三省堂国語辞典は新明解国語より売れている?

辞書の売れ行きについての考察が面白いのでまとめました。 ※タイトルを変更しました。
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西練馬 @nishinerima

三省堂の国語辞典を扱った本が立て続けに刊行されている今日このごろ。年末に『辞書に載る言葉はどこから探してくるのか?』が出て、最近『三省堂国語辞典のひみつ』と『辞書になった男』が店頭に並んだばかり。しかし、私が(多分私だけが)気になっている話は、どれにも載っていなかった

2014-02-09 22:07:26
西練馬 @nishinerima

何の話か。結論から言うと、「日本でいちばん売れている国語辞典は新明解国語ではない」ということだ。じゃあ最も売れている国語辞典は? 答えはズバリ、三省堂国語辞典である!

2014-02-09 22:10:01
西練馬 @nishinerima

……と、いささか扇情的な書き方をしてはみたが、別に本気の本気で三国が売上一位であると主張したいわけではない。新明国が誇大広告であると断罪したいわけでもない。ただ、そういう数え方も可能であるよ、という話をしたい

2014-02-09 22:11:46
西練馬 @nishinerima

http://t.co/Xfqptvs8b9 三省堂の販促によれば、“日本でいちばん売れている小型国語辞典”新明国シリーズの売上は、累計2000万部超。同クラスの岩波国語が1000万に届いていないというから、ダブルスコアで一人勝ちだ。 http://t.co/dL2Oxggu2u

2014-02-09 22:16:02
西練馬 @nishinerima

http://t.co/Fc7us08W8j 一方の三省堂国語。昨年4月のドキュメンタリーでは「1000万部」と言っていたし、明解国語復刻版の武藤康史先生の解説でもそう書いてあるから、これが三省堂公認の数字なのだろう。なるほど新明国の独走は揺るぎがないように見える。しかし……

2014-02-09 22:19:20
西練馬 @nishinerima

同じ武藤先生の文章、すぐ隣に妙なことが書いてある。“『新明解国語辞典』は千二百万部(いずれも初版からの累計)”……文章が掲載されたのは97年。となれば、新明国は15年でさらに800万部売ったのか? その間三国は1000万部でずっと足踏みしていたのか? どうもおかしい

2014-02-09 22:22:42
西練馬 @nishinerima

実のところ、わけは単純だ。先の新明国の資料(http://t.co/Xfqptvs8b9)をよく見ればわかる。2000万部とは、“「明解国語辞典」からの累計売上”である。明解国語とその改訂版、新明国の全てを足した数字が2000万。一方武藤先生は新明国以降のみをカウントしている

2014-02-09 22:26:14
西練馬 @nishinerima

新明解国語は、その書名に「明解」が含まれていることからも明らかな通り、明解国語辞典の流れを汲む辞書である。したがって新明解国語の売上に、明解国語のそれを含めるのは、当然である。2000万部になる理屈はこんなところだろう。……だが、果たして本当にそうか?

2014-02-09 22:28:58
西練馬 @nishinerima

そも、何故新明国が『新明解国語辞典』として出版されたのか。何故『明解国語辞典第三版』ではなかったのか。これこそまさに13年前武藤先生が『明解物語』で光を当て、その後昨年のドキュメンタリーから書籍化された『辞書になった男』のテーマとなった物語であるが、早い話、トラブったんである

2014-02-09 22:33:16
西練馬 @nishinerima

明解国語を中心的に作ったケンボー先生は、やがて三国を作ったが、明解の監修には手が回らなくなった。そうこうしているうちに山田先生が明解の改訂作業を、それまでの作業チームとは別に、独自に行った。結果、山田色の強い新たな辞書ができた。だから『新明解国語』とわざわざ名前を変えて出版された

2014-02-09 22:36:33
西練馬 @nishinerima

つまり、明解国語と新明解国語は、断絶とは言わぬまでも、その間の流れは決してスムースではない。新明国はその後さらに山田先生カラーを濃くし、簡明と旨としたケンボー先生の明解(・三国)とは対照的な、豊かな説明を特色とする辞書に仕上がっていく。さあ、これを一緒にするのは、どうなんだ?

