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「サイレント・デイ」

@sasasa3397によるニンジャスレイヤーの二次創作小説。雪の日だったので、雪の日のカタオキの話を書いてみました。
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さささ @sasasa3397

×16ツイートほどの短いおはなしを流します。 ×忍殺二次創作ですが、本編とは文体アトモスフィアともにかなり異なります。 ×二部ラスト~三部のネタバレがありますよ。 ×もし感想をいただけるなら、 #sss_nj タグなどをご利用ください

2014-02-09 00:46:42
さささ @sasasa3397

「サイレント・デイ」

2014-02-09 00:47:19
さささ @sasasa3397

施術所の中は、しん、と静まり返り、暖房の風の吹き出す音だけが淡く響いている。外の音は、分厚い雪が吸い込んだ。カタオキは受付の椅子に腰かけ、ぼんやりと雑誌のページをめくりながら、ただ時間が過ぎるのを待っていた。あくびをひとつ。客はまだ来ない。あくびをもうひとつ。 1

2014-02-09 00:49:05
さささ @sasasa3397

記録的な大雪がガイオン地表を覆い、交通網は遅延。地区によってはインフラがやられたところもあるらしい。こんな時、自営業はのんきなものだと、彼は思う。そして案の定、予約はほとんどがキャンセル。唯一連絡がなかったこの時間帯も、大幅に遅刻ときている。これはもう今日は望み薄だろう。 2

2014-02-09 00:50:19
さささ @sasasa3397

とはいえ、予約がある以上は勝手に店じまいするわけにもいかず、カタオキはこうして漫然と時間を過ごしている。マンダリンでも食べたいものだが、手に匂いがつく。あと三十分は我慢だ。またあくび。窓の外は白。ネオサイタマの雪は灰色と聞くが、一体積もるとどんななんだろうな、などと考える。 3

2014-02-09 00:52:04
さささ @sasasa3397

キイ、と椅子が音を立てた。「静かだな」口に出してみる。その声がまた静寂を際立たせた。頭を掻く。机をトントン、と指で叩く。「寂しいなァ」しまった、と思った。言葉にした途端に、そんな気分になってくる。「クソッ」IRCをチェック。未だ連絡なし。客と話せば、この気分も紛れるだろうに。 4

2014-02-09 00:53:28
さささ @sasasa3397

雪は降り積もる。もしこの鍼灸院を残して、ガイオンの全てが埋もれてしまったら。想像は膨らむ。IRCの網もとっくに途絶えているのかもしれない。備蓄の食料は幾らかはあるが、それが尽きたらどうなるのか。一人で、この中で孤独に短い一生を終えるとしたら……その時。呼び鈴が鳴った。 5

2014-02-09 00:54:34
さささ @sasasa3397

「アッ、ハ、ハイ!」ハッと我に返り、バタバタとシャッターショウジ戸に駆け寄る。勢いよく開け放つ。常連の老人が寒さに唇を蒼くして立っていた。「スミマセン。いけると思ったらこんなに時間がかかってしまって」「オスミ=サン! いや、ダイジョブ。まだやってますよ」「よかった」 6

2014-02-09 00:55:50
さささ @sasasa3397

「いや、意外に歩けなくてねえ」「そりゃそうですよ」上着の雪を払ってやる。底無しの、静かな深海にふと灯りが点ったような気持ちだった。「無理するこたなかったのに。ちょっとあったまってから始めましょう」「いや、無理しても来たくてね」冷えた手をこすりながら、老人は微笑む。 7

2014-02-09 00:58:07
さささ @sasasa3397

「こう静かだと、気持ちが滅入るだろう。そういう時にね、ここに来ると、こうやってお喋りができてねえ」爺さん、それで途中で倒れられでもしたらこっちは……などと、思わなかったと言えば嘘になる。だが、まずカタオキは軽く鼻をすすった。「どうしたね」老人が不思議そうに尋ねてくる。 8

2014-02-09 00:59:14
さささ @sasasa3397

「いや、その……こっちも同じでさ。こういう時に、誰かが来てくれるッてのは、うん。いいもんですよね」彼は、施術室のフスマを開けた。今日はまだ、誰も使っていないベッドがそこにある。「じゃあ、どうぞ。始めます」 9

2014-02-09 01:00:59
さささ @sasasa3397

「アー」ワザ・スシの窓から見えるのは、灰色の雪が降る空。エーリアスは外を覗きながら呟いた。「誰も来やしねえ」スシがいかにソウルフードと言えど、こう寒い日には客足も鈍る。「みんなソバ屋台に行っちまってるのかな」「まあ、気長に待つしかない。こういう日はな」 11

2014-02-09 01:03:24
さささ @sasasa3397

カウンターの奥から、アキモトの声。彼女はため息をつき、風に舞う雪を見つめていた。ネオサイタマでは、雪は滅多に積もらない。仮に積もっても、小汚い灰色の塊が道端に残るだけだ。彼女は水滴に曇ったガラスを指で拭う。「ン?」一瞬。ちらりと見えた人影の、その色合いに見覚えがあった。 12

2014-02-09 01:04:44
さささ @sasasa3397

彼女は振り返る。ガラスショウジ戸が開く音。「「イラッシャイマシ」」二人のアイサツが、ユニゾンめいてかぶる。そして、ノーレンをくぐって現れたのは、エーリアスが予感した人物だった。「ドーモ」トレンチコート姿のニンジャスレイヤーは、奥ゆかしくアイサツをする。「やっていますか」 13

2014-02-09 01:06:01
さささ @sasasa3397

「ちょうどヒマしてたとこだ。まさかあンたが来るとはな!」チャとオシボリを用意しながら、エーリアスは自分の声が弾むのを感じた。アキモトの方を見れば、こちらもエビスめいた笑顔を浮かべている。そうだよな、彼女は頷く。誰かが来てくれるッていうのは……。 14

2014-02-09 01:07:21
さささ @sasasa3397

キョートは何千マイルも西に離れ、あの大雪は遠い過去。常連の老人はいつしか店を訪れなくなり、そして自分は今こうして、別の姿で別の仕事をしている。だが、エーリアスは思う。離れていても、あるのだ。繋がるもの、同じもの、ふとした時に覗く何か。形にならぬもの。 15

2014-02-09 01:08:44
さささ @sasasa3397

アキモトの笑顔、ニンジャスレイヤーのコートの肩の濡れた染み、そういうところに漂う、何かが。「ハイ、オマチ」差し出したチャをニンジャスレイヤーは一口すすり、軽く鼻をすすると、ふう、と息を吐き出した。ああ、ここにもひとつ、見つけた。エーリアスは微かに笑った。 16

2014-02-09 01:10:11
さささ @sasasa3397

「サイレント・デイ」終わり

2014-02-09 01:10:49