【はち恋】公式アフターストーリー企画：第四週目『冴木のあ』まとめ

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「わうーっ！　センパイ、早く来ないと置いて行くですよーっ！」 勾配の急な坂道の上から、元気な声が響く。 体育館での一件からしばらく経った放課後、僕とのあは、神社……まだ犬だった頃ののあが、お百度参りをした場所へと向かっていた。 #はち恋AS

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「の、のあ……そんなに急がなくても、神社は逃げないよ……！」 境内へ向かう坂を、容赦なくダッシュするのあ。 追いかける僕は息も絶え絶えになり、必死の思いで神社の境内にたどり着いた。 「わうっ！　センパイ、はやくこっちに来るですよ！」 #はち恋AS

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――二人でここへ来たのは、のあの提案だった。 「あの神社に……お稲荷様に、お礼をしに行きたいです。 　のあのお願いとわがままを、たくさん聞いてもらったから……」 そう告げるのあの瞳は、強い意志と不安の狭間で揺れていた。 #はち恋AS

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なんとなく察しがつくのあの不安を取り去ってあげるためにも、提案に乗らない理由は無かった。 それに僕だって、お稲荷様にちゃんと伝えておかなくちゃいけない事がある。 #はち恋AS

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境内の周りに誰もいないのを確認してから、のあは肩に少し力を入れると、ぽんっ、と犬耳と尻尾を出す。 それから拝殿の奥をじっと見つめて、深々と頭を下げた。 「お稲荷様、のあは……のあは、あの時お百度参りに来た犬です」 #はち恋AS

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「のあを人間にしてくれて、本当に本当に、ありがとうございましたです！」 部活の時ぐらい真剣な表情で、のあはお稲荷様にお礼を言った。 こうしてけじめをつけていなかったことが、彼女の中でずっと引っかかっていたんだろう。 #はち恋AS

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次は僕の番だ。 大きく息を吸い込んで、隣ののあに負けないくらい、深く頭を下げる。 「のあを無理矢理引き止めてしまって、すみませんでした！」 ……僕もきっとのあと同じで、本当は少し怖かったんだ。 #はち恋AS

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掟を破ってしまった事で、また二人がお互い離ればなれになってしまうんじゃないか……。 そんな不安をずっと抱えていた僕たちは、お稲荷様とちゃんと話し合うために今日、ここへ来た。 #はち恋AS

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僕は更に続ける。 「だから、もう一回チャンスを下さい！ 　今度は僕がお百度参りをします。今度こそ、ずっとのあの側にいたいから！」 一息でそう言い切ると、隣ののあも負けじと声を張り上げた。 #はち恋AS

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「わうっ！　のあもです！　センパイと一緒に、またお百度参りするです！！ 　ずっと、ずーっとセンパイの側にいられるように、お願いするですーっ！」 もう話し合いになってるのかも分からないくらい、拝殿に向かって声の限りに思いをぶつける。 #はち恋AS

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それはまるで、僕がまばゆい光の中からのあを助け出したあの時みたいに。 本当の、心からの想いを、僕たちは必死で叫んでいた。 ……と、その時。 #はち恋AS

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「ちょっとストップ、ストーップ！ 　あなたたち、急に色々と話を進めすぎよ」 ふいに境内に響いた声に、驚いたのあは慌てて犬耳を隠す。 僕たちは声をひそめて、キョロキョロと周囲を警戒した。 #はち恋AS

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そんな二人の様子に、声の主はくすくすと笑う。 「そんなに驚かなくても大丈夫。私よ」 ドロン、という音がぴったりな雰囲気と共に目の前に現れたのは、バスケ部元キャプテンであり、お稲荷様の娘……天宮先輩だった。 #はち恋AS

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「び、びっくりした……てっきり神様が出てくるのかと……」 「わう～～～っ、ミオ先輩！　脅かさないでくださいですーーー！！」 予想外の出来事だったけど、安心していいのか何なのか……とにかく僕たちは二人揃って天宮先輩に詰め寄った。 #はち恋AS

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「ごめんなさい。できれば最後まで黙って聞いているつもりだったんだけど」 涙目で抱きつくのあの頭を撫でながら、天宮先輩が僕をじっと見る。 「白井君、そして冴木。さっきのお百度参りの件ね……あれはもう、必要ないわ」 #はち恋AS

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「「……へっ？」」 あっさりとそう切り出す天宮先輩に、僕たちは間抜けな声を出してしまった。 「うちの母なんだけど、二人にまじないを破られてから、どうも気合入っちゃったみたいでね」 少し照れたように、天宮先輩は頬をかく。 #はち恋AS

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「わう……？　どういうことです？」 「まだまだまじないの力不足だ、って、急に修行に出て行っちゃったのよ」 先輩の言葉を、何度も確認するように噛み締める。 「ってことは、今この神社は……」 「そう、母は不在。今は私が留守を預かってる状態よ」 #はち恋AS

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「わうぅーーー！？　なんですかそれー！！ 　のあたち、怒られると思って心配したですよ～！」 必死に頭を下げていたさっきまでの緊張感はどこへやら。 天宮先輩のカミングアウトに、僕たちはヘナヘナとその場に脱力してしまった。 #はち恋AS

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「……ん？　って事は、のあにかかっていたおまじないは、本当に消滅したって事ですか？」 「ええ。母本人が言うんだから間違いないでしょうね」 あっさりと告げられた天宮先輩の言葉に、のあのしっぽが喜びでぱたぱた動き出す。 #はち恋AS

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「じゃあ、もう本当に、のあはずーっと人間のままでいいです！？」 「まあ……厳密にはそうじゃないけど、またいきなり犬に戻る、なんて事はないわ」 確かに耳としっぽが残ってはいるし、完全に人間になったわけじゃない。 でも今は、そんな事よりも！ #はち恋AS

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「や……」 「やったぁあああああですーーーっ！！」 ずっと心に引っかかっていた不安が晴れて、のあも僕も思わず叫んでいた。 「よかった！！　本当にどうなる事かと思ったよ……！！」 喜びに震える腕で、僕たちは力いっぱい抱き合った。 #はち恋AS

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「おまじないを破った罰に、センパイも犬になったりするかと思ったです！」 「ええっ！？　怖いこと言うなよっ！」 浮かれて大騒ぎしてる僕たちを横目に、天宮先輩はやれやれといった風に首を振る。 #はち恋AS

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「まったく、まじないを覆すほどに強く想い合っているというのに……。 　それがこの、普通の高校生だっていうんだもの。母も奮起するわけだわ」 そう、僕達は偶然でもお情けでもなく、本当におまじないを覆してしまった！ #はち恋AS