2014-02-09 22:39:56
西練馬 @nishinerima

「元々は明解国語だったから」くらいの理由で、明解と新明国を繋げてよいのであれば、明解と三国を繋げることが認められたってよいのではないか。確かに明解は一般用で、三国は元々中学生向け学習辞書という位置づけだった。だが、編纂者、編集方針、主張は明解から三国で一貫しているではないか

2014-02-09 22:45:01
西練馬 @nishinerima

佐々木健一『辞書になった男』によれば、明解国語辞典は初版・改訂版で“累計六〇〇万部におよぶ驚異的な売上げを記録した”という。これを差し引いた新明国の「実質売上」は1400万部だ。そして、明解と三国を連なるものと捉えると、三国の「累計売上」は……1600万部。新明国を、抜いた

2014-02-09 22:51:19
西練馬 @nishinerima

以上、牽強付会の謗りは免れまいが、考えようによっちゃあ新明国を措いて三省堂国語辞典がナンバーワンだよ、それなりの理屈はあるよ、といったお話。もちろん、「一番売れてる国語辞典」というコピーはわかりやすいし、実際に近年よく売れてるのは新明国だろう。だからあの販促はあれでよい

2014-02-09 22:55:21
西練馬 @nishinerima

ただ辞書クラスタの端くれとしては、三省堂の数字をそのまま、新明国2000万!と曰うことは、したくない。三国を明解と合わせるのは乱暴と言われるかも知れないが、では見坊・山田の確執を語りながら明解と新明国をまとめるのは乱暴ではないのか。辞書クラスタはいま少し批判的であってもよくないか

2014-02-09 23:01:39
西練馬 @nishinerima

『辞書になった男』という書名は素晴らしい。新明解国語と三省堂国語のキャラクターの違いは、山田先生とケンボー先生のキャラクターの違いだった。また飯間浩明先生や増井元さんの近刊を紐解いても、編纂者のキャラクターが辞書のそれに直結していることは手に取るようにわかる。人が辞書になる

2014-02-09 23:07:09
西練馬 @nishinerima

だが各著でそれが説かれていても、新明解国語のことが語られるとき、違う人々が作ったはずの明解と新明国の差は、三国と新明国の差ほどには意識が向けられていないように思う。新明国の売上にカギカッコが付くことはなく、2000万という数字だけがいつも無造作に放り出されている

2014-02-09 23:13:00
西練馬 @nishinerima

最近(※年単位)そんなことを思い、これだけ大量に本が出たらもうそろそろ打ち止めかな、誰も言及しないなら私が言うかな、と思ったので、書きました

2014-02-09 23:15:44
西練馬 @nishinerima

ところで、岩波国語の発行部数が三省堂国語を下回っていた、とは私には意外だった。それじゃあってんで泣く子も黙る広辞苑の売上をぐぐってみれば、08年の記事で1100万部という。三国と並ぶくらいで、新明国より全然低い。本当……? http://t.co/dsFAMzuoYh

2014-02-10 00:04:47
西練馬 @nishinerima

近年の辞書売上をどうカウントするかは難しい問題。いわゆるポータブルの電子辞書(専用機)に最もよく搭載されているのは広辞苑だろう。だが今やその手の電子辞書は下火で、ネットのフリー辞書やスマホのアプリの方が隆盛。アプリのDL数はわかるが、フリー辞書の利用者数なんて正しい計数は至難だ

2014-02-10 00:10:01
西練馬 @nishinerima

印象としては、オンラインで無料で使える大辞泉や大辞林のシェア(使用率)は、紙の辞書・電子辞書を全て視野に入れてもかなり高いのではないかと思うが、そもそも同じ土俵に載ってないもん(紙と電子)の比較には無理があるような気もする……

2014-02-10 00:12:24
西練馬 @nishinerima

電子辞書が「紙の辞書をコンピュータ上に再現したもの(に毛が生えたもの)」であるのだって、どうせ今だけだ。今後は同じタイトルを冠していても、書籍版と電子版でおよそ異なる使い方をされる、性質の違った辞書になっているということは十二分に有り得る。と言うか、そうなるしかない

2014-02-10 00:15:33