- asagi01dog
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しんしんと舞い降りる音だけ重なっていく。世界の音はもうそれだけだ。…いや、もう一つあるらしい。積もった雪を踏み固める音は、この耳を潰す直前で止まった。
2014-02-05 23:20:56「もういらないだろうから、もらうね」言ってポケットからするりとライターをくすねる。新品同様のそれは振ればたくさんのオイルが揺れた。「ラッキーだね」そいつはきっと無表情に笑ったんだろう。
2014-02-05 23:23:52「暇だから聴いてよ」そいつはそのまま立ち去る事はせず、暇だからと動かないモノの側にしゃがんだ。ライターを擦る音。その火が宿る先はそいつの過去の映像。
2014-02-05 23:26:20「僕には好きな人がいたんだ。小さい頃からずっと一緒にいた子」もはや瞬きなど必要なかったが、不意に瞼を重ねた瞬間二人の姿が目の前に現れた。そいつには見えない幻。二人は柔らかく笑う。
2014-02-05 23:29:11「でもね、この想いが届く事はなかった。だって僕らは兄弟で、僕もその子も男だったから」いつしか分かたれた手。隠した想いに気付いたのか気付かないままか、二人の目線は外れていった。
2014-02-05 23:31:56「好きだった。ずっとずっと好きで、大きくなって離れてもこの想いが変わることはなかった」今ならそいつは哀しい表情でいるだろうか。二人の姿はいつの間にか消えていて、ついに瞳に雪が乗った。
2014-02-05 23:34:39「ねぇ、今日世界が終わるんだって。静かに雪に埋もれて、無音の世界になるんだって」もう雪の音も聞こえない。「たぶん僕が最後。ねぇ、もう聴こえない?」そいつが覗き込む、暗さだけは解った。
2014-02-05 23:37:28「…ライター、使いきれないのもったいないなぁ」言ってそいつは忙しなく動いた。暗いままの視界に、突然赤が現れた。「溶けろ!全部溶かせよ!」火が広がっている。そいつは自らの上着に火を着けたのだ。
2014-02-05 23:42:13世界が終わる。それは世界の意志だ。ちっぽけな人間が抗えるものではない。知っていながらその手を奮うのは未練が惑わせてるから。そいつだって、知ってるんだ。
2014-02-05 23:44:46「嫌だ、まだ終わりたくない…!やっと見つけたのに!やっと、やっと……!」知ってた。そいつの想いにも、自分の想いにも。だからきっと、未練が二人を最後に残した。
2014-02-05 23:47:10世界が終わった。真実を知るすべはないが、きっとまっさらになったんだろう。真っ白な世界で二人も真っ白に消えていく。未練は達成出来たか知れないが、もう其所にはいない。繋いだ手は幼い頃よりずっと強く、残るだろう。
2014-02-05 23:55:02