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架神恭介/作家・ゲームデザイナー @cagamiincage

「ヘヘッ、兄貴また新しい客が来やがったぜ」「おう、たまに外界姿を見せると忙しいこったぜ」苦労して探し当てた洞窟の奥深くで、筋肉質な二人の巨漢が我ら一行を見てフフッと不敵に笑った。彼らの足元には貧弱な精霊たちやひだまりさんなどの屍が横たわっていた。先客のものだろうか。

架神恭介/作家・ゲームデザイナー @cagamiincage

「おう、なんでえ。もう随分お疲れのご様子じゃねえか」「鍛え方が足りねえな、肉食え、肉」　そう言って二人の勇者は互いに筋肉をひけらかしつつ、ムッハハハと笑い合った。確かにこの直前、三匹のヴァンパイアロードと我らとの戦いは激戦だった。だが、奴らが笑っているのはそのことではないだろう。

架神恭介/作家・ゲームデザイナー @cagamiincage

「ゼェー、ゼェー。……オ、オェェーッ！」　そう、奴らが笑っているのは我の姿だ！　こ、この、クソ重いチャリオッツを牽いてきたことで、我の足はいま生まれたての子鹿の如くにぶるぶる震えて止まらない！　な、なぜ、こんなことになってしまったのか！

架神恭介/作家・ゲームデザイナー @cagamiincage

以前、アテナなる神格と対話したことがある。我はあの者の戦車を見てせせら笑った。「ほう、神ともあろう者が馬に戦車を牽かせるのか！　我の戦車に馬などいらぬ」我はニヤリと笑って言った。「下賎の者共に牽かせるからな」　今朝、千代女に牽けと言ったら、あの女、無言でみぞおちに拳を入れおった！

架神恭介/作家・ゲームデザイナー @cagamiincage

ううっ、しかし、必死に牽いてきたはいいものの、これを一体どう使えばいいのか……。何の動力源も持たぬチャリオットに跨りいかにして戦えば良いのか……。意地を張らず馬を連れてくれば良かった。

架神恭介/作家・ゲームデザイナー @cagamiincage

「みんな、見ろ、あの腹筋を」マスターが十六に割れたハイランダーの腹筋を指差す。あれだ。あの鍛え抜かれた腹筋のせいで殆どの攻撃が奴に刺さらないのだ。「まずはあれを打ち崩すぞ。シヴァ先生、お願いします！」「心得た」シヴァがスゥと前へ進み出た。

架神恭介/作家・ゲームデザイナー @cagamiincage

「ファアアアアーー」深く長い呼吸音と共に、シヴァの額の中央にある傷のようなものがパカリと開き、中から第三の目が現れる。攻撃に備えハイランダーはその腹筋を固めるが、見よ！　十六に割れた奴の腹筋が、八つに、四つに、二つに、そしてぷよぷよのだらしない脂肪へと変じていくではないか！

架神恭介/作家・ゲームデザイナー @cagamiincage

これがシヴァの第三の目の力か！　奴の目は時空を操る。あの目に射竦められし筋肉は時を遡り、等しく筋トレ前の貧弱な肉へと変じてしまうのだ！　「バカナー！」　自慢の腹筋を奪われたハイランダーに怯えの色が見えた。「今だッ！」　マスターが叫んだ！！

架神恭介/作家・ゲームデザイナー @cagamiincage

「暁光変化の術！」悪魔女が何らかの術を使った！　我にはさっぱり分からぬが大気中に存在する元素の割合を操作する秘術だと言う。我ら魔の者には見えぬ筈の元素を操る力を忍者や魔剣士は備えているという。フンッ、下賤の者共の力など、我ら大悪魔の偉大なる能力に比べれば取るに足らぬわ！

架神恭介/作家・ゲームデザイナー @cagamiincage

「いいぞ！　ケリ姫、一発入れてやれ！！」「ウッホ！」マスターの声にゴリラ女が雄叫びで応える。すると、あの者の足下にいつの間にやら小人の兵士が！　この女、いかなる術を使うのか！　我が注視していると、女は丸太のような右足を高々と天にかざした。ま、まさか！　「ウホッホ！！」　やめろー！

架神恭介/作家・ゲームデザイナー @cagamiincage

「アッギャー！！」　鉄槌を振り下ろすが如く放たれたゴリラ女の右足が小人の兵士を貫くと、当然の如く兵の肉体は爆裂四散！　弾丸と化した肉片がハイランダーに突き刺さり、敵の身体を朱に染める。死という甘美な快楽を志願兵に叩き込む死術「スイーツシュート」！　ううッ、おぞましい！　悪魔めッ！

架神恭介/作家・ゲームデザイナー @cagamiincage

「これで止めだ！」　マスターの指先が玄妙な動きを見せ、空中に複雑な模様のようなものを描く。我らには見えぬが、あの魔術行為により待機中の元素を結束させエネルギーへ変換するのだという。「よし、盤面6コンボ！　落ちコンでさらに7コンだッ！」　謎めいた魔術用語！